アイドルの君へ伝えたいことー配信アイドルの僕が、本物のアイドルに恋をした—

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 俺は今日、千世に会えた。

 千世…悠生は暗くて、誰とも打ちとけにくい印象はある。

 眼鏡で隠されているけど、どことなく光が放っていて、後ろから見える横顔は綺麗で、
見ていても飽きなかった。

 千世と分かったのは、一ヶ月前のことだった。

 俺が心理学の授業を受けていた時、目に入ったのは悠生の顔つきだった。

 いつも下を向いているのに、授業になると前をただ見つめて真剣に聞いている。

 その姿が頭から離れなかった。

 授業が一緒なのは、心理学の授業だけだった。

 俺は朝一番の授業に遅れることは度々あった。

 前日はダンスレッスンだったり、バイトとイベントが重なることもあった。

 どんなに眠くても、俺は心理学の授業だけは必ず早起きした。

 かなりギリギリな時間で来ることもあった。

 でも、必ずそこには、彼がいた。

 ――長谷川悠生が。

 名前を知ったのは、教授がフルネームで呼んでいたからだ。

 教授は受講している生徒にはフルネームで呼ぶ。

 ここの大学でも一風変わった先生というカテゴリー化されている。

 そのおかげで、本名を知れたので教授には感謝している。

 最初は名前を知れてよかったと思った。

 授業がある度、俺は話したいという欲が強まっていった。

 俺は話しかけるタイミングを窺っていた。

 そんな時、アイドルの勉強するために配信アプリを覗いた。

 いつもは大体、インスタやTikTokを見ている。

 最近は配信アプリもアイドルが使っていると聞いたので、アプリをダウンロードした。

 配信アプリの検索キーで“アイドル”と打った。

 一番に引っかかったのは、千世(ちよ)という自称アイドルであった。

 タップすると、プロフィール欄が書かれていた。

 千世(ちよ) 自称アイドル。

 歌・ダンスしたり、好きなことを語ってい
ます★😊

 男性だ。

 メイクも勉強してる。

 アイラインの引き方やアイシャドウのつけ方がうまい。

 これはかなりメイクの知識も知っているし、歌・ダンスもそこらのアイドルよりも上手だ。

 俺もダンスや歌は自信があるのに、千世には負ける気がする。

 千世を知ってから、毎日の配信を楽しみにしていた。

 二十三時ジャストにいつも配信するので、それまでにレッスンなどあれば、時間がある
時にアーカイブで見た。

 話し方も歌・ダンスもすべてが俺にないものを持っていた。

 ある時、千世が長谷川悠生と分かったのは、千世のメイクが少し薄くなっていたからだ。

 千世はいつも大体フルメイクだが、この時だけなぜかあまりメイクをしていなかった。

 身元がバレないのか人ごとなのに心配になった。

 一瞬、横顔が画面に映された時、俺は心理学の授業で見ている長谷川悠生だと分かった。

 配信アプリで見た微笑みも、授業で見た姿と全く同じだった。

 俺の目に疑いの余地はなかった。

 絶対、この人だと確信があった。

 俺にないものを持っているこの人が、俺の現実世界に存在している。

 俺はこの上なく嬉しかった。

 思わず夜遅いのに、うぉーと大きい声で叫んでしまった。

うるさくしすぎたのか隣のアパートの住民にドンドンと叩かれてしまった。

「すいません」

 隣の住民には聞こえないはずだが、反射的に反応した。

「よし、長谷川悠生に話しかけよう」

 一人で決意表明を口にして、心理学の授業になるのを待ち遠しく過ごした。

 数日後、心理学の授業になった日、俺はやっと話しかけた。
                   
 その日から、俺は尊敬なんて言葉じゃ足りなくなった。

 俺の世界は、もう長谷川悠生しかいなかった。