アイドルの君へ伝えたいことー配信アイドルの僕が、本物のアイドルに恋をした—

「…どこに行くの?」

 路地を出て、どこかに向かう英くんに尋ねる。

「ここだよ」

 英くんの後ろを僕はついていき、ズボンから紙を取り出して、僕に差し出す。

「…これは?」

「今からアイドルのライブあるから行こう」

「今から?」 

 今は一三時。

「一三時半からあるから、見に行こう」

「アイリス広場?」

 チラシに書いている場所はアイリス広場と記載があった。

「ここから近いの?」

 英くんは速足で駆けていたので、ついていくので精一杯だった。

「うん、そう。歩いたらすぐ広場あるから、少し急ぐよ。悠生」

「あ、うん」

 僕に伝えたら、少しゆっくりとした足取りになった。

 僕がついていけていないことを知って、急いでいるのに僕のペースに合わせてくれた。

「英くん、ありがとう」

 隣にいた英くんに口角をあげて、伝える。

 僕の言葉を嬉しそうに噛みしめて、「うん」と素っ気なく返事をしていた。

 十分後、アイリス広場に着いた。

 広場には年齢問わず女性ファンが沢山いた。

 広場の奥では缶バッチ・タオル・鞄などのアイドルグッズ販売をしていた。

 グッズ販売には列が並んでいて、あと五分で販売は終わるのかスタッフが「ここの列で終わりになります〜!」と叫んでいた。

 みんな笑顔でグッズメニューを見て、何しようとファン同士で悩みながらも買っていた。 
 
 グッズを買って嬉しそうに手に取って、アイドルのライブを待っている人がいた。

 みんな、推しているアイドルのライブを心待ちにしていた。

 それを見て、僕は「すごいね」と感嘆の声を上げた。

「そうでしょ。俺たちのライバルであり、仲間のluna(ルーナ)。男性アイドルで同時期デビューした。俺たちのグループも人気だけど、Lunaも同じくらい人気なんだ」

 英くんは誇らしげに語り、仲間を応援していた。

 本当にアイドルが好きなんだな。

 僕は隣で英くんの横顔を見て、顔をほころびた。

 横顔を見ていたら、lunaのライブが始まるのかスタッフがアナウンスの声が聞こえた。

「皆さん、お待たせしました。今から、lunaのライブが始まります。では、lunaによるパフォーマンスです。どうぞ」

 アナウンスの声とともに、lunaが出てきた。

「皆さん、こんにちは!」

『こんにちは!』

「僕たち、lunaです。よろしくお願いします。早速、新曲を披露したいと思います。新曲“悦び”」

 Lunaのメンバーの金髪が挨拶したあと、曲が流れ、ダンスと歌が広場全体で響き渡る。

 ファンは新曲にコールを交えながら、タオルを回していた。

 僕はその光景に呆気をとられた。

「本当ね、lunaはなんだかんだ完璧ですごいんだよな。でも、俺たちの方が上手いけどね」

 鞄から帽子を取り出して、深く被って、ファンの中に紛れ込んだ。

 英くんもアイドルだしな。

 ばれてもおかしくない。

 みんな、lunaに夢中で英くんがいることなんて見ていなかった。

「英くんはさ、アイドルになんでなろうと思ったの?」

 僕は唐突に英くんに聞く。

 なぜかlunaを見ていて、聞きたくなった。

 僕の声にlunaから僕の方に顔を向けて、目が合う。

「俺はね、誰かを楽しませたいんだよ。だから、今ライブ見ていてもワクワクが止まらない」

 Lunaの新曲「悦び」の盛り上がりが最高潮に達していた。

 英くんのワクワクは表情からも伝わってくる。

 ほんと、好きなんだな。

「そっか」

「だから、こうして悠生とアイドルの話出来て嬉しい。ライブも見れて、本当に嬉しい!」

 英くんは僕の顔を見て、満面な笑みを浮かべていた。

 再びライブに目を向けて、英くんは手を振っていた。

 それにlunaのメンバーが気づいたのか、他のメンバーに目配せをして、手を振り返していた。

「そっか」

 僕は首を縦に振って、返事をした。

「悠生。だから、俺のステージを見てほしい。これ以上のステージにさせる。俺たちのステージが終わったら、返事が欲しい」

 また僕の顔を向き直して、歌にかき消されないように僕に耳打ちをしてきた。

「…返事?」

 くすぐったくて僕は赤くなっている耳をつまみながら、戸惑いを隠すように答える。

「そう。告白の返事。忘れたってことないよね」

 英くんは僕が告白のことを忘れていると思っている。 

 確かに、そうだ。

 いつも通りに英くんと話している。

 女子大学生数人が僕たちを見ていることが分かる前は、僕はどうしたらいいか分からなく、英くんとちゃんと話が出来るのか不安があった。

 しまった。

 僕としたことが、英くんから告白されたんだった。

 女子大学生数人が僕たちを見ていたことに動揺したり、lunaのライブですでに頭から抜け落ちていた。

 言われたことを思い出して、僕はそっぽを向き、頬を赤らめた。

「…思い出した? ちゃんとした告白したんだよ、俺」

 ライブ中なので英くんは僕が聞こえるように、ずっと耳元で話しかけてくる。

 囁かれるたび、僕は目を泳がせながら、答えていた。

 僕の表情に気づいている英くんは優しく笑いかける。

 この顔、ズル過ぎる。

 ううっと心の中で疼いていると、lunaのライブは終わった。

 拍手とともに僕は隣にいる英くんをチラリと見たら、穏やかにlunaを拍手で称えていた。

 大勢の人が歓声をlunaに向けている時、僕たちはお互いを見合わせて制止した。

 時が止まったように僕たちは動けなかった。

 いや、動くことだってできたのに、したくなかったんだ。

 Lunaのライブは歓声の渦で大盛況だった。

 いつの間にか、人がいなくなっていた。

 僕たちは人が帰っていく声で我に返り、少し離れた距離で帰っていた。

「…じゃあ、待ってる。俺、明日からコンサートの準備で忙しくなるから、連絡できない。コンサートまで会えないけど、俺、悠生のこと考えてるから安心して。じゃあ」

 英くんは言いたいことを僕に伝えてから、広場の前で別れた。

 僕は英くんの背を見つめたまま、何も言い表せない想いで心は押し潰れそうになる。

 自分の胸を手で押さえて、下を向いて呟く。

「もう…会いたくなってる、僕」

 膝が崩れ落ちて、その場でしゃがみ込んだ。

 なぜか今にも泣きそうになった。

 さっきまで会話していたのが嘘のように、英くんの表情が地面越しで写り込む。

 胸が熱くなるほど、苦しい。

 英くんを見ないだけでも、息が詰まって苦しい。

「僕、もう……好きなんだ」

 改めて、僕は英くんの気持ちに気づいた。

 もう取り繕うことができない。

 ――英くん。

 僕、好きだよ。