「橙羽」
「なに?」
「元気ないじゃん」
メンバーの柚元が俺を心配して、声を掛けてきた。
「別に」
俺は素っ気なく答えると、辻本が突っかかてきた。
「あ、長谷川くんでしょ。会えてないの?」
「コンサート近いから会えてない」
「練習したって、会えばいいじゃん。なんで会わないの?」
俺が一言発すると、えーとつまらなさそうに辻本は胡坐をかいて言う。
「コンサート終わってから会うって決まってるから」
「橙羽がこんなに頑なってことはなんかあるんじゃないのかな」
柔宮は辻本の肩をポンと叩き、落ち着かせていた。
「…そうだ。もしかして、告白したのか」
意外にも固蔵が俺の図星をついてきた。
「なっ、なんで」
俺は動揺を隠せない。
「えー? 当たってんの? 固蔵。久しぶりに橙羽のこと当てたね。何年ぶりだよ」
柚元は大きい声で手を叩いて、笑っていた。
「十億年ぶり?」
固蔵は真顔な表情で冗談をかましていた。
そのツッコミにメンバー一同、爆笑した。
冷静な固蔵が笑いに変えていたので、俺は笑みが零れた。
「あ、やっと笑った?」
固蔵は俺を指さして、柔らかく微笑む。
「あ、もしかして、橙羽の笑うところ見たかったんでしょ」
辻本は固蔵の脇をくすぐり、この~とちょっかいを出していた。
「…さぁ?」
固蔵は辻本のちょっかいに屈せず、首を傾げていた。
体育座りをしていた固蔵は何もなかったように立ち上がった。
「これから、チラシ配りだよね」
固蔵はメンバーを見渡して、立ち尽くしていた。
「ああ、そうだね。行こうか。みんなも行くよな」
俺は立ち上がり、他のメンバーに声を掛ける。
「行くに決まってるよ」
柚元は両手でハートを作り、アイドルスマイルをしていた。
「もちろん、行くよ。行こう、行こう」
辻本は柚元の肩を回して、イェーイと騒ぎ始めた。
「はいはい、行くよ」
辻本を慰めながら柔宮は先に出て、近くにあったチラシを他のメンバーに渡していた。
「ありがとう。じゃあ、行きますか」
俺が一声を掛けると、メンバーは「イェス」と元気よく答えて外に出た。
俺たち、STELLA(ステラ)は地元のアイドルで人気は少々ある。
でも、まだ地元アイドルを認められていないのも現実だ。
今はSNSがあるが、それでは宣伝効果にはあまりならない。
コンサートがある前は、駅前でメンバー全員で通りかかる人に声を掛けて、チラシを配る。
まぁ、受け取ってくれる人は少ないけど。
午後のお昼くらいだと人が賑わうので、大きい声でチラシをもらってくれそうな人に渡す。
だけど、みんな頭を軽く下げて、通り過ぎる。
「はぁ」
俺はため息を吐いて、休憩をした。
「あともう少しだから頑張ろう」
柚元は俺の肩をポンと置き、少し疲れた表情をしていたが、欠かさず、スマイルは崩さない。
さすがだ。
俺も見習わないとな。
自分自身を励まして、チラシ配りを再開した。
チラシ配りが終わり、SNSに載せるため、ダンス動画を撮った。
無事終わってから、家でゆっくりと休んだ。
俺はスマホを指紋認証で開いてから、悠生の連絡先を開く。
「したいけど、できないな」
俺は目を瞑って、スマホを閉じた。
返事なんて、期待しても無駄だと思うけど、どうしても悠生が俺のことが好きだと錯覚してしまう。
好きなんじゃないかって。
違うのかな?
不安と心配でコンサート所ではなくなっているが、アイドルたるものしっかりしなくちゃ、よし。
俺は早めに寝た。
勿論、自称アイドル千世を見てから。
目を瞑って、誰もいない世界へと誘う。



