「なんですか?……それ?」
眉間に深く皺を寄せた新が、こちらを見てくる。
「ん?これ?推しグッズなんだけど…」
新のパン屋のレシートをラミネートして、ボールチェーンに吊るした物と、ものすごく遠くから写した新の写真をモノクロにして、業者にアクリルキーホルダーとして発注した物。
俺のサブバックに付いてる、超オリジナルのグッズだ。
「いやいや、なんか、頭オカシイですよ…なんで、うちのパン屋のレシート」
アクリルキーホルダーがまさか自分だとは、気付いていないようだ。
頭がおかしいとは
「失敬な…」
推し活とは、なんぞや?をネット検索した結果、色々と自分でもグッズを作る事が出来ると分かって、これは楽しい!!となってるところだ。
「そんなにパンが好きなんですか?」
「まぁ、うん。そういう事だな、うん」
推しに推される事になった新は、意外と鈍いので、俺が推してる事をずっと気付かぬままという事も、あり得そうだが…
気付かれるまでは、敢えて言うつもりは無い。
推すという事は、相手が認知していなくても推すものだと、ネットで読んだし、そもそも、俺のファンと同じスタンスでいきたい。
ふと気になって、新に聞いてみる
「新の推し活ってどんな感じ?」
「それ、僕に聞きます?」
まぁ、よく考えてたら、自分の推しから、どのように推してるんだ?なんて聞かれても、答えに困るか。
新の場合は、アイドルの俺を推してるのであって、一個人、角南 流生を推してはいない!と言ってるが。
「あーそうだよな。じゃ、LIVEは?どのLIVEが良かったとかある?」
「行った事ないんです…あの、うち、そんなに裕福ではなくて…ていうか、俺、ばぁちゃんの手伝いがあるから…でもライブの円盤なら持ってます」
要するに、おばちゃんの仕事の手伝いを放り出してまでは、行けない…って事か。
LIVE一回の費用は高くて無理だけど、LIVEの円盤なら買えるので…そっちを買って、何回も何回も観てますけど…と、ポソッと付け加えた。
ちょっと待て、何回も観るとか嬉しいし、非常にいじらしいけど、じゃ、なんで俺のチケットは受け取らなかったんだ???
そうか、結局のところ、おばあちゃんの手伝いの為か…
確かにLIVEは、土日祝の昼間。
しかも、開場から閉場までは、4時間程になる。
完全に店の忙しい時間と重なる。
あのイベントは、1時間ほどだったし、平日の夕方だった。
「なぁ…今度、俺らの練習を観に来ないか?」
「行かないです」
「即答すんなよ、新」
俺の振り絞った提案は、サラリと拒否られた。
「夕方だし、学校終わりのちょっとだけ…なぁ、ファンじゃなくて、友達として、な?どう?ダメ?友達だろ?最近…俺、不調でさ…気分乗らなくて。ちょっと応援して欲しいんだよな…」
「うーん…」
あとひと押しか?
「俺も、新の店、手伝ってるじゃん。ちょっと俺のことも助けてよ」
「分かりました…いつですか?」
よし。
姑息だが、情に訴える作戦が成功した。
ちょっと、友達って部分を強調し過ぎた気もするが…
ガードの堅い新を落とすには、コレかな?って思ったのだ。
「明日、どう?」
「良いですよ、水曜の夕方なら、店があまり混まないので…」
「ありがとな!」
「いや、御礼言われるものじゃないですし、むしろ、僕の為に提案してくれたんですよね?」
バレてたらしい、そういうとこは、ちゃんと聡いのか。
単純に来て欲しかっただけだ…という言葉は、しっかりと飲み込んだ。
ウキウキしながら、放課後を待ち、チャイムの音と共に教室を飛び出した。
教室まで呼びに来るなんて、そんな悪目立ちしそうな事は、絶対に勘弁してくれ…と訴えられたので、渋々、下駄箱で待ち合わせた。
既に、待ってる新を見つけた。
後ろ姿でも分かるとは、俺もなかなかのモンだ。
彼の細い肩をトンと叩き
「行こう!」
二人で歩き出した。
数歩進んだところで立ち止まった新。
「本当に良いんですか?ファンが…練習見るとか、掟破りだと思うんです。ちょっと怖いんですけど…」
「友達なんだろ?」
「でも、僕は、正真正銘…オルタナティブのファンで……イルのファンです」
言われた言葉を噛み締め、なんだか、ジワリと胸が熱くなった。
「舞台に立つ前、練習中は、角南 流生だから、大丈夫!メンバーも同じ、練習中は個人!」
親指をグッと立てる俺に、苦笑いの彼は
「分かりました…諦めて付いて行きます…」
そう言うと、一歩踏み出してくれた。
二人で電車に揺られ、スタジオまで歩いた。
20分ほどの道のりは、他愛も無い話をしている内に、あっという間に着いてしまった。
「多分、既に皆んな揃ってるから…」
「えっ?!」
逃げようとする新の手を素早く取り、スタジオの扉を開けた。
最初に駆け寄ってきたのはリーダーだった。
「よう、天使の登場だな」
新は、両手を口元に当て、顔を真っ赤にしてる。他のメンバーも次々にやってきて、立ち尽くす可愛いファンを囲む。
「いくつ?中学生じゃないよね?」
「なんでイル推しなの?俺に推し変しなよ」
「握手しよう」
「いらっしゃい」
次々に話しかけられて、新は、震え始め、ついには、ポロリと泣き出してしまった。
俺に対するツンデレ対応とは、大違いだ。
「あっ、あの…ずっと応援しております。歌もダンスも、本当に…素敵で。では失礼します」
「失礼しないよ」
くるりと後ろを向いて踵を返そうとする新を捕まえたのは、リーダーだった。
こっちに座ってね…っと、小さなテーブルの上には、お菓子がずらりと並べられ、ジュースも数種類用意されてあって、大歓迎な特等席へと座らされた。
いつの間に、こんな事を…
俺は『明日、友達を連れてく』ってLINEをリーダーにしただけなのに。
「ハイハイ、緊張させてるみたいだから、みんなは、こっち来る!怖く無いからね、そこから観てたら良いよ」
リーダーの上級アイドルスマイルに、新が顔を一層赤くしたのを見て、なんだかイラっとした。
準備運動を念入りにするのは、元アスリート揃いのうちのチームだからこそ。
怪我をしない為に、そこは大事にしてる。
小一時間のそれをつまらなく思ってないかと、新を見ると、真剣な眼差しで、こちらを見ていた。
そろそろ…と音楽をかけ、リズムに合わせて踊る。
自分達の曲だけでは無く、各種色んなアーティストの曲を踊るのも、ダンスに色を持たせる為だ。
途中の休憩に、新に声をかける。
机の上のお菓子は手付かずで
「お菓子、あんまり好きじゃないのか?好みのが無かったか?」
「あっ?え?いえ、ちょっと皆さんを観ることに集中してて…」
「つまんなくないか?」
「滅相もない」
「そっか…俺は?観てくれた?」
その質問に、新は…俯いてしまった。
実は、しっかりと彼の視線は感じていたのに、意地悪く聞くなんて…俺もなかなかだな。
「別に…そんなに観てません…けど。でも、まぁ、カッコイイとは思いますよ、先輩も」
ツンデレとは、こういう事なのかもな…
真っ赤になりながら、観てないと言われても説得力は無いが、新なりのファンとしてのルールがあるみたいなので、それ以上突っ込む事はやめた。
「遅くなるかもしれないから、トキさんに、連絡しとけよ」
「いつのまに、ばぁちゃんの名前を…」
「おばあちゃんって呼ぶのもオカシイから、聞いたんだよ…教えてくれたよ?普通に」
ちょっとむくれた顔も可愛い新は、今日は、もしかしたら、遅くなるかも…と既に伝えてあるという。
途中、新の存在も忘れるほどに練習に熱が入り、終わりと同時に、倒れ込んだ。
息は切れ、滝のように流れる汗が気持ち良い。
いつも、充実してるけど、やはり、一人でも観客が居ると、皆んなの熱量が上がる。
そして、その熱風に巻き込まれて、俺も全力を出してしまった。
夜ご飯を新も一緒に皆んなで食べて、ついでに家まで送ると言うリーダーに
「そんな事は、絶対に絶対に!許されません。他のファンに申し訳なさ過ぎて、僕には無理です。断るなんて恐れ多いとは思いますけど…ですが、100%無理です」
断固として断るので、俺は新と一緒に帰る事にした。
「また来てね〜」
「待ってるよ」
メンバーに見送られ、ペコペコと頭を下げる新の手を掴んで外へ出た。
なんで、メンバーに嫉妬なんてしてんだよ…俺は。
帰り道を歩き始めてすぐ新が口を開く。
「先輩、今日はありがとうございました。あの、良かったら、晩御飯、うちで食べてってください。ばぁちゃんが、角南先輩のも作るって言ってたんで…」
「え?まじ?トキさんの手料理かぁ〜嬉しいなぁ」
ふっくらしてて、和み系おばあちゃんのトキさんは、俺の癒しでもある。
リーダーからの食事の誘いは、頑なに断って、俺をご飯に誘ってくれた事は、単純に嬉しかったが、メンバーへの反応があまりにファンの姿過ぎて、ご飯に誘われた事を喜んで良いのか、悲しんでいいのか一瞬分からなくなる。
それでも、断る選択肢は無いので、喜んでお邪魔する事にした。
「よくきてくださって〜」
「こちらこそ、夕飯、ご馳走になります!」
きっちりと90度のお辞儀をする俺。
三人で囲む食卓は、家族団欒そのもので
「いつもは二人だけなのに、今日は見目も麗しい流生さんが居て嬉しいわ」
なんて言うトキさんの言葉に、家族4人の我が家とは違う二人だけの食卓を想像し、少しだけ切なくなる。
「いつでも、お邪魔じゃなければ…呼んでください」
俺の言葉に、新は
「先輩は大変忙しいでしょうし、ばぁちゃんは朝が早いから、また、数ヶ月後にでも、お願いします」
そっけなく言われる。
その言葉も、逆を返して言えば、俺の分を作るとトキさんの負担も増えるし、俺自身の活動の邪魔になる…とか、色々考えての返しだと、今は分かる。
実は、新は、ものすごく気遣いのオトコだ。
前は、言葉を額面通りに取っていた俺の馬鹿さを、今は悔いている。
新の言葉の奥の奥には、色んな人を気遣い、自分の事を後回しにしてきた故の隠された感情がある。
表情が乏しいように見えて、実は押し込めているだけだし、出さないように…と反対方向の努力をしているようだ。
これらは、彼を推すようになって、俺が気付いた事。
そして、そういう内面が分かってから、更に彼を推す気持ちが膨れ上がっている。
「洗い物は俺にさせてください」
俺は食べ終わった皿を持ち、立ち上がる。
「じゃ、僕はお茶を…」
トキさんは、そんな俺らをニコニコ顔で見ていた。
新は湯を沸かし、俺は洗い物を始める。
二人で並んで台所に立っていると、なんとなくニヤけてしまって…
「ちょっと…それ、思い出し笑い…ですか?」
「いや、なんか、新婚さん…みたいだなと思って」
「まったくもう、何言ってるんですか!!!ほんとに…角南先輩は、バカなんですか?!」
怒ったように顔を赤らめる新の言葉には、一切説得力が無い。
「照れんなよ」
俺が笑うと
「もう、先輩のお茶だけ淹れませんよ!」
「ヤダヤダ、淹れてよ〜」
そんなやり取りをしつつ、俺は、二人の距離感がかなり縮まった事に喜びを覚えた。
最初の頃に比べたら、こんな軽口を叩き合えるようになったし、新の反応は可愛いくて仕方ない。
「明日も来よっかな〜」
「来ないでください」
拒否られたとしても、全く気にならない。
なんだかんだで、俺に甘いという事は、知ってる。
ふたりで並んで、くすぐったいようなやり取りを、毎日でもしたいと思ってる自分がいた。
眉間に深く皺を寄せた新が、こちらを見てくる。
「ん?これ?推しグッズなんだけど…」
新のパン屋のレシートをラミネートして、ボールチェーンに吊るした物と、ものすごく遠くから写した新の写真をモノクロにして、業者にアクリルキーホルダーとして発注した物。
俺のサブバックに付いてる、超オリジナルのグッズだ。
「いやいや、なんか、頭オカシイですよ…なんで、うちのパン屋のレシート」
アクリルキーホルダーがまさか自分だとは、気付いていないようだ。
頭がおかしいとは
「失敬な…」
推し活とは、なんぞや?をネット検索した結果、色々と自分でもグッズを作る事が出来ると分かって、これは楽しい!!となってるところだ。
「そんなにパンが好きなんですか?」
「まぁ、うん。そういう事だな、うん」
推しに推される事になった新は、意外と鈍いので、俺が推してる事をずっと気付かぬままという事も、あり得そうだが…
気付かれるまでは、敢えて言うつもりは無い。
推すという事は、相手が認知していなくても推すものだと、ネットで読んだし、そもそも、俺のファンと同じスタンスでいきたい。
ふと気になって、新に聞いてみる
「新の推し活ってどんな感じ?」
「それ、僕に聞きます?」
まぁ、よく考えてたら、自分の推しから、どのように推してるんだ?なんて聞かれても、答えに困るか。
新の場合は、アイドルの俺を推してるのであって、一個人、角南 流生を推してはいない!と言ってるが。
「あーそうだよな。じゃ、LIVEは?どのLIVEが良かったとかある?」
「行った事ないんです…あの、うち、そんなに裕福ではなくて…ていうか、俺、ばぁちゃんの手伝いがあるから…でもライブの円盤なら持ってます」
要するに、おばちゃんの仕事の手伝いを放り出してまでは、行けない…って事か。
LIVE一回の費用は高くて無理だけど、LIVEの円盤なら買えるので…そっちを買って、何回も何回も観てますけど…と、ポソッと付け加えた。
ちょっと待て、何回も観るとか嬉しいし、非常にいじらしいけど、じゃ、なんで俺のチケットは受け取らなかったんだ???
そうか、結局のところ、おばあちゃんの手伝いの為か…
確かにLIVEは、土日祝の昼間。
しかも、開場から閉場までは、4時間程になる。
完全に店の忙しい時間と重なる。
あのイベントは、1時間ほどだったし、平日の夕方だった。
「なぁ…今度、俺らの練習を観に来ないか?」
「行かないです」
「即答すんなよ、新」
俺の振り絞った提案は、サラリと拒否られた。
「夕方だし、学校終わりのちょっとだけ…なぁ、ファンじゃなくて、友達として、な?どう?ダメ?友達だろ?最近…俺、不調でさ…気分乗らなくて。ちょっと応援して欲しいんだよな…」
「うーん…」
あとひと押しか?
「俺も、新の店、手伝ってるじゃん。ちょっと俺のことも助けてよ」
「分かりました…いつですか?」
よし。
姑息だが、情に訴える作戦が成功した。
ちょっと、友達って部分を強調し過ぎた気もするが…
ガードの堅い新を落とすには、コレかな?って思ったのだ。
「明日、どう?」
「良いですよ、水曜の夕方なら、店があまり混まないので…」
「ありがとな!」
「いや、御礼言われるものじゃないですし、むしろ、僕の為に提案してくれたんですよね?」
バレてたらしい、そういうとこは、ちゃんと聡いのか。
単純に来て欲しかっただけだ…という言葉は、しっかりと飲み込んだ。
ウキウキしながら、放課後を待ち、チャイムの音と共に教室を飛び出した。
教室まで呼びに来るなんて、そんな悪目立ちしそうな事は、絶対に勘弁してくれ…と訴えられたので、渋々、下駄箱で待ち合わせた。
既に、待ってる新を見つけた。
後ろ姿でも分かるとは、俺もなかなかのモンだ。
彼の細い肩をトンと叩き
「行こう!」
二人で歩き出した。
数歩進んだところで立ち止まった新。
「本当に良いんですか?ファンが…練習見るとか、掟破りだと思うんです。ちょっと怖いんですけど…」
「友達なんだろ?」
「でも、僕は、正真正銘…オルタナティブのファンで……イルのファンです」
言われた言葉を噛み締め、なんだか、ジワリと胸が熱くなった。
「舞台に立つ前、練習中は、角南 流生だから、大丈夫!メンバーも同じ、練習中は個人!」
親指をグッと立てる俺に、苦笑いの彼は
「分かりました…諦めて付いて行きます…」
そう言うと、一歩踏み出してくれた。
二人で電車に揺られ、スタジオまで歩いた。
20分ほどの道のりは、他愛も無い話をしている内に、あっという間に着いてしまった。
「多分、既に皆んな揃ってるから…」
「えっ?!」
逃げようとする新の手を素早く取り、スタジオの扉を開けた。
最初に駆け寄ってきたのはリーダーだった。
「よう、天使の登場だな」
新は、両手を口元に当て、顔を真っ赤にしてる。他のメンバーも次々にやってきて、立ち尽くす可愛いファンを囲む。
「いくつ?中学生じゃないよね?」
「なんでイル推しなの?俺に推し変しなよ」
「握手しよう」
「いらっしゃい」
次々に話しかけられて、新は、震え始め、ついには、ポロリと泣き出してしまった。
俺に対するツンデレ対応とは、大違いだ。
「あっ、あの…ずっと応援しております。歌もダンスも、本当に…素敵で。では失礼します」
「失礼しないよ」
くるりと後ろを向いて踵を返そうとする新を捕まえたのは、リーダーだった。
こっちに座ってね…っと、小さなテーブルの上には、お菓子がずらりと並べられ、ジュースも数種類用意されてあって、大歓迎な特等席へと座らされた。
いつの間に、こんな事を…
俺は『明日、友達を連れてく』ってLINEをリーダーにしただけなのに。
「ハイハイ、緊張させてるみたいだから、みんなは、こっち来る!怖く無いからね、そこから観てたら良いよ」
リーダーの上級アイドルスマイルに、新が顔を一層赤くしたのを見て、なんだかイラっとした。
準備運動を念入りにするのは、元アスリート揃いのうちのチームだからこそ。
怪我をしない為に、そこは大事にしてる。
小一時間のそれをつまらなく思ってないかと、新を見ると、真剣な眼差しで、こちらを見ていた。
そろそろ…と音楽をかけ、リズムに合わせて踊る。
自分達の曲だけでは無く、各種色んなアーティストの曲を踊るのも、ダンスに色を持たせる為だ。
途中の休憩に、新に声をかける。
机の上のお菓子は手付かずで
「お菓子、あんまり好きじゃないのか?好みのが無かったか?」
「あっ?え?いえ、ちょっと皆さんを観ることに集中してて…」
「つまんなくないか?」
「滅相もない」
「そっか…俺は?観てくれた?」
その質問に、新は…俯いてしまった。
実は、しっかりと彼の視線は感じていたのに、意地悪く聞くなんて…俺もなかなかだな。
「別に…そんなに観てません…けど。でも、まぁ、カッコイイとは思いますよ、先輩も」
ツンデレとは、こういう事なのかもな…
真っ赤になりながら、観てないと言われても説得力は無いが、新なりのファンとしてのルールがあるみたいなので、それ以上突っ込む事はやめた。
「遅くなるかもしれないから、トキさんに、連絡しとけよ」
「いつのまに、ばぁちゃんの名前を…」
「おばあちゃんって呼ぶのもオカシイから、聞いたんだよ…教えてくれたよ?普通に」
ちょっとむくれた顔も可愛い新は、今日は、もしかしたら、遅くなるかも…と既に伝えてあるという。
途中、新の存在も忘れるほどに練習に熱が入り、終わりと同時に、倒れ込んだ。
息は切れ、滝のように流れる汗が気持ち良い。
いつも、充実してるけど、やはり、一人でも観客が居ると、皆んなの熱量が上がる。
そして、その熱風に巻き込まれて、俺も全力を出してしまった。
夜ご飯を新も一緒に皆んなで食べて、ついでに家まで送ると言うリーダーに
「そんな事は、絶対に絶対に!許されません。他のファンに申し訳なさ過ぎて、僕には無理です。断るなんて恐れ多いとは思いますけど…ですが、100%無理です」
断固として断るので、俺は新と一緒に帰る事にした。
「また来てね〜」
「待ってるよ」
メンバーに見送られ、ペコペコと頭を下げる新の手を掴んで外へ出た。
なんで、メンバーに嫉妬なんてしてんだよ…俺は。
帰り道を歩き始めてすぐ新が口を開く。
「先輩、今日はありがとうございました。あの、良かったら、晩御飯、うちで食べてってください。ばぁちゃんが、角南先輩のも作るって言ってたんで…」
「え?まじ?トキさんの手料理かぁ〜嬉しいなぁ」
ふっくらしてて、和み系おばあちゃんのトキさんは、俺の癒しでもある。
リーダーからの食事の誘いは、頑なに断って、俺をご飯に誘ってくれた事は、単純に嬉しかったが、メンバーへの反応があまりにファンの姿過ぎて、ご飯に誘われた事を喜んで良いのか、悲しんでいいのか一瞬分からなくなる。
それでも、断る選択肢は無いので、喜んでお邪魔する事にした。
「よくきてくださって〜」
「こちらこそ、夕飯、ご馳走になります!」
きっちりと90度のお辞儀をする俺。
三人で囲む食卓は、家族団欒そのもので
「いつもは二人だけなのに、今日は見目も麗しい流生さんが居て嬉しいわ」
なんて言うトキさんの言葉に、家族4人の我が家とは違う二人だけの食卓を想像し、少しだけ切なくなる。
「いつでも、お邪魔じゃなければ…呼んでください」
俺の言葉に、新は
「先輩は大変忙しいでしょうし、ばぁちゃんは朝が早いから、また、数ヶ月後にでも、お願いします」
そっけなく言われる。
その言葉も、逆を返して言えば、俺の分を作るとトキさんの負担も増えるし、俺自身の活動の邪魔になる…とか、色々考えての返しだと、今は分かる。
実は、新は、ものすごく気遣いのオトコだ。
前は、言葉を額面通りに取っていた俺の馬鹿さを、今は悔いている。
新の言葉の奥の奥には、色んな人を気遣い、自分の事を後回しにしてきた故の隠された感情がある。
表情が乏しいように見えて、実は押し込めているだけだし、出さないように…と反対方向の努力をしているようだ。
これらは、彼を推すようになって、俺が気付いた事。
そして、そういう内面が分かってから、更に彼を推す気持ちが膨れ上がっている。
「洗い物は俺にさせてください」
俺は食べ終わった皿を持ち、立ち上がる。
「じゃ、僕はお茶を…」
トキさんは、そんな俺らをニコニコ顔で見ていた。
新は湯を沸かし、俺は洗い物を始める。
二人で並んで台所に立っていると、なんとなくニヤけてしまって…
「ちょっと…それ、思い出し笑い…ですか?」
「いや、なんか、新婚さん…みたいだなと思って」
「まったくもう、何言ってるんですか!!!ほんとに…角南先輩は、バカなんですか?!」
怒ったように顔を赤らめる新の言葉には、一切説得力が無い。
「照れんなよ」
俺が笑うと
「もう、先輩のお茶だけ淹れませんよ!」
「ヤダヤダ、淹れてよ〜」
そんなやり取りをしつつ、俺は、二人の距離感がかなり縮まった事に喜びを覚えた。
最初の頃に比べたら、こんな軽口を叩き合えるようになったし、新の反応は可愛いくて仕方ない。
「明日も来よっかな〜」
「来ないでください」
拒否られたとしても、全く気にならない。
なんだかんだで、俺に甘いという事は、知ってる。
ふたりで並んで、くすぐったいようなやり取りを、毎日でもしたいと思ってる自分がいた。

