アイドルの君へ伝えたいことー配信アイドルの僕が、本物のアイドルに恋をした—

 これ、覚えてないやつじゃん。

 本当に許可もらったの?

「ああ! はいはい。覚えてる! いつも話してる子ね」

「そうだよ。今日も許可取ったの覚えてなかったの?」

「…いや、そんなことはないよ」

 城内さんは目を逸らした。

「城内さん、しっかりしてくださいよ」

 英くんはもうと言いながら、肩をバシッと叩いた。

「初めまして。マネージャーの城内(じょうのうち)です。長谷川悠生くんだよね。話は聞いてますよ」

 城内さんはにこりと口角を上げて、おしゃれな黒縁眼鏡に髭が生えていた。

 少し高そうなきっちりとした白ワイシャツにグレーのスラックスを履いていた。

「はぁ」

 僕はため息まじりに吐く。

「長谷川くん、いいね。アイドルに向いてるよ。身長も高いし、眼鏡して分かりにくいけど、顔立ち整ってるし。君、本当いいね。そ
うだよね。うんうん」

 城内さんは顎に手をつけて僕の顔をマジマジと屈みこんで、見てくる。

 僕はのけぞり、苦笑いを浮かべた。

「城内さん。そこまで。悠生を困らせないでよ」

 困っている僕を見て、英くんは城内さんに割って入った。

「はいはい、ごめんごめん」

 両手を上にあげてから、城内さんは謝った。

 それでも僕を見ているので、英くんは肩を叩いた。

 観念したのか「分かったから」と城内さんは言って、僕を眺めるのをやめた。

「ごめんね、悠生。城内さんはいい人材を見つけるとさ、熱くなってずっと喋り続けるか
ら。城内さん、案内してよ」

 英くんは城内さんに目配せをした。

「はいはい。じゃあ、長谷川くん。今からレッスン場見に行くんだけど。長谷川くんにお
願いがあるんだ」

 にこりと優しく微笑んで、僕にお願いをしてきた。

「…なんでしょう?」 

 僕は首を傾げて、聞き返す。

「長谷川くんから見て、今のアイドルってどう映ってるかなって。長谷川くんの意見を聞
けたらと思って」

 腕を組んで、城内さんはゆっくりと言ってきた。

「……それは一般人な僕視点でということですか?」

 なぜ僕にそんなお願いをするのかが謎だった。

 僕は大学生。

 配信アプリで自称アイドルをしている一般市民だ。

 僕じゃ、意見にならない。

 城内さんの返答に困っていると、英くんが僕の耳元で囁いた。

「配信アプリで自称アイドルってことは城内さんには言っていないから安心して。だから、
悠生が思っていること言えばいいから」

 英くん。

 僕が自称アイドルをしていることは言っていないのか。

 じゃあ、本当に僕から見た視点で言っていいってことか。

「そう。英くんからはね。いつも長谷川くんの話聞いてたから。長谷川くんに頼みたいと思ったんだ」

 英くんが僕のことを話す?

 なにを?
         
 ちらりと英くんを見ると、照れくさそうに頬をかいていた。

「まぁ、とにかく長谷川くんの意見を聞いてみたいんだ。あ、こっちにいるから。今から
案内するね。橙羽も一緒に。あと、レッスンするから、それを見てほしいんだ」

 僕はまだ返事していないが、城内さんは話を進めていた。

 ここまで来たからには、もうやるしかないと思い、城内さんの後ろについていった。

「あのさ、僕のことなにを話したの?」

 前には城内さんがいるので、静かに歩きながら英くんに言う。

「あ、いや……うーん」

「…答えられないことなの? 僕のこと、なに話したの?」

 僕は立ち止まり、なぜか返答に困っている英くんにまた問いかける。

「え…いや……あ…その…」

 左右に目を泳がして英くんはそのまま立ち尽くしていた。

 僕と英くんが立ち止まっているのに気付いた城内さんは「おーい、早く!」と言って、手をこっちこっちと手招きをしていた。

「え、はい。行こう、悠生」

「…うん」

 結局、英くんからは僕のなにを話していたのか聞けなかった。

 なに、話してたんだろう。

 僕のこと、そんな話すことない。

 いつも話していたって…

 僕はそれが気になって、しょうがなかった。

 心の奥底から沸々と黒いものが出てきて、胸に手を当てて、深呼吸をした。

 自分自身を落ち着かせた。