***
「……だから、その話は母さんのところへ行ってくれって!」
俺は机に突っ伏しながら、小声で必死に訴えていた。けれど相手は聞いちゃいない。
(息子に謝りたいんだ……)
机の下から、青白い男が両足を掴んでくる。
(妻に通帳の場所を――)
「知らん!」
(犬のポチに会いたい……)
「知らんってば!」
最近、やたらと幽霊に絡まれる。通学路や学校、そして家でも。気を抜くと、どこからともなく現れて俺に話しかけてくる。正直、かなり迷惑だ。怖いとか以前に、単純に心臓に悪い。
俺はもともと、お化け屋敷すら苦手なタイプ……なのに、どうしてこんなことになっているのか。理由はわりと単純だ。つい最近、霊能力に目覚めてしまったばかりの、半人前霊能者だからである。もちろん、こんな能力を知られたら面倒なことになるのは目に見えている。
面白がられるか、気味悪がられるかのどっちかだ。だから俺は、できる限り隠していた……はずだった。
(やっぱり、見せるべきじゃなかった……)
今さら後悔しても遅い。
教室の中で、俺は小さく体を縮こませていた。振り返るクラスメイトたちの視線が、これでもかと突き刺さってくる。
ことの発端は、二週間後に迫った学園祭の話し合いだった。
「なぁなぁ、他のクラスがやらない企画にしないか?」
誰かがそう言い出す。すると一番前の席にいた岡田が、勢いよく手を挙げた。
「だったらさ、季節外れだけど――本物の霊能者を使った企画ってどうだ?」
教室が一気にざわつく。そして岡田が、にやりと笑った。嫌な予感がした。いや違う、これは予感じゃない――確信だ。
「実はさ。三神って、すっげぇ霊能者なんだよ!」
(ああ、終わった……アイツ言いやがった)
クラス中の視線が、一斉に俺へ向く。俺は最後列の席で、完全に公開処刑状態になった。
岡田は俺を気にする様子もなく、斜め後ろにいる同じ写真部の鈴木に目配せする。鈴木が立ち上がり、説明を始めた。
「この前さ、写真部でコンテスト用の写真を校内で撮ってたんだよ。そしたら、その内の一枚に幽霊が写っててさ」
教室が「おおっ」とざわめく。
「それで三神の家って、霊障相談とかやってるだろ? だから相談したんだ」
そこから岡田が引き継ぐ。
「そしたらさ! 三神本人に霊能力があるって言うじゃん。俺たちの前で華麗に除霊してくれてさ!」
満面の笑みで言い切った。
「三神が数珠をこう――バッ! って出した瞬間!」
岡田が謎のポーズを取る。
「部屋がぶわぁぁって白い霧に包まれて! 霊が『ギャアアア!』って叫んで!」
いやいや、誰も叫んでない。
「最後に三神がこう言ったんだ!」
格好よく、教壇をビシッと指差す。
「――成仏しろ!」
悪いが俺は、何も言ってない。「いってらっしゃい」って、心の中で静かにお祈りしていただけなのに。
「マジで、めちゃくちゃカッコよかった!」
……いや言っておくが、お前らの前で除霊なんてしてない。正しくは浄霊で、あの時はただ必死だっただけだ。
「三神、そんな能力あったのか!?」
「ねぇ私に、何か憑いてない?」
「占いとかもできる?」
次から次へと質問が俺になされる。しかしながら、何一つ答えられない。ズリ落ちたメガネを直しつつ、口をパクパクするだけ。
そんなカオスを、担任が止めた。
「はいはい、静かに。今は、クラスの出し物を決める時間です」
そして淡々と言った。
「岡田の案に賛成の人は、挙手をしてください」
――ほぼ全員が手を挙げた。俺以外……。
この学校の学園祭は、ちょっと特殊だった。一番人気になったクラスには、理事長がパーティ費用を全額出してくれる。だから全クラス、本気で勝ちにくる。普通の出し物じゃ、まず勝てない。
つまり――俺はクラスの切り札にされてしまった。
「俺、まだ浄霊しかできない半人前なんだけど……」
弱々しく言ったが、誰も聞いていない。
『イケメン霊能者、ここに降臨! ってコンセプトでどう?』
(いやいや、イケメン枠なのか俺……)
『もし本物の幽霊が来たらヤバくない?』
(その時は、俺が一番先に逃げる)
『全部、三神にかかってるぞ!』
熱い視線が、一斉に俺に向く。もう断れる空気じゃない。俺はげんなりしながら、机に突っ伏した。
(これ……母さんを呼んだ方が早い気がする)
俺は泣きそうになりつつ、そんなことを思った。
こうして、俺の霊能者デビュー(強制)が決まったのだった。
「……だから、その話は母さんのところへ行ってくれって!」
俺は机に突っ伏しながら、小声で必死に訴えていた。けれど相手は聞いちゃいない。
(息子に謝りたいんだ……)
机の下から、青白い男が両足を掴んでくる。
(妻に通帳の場所を――)
「知らん!」
(犬のポチに会いたい……)
「知らんってば!」
最近、やたらと幽霊に絡まれる。通学路や学校、そして家でも。気を抜くと、どこからともなく現れて俺に話しかけてくる。正直、かなり迷惑だ。怖いとか以前に、単純に心臓に悪い。
俺はもともと、お化け屋敷すら苦手なタイプ……なのに、どうしてこんなことになっているのか。理由はわりと単純だ。つい最近、霊能力に目覚めてしまったばかりの、半人前霊能者だからである。もちろん、こんな能力を知られたら面倒なことになるのは目に見えている。
面白がられるか、気味悪がられるかのどっちかだ。だから俺は、できる限り隠していた……はずだった。
(やっぱり、見せるべきじゃなかった……)
今さら後悔しても遅い。
教室の中で、俺は小さく体を縮こませていた。振り返るクラスメイトたちの視線が、これでもかと突き刺さってくる。
ことの発端は、二週間後に迫った学園祭の話し合いだった。
「なぁなぁ、他のクラスがやらない企画にしないか?」
誰かがそう言い出す。すると一番前の席にいた岡田が、勢いよく手を挙げた。
「だったらさ、季節外れだけど――本物の霊能者を使った企画ってどうだ?」
教室が一気にざわつく。そして岡田が、にやりと笑った。嫌な予感がした。いや違う、これは予感じゃない――確信だ。
「実はさ。三神って、すっげぇ霊能者なんだよ!」
(ああ、終わった……アイツ言いやがった)
クラス中の視線が、一斉に俺へ向く。俺は最後列の席で、完全に公開処刑状態になった。
岡田は俺を気にする様子もなく、斜め後ろにいる同じ写真部の鈴木に目配せする。鈴木が立ち上がり、説明を始めた。
「この前さ、写真部でコンテスト用の写真を校内で撮ってたんだよ。そしたら、その内の一枚に幽霊が写っててさ」
教室が「おおっ」とざわめく。
「それで三神の家って、霊障相談とかやってるだろ? だから相談したんだ」
そこから岡田が引き継ぐ。
「そしたらさ! 三神本人に霊能力があるって言うじゃん。俺たちの前で華麗に除霊してくれてさ!」
満面の笑みで言い切った。
「三神が数珠をこう――バッ! って出した瞬間!」
岡田が謎のポーズを取る。
「部屋がぶわぁぁって白い霧に包まれて! 霊が『ギャアアア!』って叫んで!」
いやいや、誰も叫んでない。
「最後に三神がこう言ったんだ!」
格好よく、教壇をビシッと指差す。
「――成仏しろ!」
悪いが俺は、何も言ってない。「いってらっしゃい」って、心の中で静かにお祈りしていただけなのに。
「マジで、めちゃくちゃカッコよかった!」
……いや言っておくが、お前らの前で除霊なんてしてない。正しくは浄霊で、あの時はただ必死だっただけだ。
「三神、そんな能力あったのか!?」
「ねぇ私に、何か憑いてない?」
「占いとかもできる?」
次から次へと質問が俺になされる。しかしながら、何一つ答えられない。ズリ落ちたメガネを直しつつ、口をパクパクするだけ。
そんなカオスを、担任が止めた。
「はいはい、静かに。今は、クラスの出し物を決める時間です」
そして淡々と言った。
「岡田の案に賛成の人は、挙手をしてください」
――ほぼ全員が手を挙げた。俺以外……。
この学校の学園祭は、ちょっと特殊だった。一番人気になったクラスには、理事長がパーティ費用を全額出してくれる。だから全クラス、本気で勝ちにくる。普通の出し物じゃ、まず勝てない。
つまり――俺はクラスの切り札にされてしまった。
「俺、まだ浄霊しかできない半人前なんだけど……」
弱々しく言ったが、誰も聞いていない。
『イケメン霊能者、ここに降臨! ってコンセプトでどう?』
(いやいや、イケメン枠なのか俺……)
『もし本物の幽霊が来たらヤバくない?』
(その時は、俺が一番先に逃げる)
『全部、三神にかかってるぞ!』
熱い視線が、一斉に俺に向く。もう断れる空気じゃない。俺はげんなりしながら、机に突っ伏した。
(これ……母さんを呼んだ方が早い気がする)
俺は泣きそうになりつつ、そんなことを思った。
こうして、俺の霊能者デビュー(強制)が決まったのだった。
