「ねぇ、最近、イキイキしてない?」
話しかけてきたのは、配信アプリで知り合った女友達の美月(みつき)。
美月は相談相手であり、理解者だ。
僕は美月に図星をつかれ、事の経緯を話す。
配信アプリのビデオチャットで英くんと出会ってからのことを全部話した。
「なにそれ。いいじゃん。あたしも会って話したいわ、地元のアイドルとか見たことないから」
「いいのかな? 僕さ、千世を知ってる人、美月以外で初めて会ったけど。すごい尊敬されてるんだよね。なんでだろう」
僕は頬杖をついて、画面越しの美月に言う。
美月はうーんと唸ってから、言葉に出した。
「悠生は、千世になるために相当努力したよね。知り合って、話聞いて感動したもん。ほんと、悠生が尊敬されるのは分かる。共感しかない」
「えー、そうかな。僕普通のことやってるんだけどな」
僕は机にある小学校の頃に落書きしたものを見つめて言う。
「その普通が普通じゃないんだよ。悠生。だから、マネージャーさんにもプロ―モーションのアイデア考えてって言われたんだよ」
美月はいいな~とチェアをのけ反り、僕を羨ましがっていた。
「…でもさ、なんで僕に任されたんだろう。配信アプリで自称アイドルやってること知らなかったし」
「え? 絶対知らないふりしてるだけで知ってると思うよ。それはさすがに」
机にはお菓子の袋があるのか大量な袋が見えた。
じゃがりこを手にして、美月は口に入れていた。
「…いや…一般人の僕からって…」
僕は考え込んだ。
「それは口実で。本当は千世を知ってるから、頼んじゃないの? それしかありえないよ」
美月はそうだよと断言した。
そんなこと、ないとは言えない。
僕自身じゃなくて、自称アイドルの千世のことがほしかったんだ。
「……そうだよな」
「悠生はさ、英くんのことどう思ってんの?」
急に美月は聞いてきた。
じゃがりこを食べ終わったのか、手元にあったティッシュを手にして言う。
「…え? なにどうした」
「どうしたじゃないよ。聞きたくなるよ。だって、話聞く限り、英くんのこと好きなように聞こえるよ」
美月が言っていることに俺は言葉を失った。
はぁ? なんて言った?
「美月、もう一度言って。なんて?」
僕はもう一度美月に聞き返した。
信じられなかったから。
僕にとって、好きというものはない。
ないはずだよね…僕。
「だから…英くんのこと好きなの?」
美月は少しイラついた様子で言い、画面越しで僕に指をさしながら眉を顰めていた。
「好き? 僕が英くんのこと?」
僕は美月の言葉に動揺し、声がうわずる。
「そう、さっきからそう言ってんの。どうなの?」
鏡を見ながら、瞼と眉毛をシートで拭き、メイクを落としながら、僕に言ってきた。
「どうって…特に好きと言われれば、好きに近いけど…うーん」
僕は返答に困り、首を傾げた。
「…ふぅ……」
美月はシートで拭き終わったのか、天井を見上げていた。
どうしたんだろうと考えながら、僕は画面を眺めていると、急に美月のドアップ顔が画面に現れた。
「悠生! なに言ってんの! マジで」
美月は何故か机にバンっと叩きつけて、声を荒げた。
「ど、どうしたの?」
僕は声の大きさに驚き、肩を震わせた。
「どうしたのじゃないよ! 分かんないの!悠生はね、好きなものになると、口が早くなるんだよ。気づいてない? 今、巻き戻しして見せたいよ」
ため息を吐いて、頬杖をついて下を向いた。
「…そうかな。そんなことないよ。僕は英くんのことは会って間もないけど、すごいなと思うよ。本当のアイドルってすごいんだなって。僕が慣れない場所に行っても、僕がいやすいようにしてくれたり、僕が頼みやすいようにメニュー開いてくれるし。こんなに楽しませてくれる人はいないよ」
僕は英くんと話をするようになってから、気持ちが明るくなったような気がする。
自分の中にある重い荷物が軽くなった感覚がある。
なんでかは分からないけど。
認めてくれる存在がいるからなのかもしれない。
嬉しかった。
でも、結局は自称アイドルの千世でしか見てくれない。
その、悔しさがある。
僕は悲しくなり、黙った。
「ほら、ここまで言う悠生って、珍しいじゃん! 悠生?」
美月は僕の様子がおかしいのに気づき、僕を呼び止める。
「…ゴメン、美月。今日はここで。また、連絡する」
「え? ちょっと、悠生」
美月からの呼びかけに気づいていたが、僕は通話ボタンを一方的に切った。
チェアをのけ反ってから、頬杖をついて深いため息を吐いた。
なに、僕は浮かれてるんだ。
そんなんじゃない、僕じゃない。
見ているのは、自称アイドルの千世。
そうだよ、僕じゃない。
本来の僕を見ていない。
一人、自分の部屋で涙の渦が止まらなかった。
渦が巻き起こって、止まらなく、あやうく巻き込まれそうになる。
涙が止まらず、僕はいつのまにか机で突っ伏して寝てしまった。



