アイドルの君へ伝えたいことー配信アイドルの僕が、本物のアイドルに恋をした—

 翌日、大学に行くために、準備を整えた。

「行ってきます~」

「え? もう行くの?」

 母さんがリビングからひょこっと顔を出して、玄関先にいる僕に声を掛けた。

「……行くよ。一時限から授業あるから」

僕は母さんに手を振って、ドアを開けた。

「え~、朝ご飯はいいの?」

母さんは外を出た僕に大声で叫んでいた。

 僕、長谷川悠生(はせがわはるき)、十九歳。

 天空大学の文学部の大学生。

 今から授業。

 そのために、僕は歩いて大学へと向かう。

 家からは歩いて、十五分。

 家を出ると、すぐ坂がある。

坂を上っていくと、まっすぐな道が続いている。

そこを歩いてから、また坂がある。

もうひとつの坂を上れば、天空大学にたどり着く。

「ふぅ、相変わらず、坂きついな」

足を強く踏み出しながら、大学に着いた。

「今日…はどこだっけ?」

一時限目の講義は心理学だった。

大学二年生で必須科目がたくさんあった。

取らないと、卒業をすることもできない。

僕はあまり授業を受けるのは好きじゃない。
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だけど、本は好きで、本の文章の意味や考え方を論理的に考えている授業が好きだ。

まぁ、科目としては、『文学論』という授業が好きなだけだけど。

あとは、テストに影響が出ないほどに勉強をしている。

一時限目の心理学の授業では、自分が座る位置を決めている。

僕は大教室に入ると、左側の真ん中付近のポジションに座っている。

ここだと、右側から人も見えるし、先生の位置からは、何をしているか見えにくい。

真面目に授業を受ければいい話だが、授業を受けている人を見ながら、ぼんやりと話を聞くのが割と好きだ。

僕は学校に行くときは、ナチュラルメイクをして、黒縁眼鏡をかけている。

もちろん、伊達メガネだ。

配信アプリで自称アイドルとして活動していることは誰も知らない。

今のところ、身バレの心配はない。

でも、今の時代、SNSやAI など、いろいろな媒体がある。

なにを見て楽しんでいるかは、人それぞれ違う。

そういう危険性もあるので、僕は一応、変装をしている。

まぁ、これが本当の僕だけど、配信者としての方が僕らしさを感じる。

変装という言葉が僕にはしっくりくる。

「はい、授業です」

大学の教授がピンクのポロシャツと細みのブラウンパンツを着ている。

いつもの服装だ。

大学の教授は、この大学の中でも変わり者だ。

ボサボサ頭にいつも重いリュックを背負って授業に来る。

なにを考えているのか分からないが、授業の内容は面白みがあり、人気がある。

教授が来たので、大学生たちはいそいそと鞄にスマホをしまい、テキストとルーズリーフを出して、ペンを取る。

意外にもみんな真剣に聞いている。

聞かないと、テストの評価が下がってしまうからかもしれないが、みんな興味津々で授業を受けていた。

僕は教授の言葉を聞きながら、ルーズリーフにメモをする。

その間に、僕は誰かに見られていることにも気づかず、教授の言葉だけを聞いていた。

「…へぇ、あの子か。俺が探していたものあった」

緑色髪で両耳にはピアスをして、シルバーのネックレスをしていた。

チャラそうな男はにやりと口角を上げて、頬杖をついていた。

僕は緑色髪の男と出会わなかったら、こんな自分がいたなんて考えもしなかったと思う。

緑色の髪をした男の熱を帯びた視線から、目を逸らせない。

まるで、僕の奥底まで覗き込まれているようだった。

その目に、胸の奥が騒ぎ始めた。