アイドルの君へ伝えたいことー配信アイドルの僕が、本物のアイドルに恋をした—

      *

「……なっ」

 僕は両手にリュックを持ち、下を向いたまま速足で駆けた。

「ほんと、なんなの」

 独り言を呟きながら、僕は下ばかり見ていた。

 足元を見ずに駆けていたので、足が絡んで、転んでしまった。

「痛っ…」

 僕は一人焦って、なにをテンパってるんだ。

 英くんにあんなことされただけで、胸の高鳴りが収まらないとか乙女かって。

 本当にこの気持ちは今までにないくらいに痛い。

 僕は上半身を起こして、そのまま座りこんだ。    
                 
 英くんにとって、僕が必要。

 それも言われただけで涙が出そうになった。

 大学の構内で会う前から、英くんは僕の言葉で救われたって。

 じゃあ、僕は自称アイドルの千世じゃなくて、悠生の僕として必要だってことだよね。

 本当に?

 僕でいいの? 本当に。

 地面に座り込んで、顔を両手で覆って自分の手を見た。

 涙が手についていて、英くんに言われたことは本当だと泣いて気づいた。

 僕はやっと起き上がり、家路に着こうと歩き出す。

「僕が僕でいいのか」

 一歩踏み出した時に、僕はフッと思ったことをポツリと言った。

 じゃあ、自称アイドルの千世としての僕も受け入れるってことなのかな。

 僕自身を見てくれた英くん。

 英くんから見た僕は自称アイドルの千世とはまた別なのかな。

 また自分自身のことを考えて、一人で足がすくんで動けない。

 考えたってキリがないじゃないか。

 でも、考えてしまう。

 僕が思っていたことと違う答えがあるんじゃないかと疑ってしまう。

 それがいけないことだと分かっているのに。

 どうしても考えてしまうんだ。

「しっかりしろ、僕」

 僕は頬を叩きつけた。

 よし! と大きい声で自分に気合を入れてからまた歩いた。

 僕が僕として、認められたんだからいいじゃないかと。

 自分のことを認めようと必死に自分自身の心の中で説明をした。

 家に着くと、すぐさまベッドでダイブをして倒れ込んだ。

 もう、何もしたくない。

 それでも、自称アイドル千世は年がら年中アイドルだ。

 弱さとか悲しみは一切見せない。

 憧れのアイドルだ。

 配信時間までには僕自身をしまい込み、自称アイドル千世のモチベーションを高めておかないと。

 一時間、ベッドに枕を顔に付けて、目を閉じたまま横になった。

 それから、ごはんやメイクをして、夜二十三時になった。

 いつもの時間にいつもの少し濃いメイクに変身する。

 咳払いをしてから僕は画面越しにある配信ボタンを押して、自称アイドル千世になる。

「はい、お待たせしました。千世です。皆さん、お元気ですか? ああ、そうだよね。地域によっては雨でしたよね。皆さんが元気になるような歌、届けますね。では」

 僕は即興の歌を作り、歌った。

 リスナーからは“相変わらず、お上手ですね”“いつも癒されてます”などと肯定的なコメントが寄せられた。

 その中で、一つなぜか謝っているコメントがあった。

“今日はゴメン”

 そのコメントを見て、すぐアイコンを確認する。

 そのアイコンは緑髪の後ろ姿だった。

 これは、英くんだ。

 僕はそのコメントに動揺を隠せない。

 今までコメントてしてこなかったのに、今日僕が急に英くんの元に去ったからか。

 そんなことを考えていると、コメントが数十件きていた。

“大丈夫?”

“どうしたの? 今日疲れてる。千世”

“元気出して!”

“千世”

コメントを見て、僕は我に返る。

「あ、ゴメンね。大丈夫。じゃあ、今日は最旬のメイクの話をするね」

 最旬のメイクの話をしてから僕はいつもの雑談を交えて、配信を終えた。

 一瞬、固まってしまった。

 素の僕が出てしまった。

 反省だ。

 自称アイドルの千世として出てるのに。

 謝罪のコメントを見た瞬間、すぐ感じ取ってしまった僕はもうどうにかしている。

 メイクを落とさずに、またベッドにダイブする。

 すると、スマホのバイブ音が震えた。

 スマホはベッドの横の小さいテーブルに置いていたので、手だけでスマホを探した。

 スマホがあったので手にして、指紋認証をして通知画面を開く。