推し、振られる

俺達は友達になった…と思う。
ほぼ毎日のようにお昼ご飯を一緒に食べ、時々、俺は新のパン屋を手伝う。
「手伝いは有難いですけど、くれぐれもアイドル活動に支障をきたさないようにしてください」
行く度にキツく言われる言葉。


この間、廊下でクラスメイトらしき男と居るのを見かけた時、新は笑顔だった。
何を話してるのかは、分からないが、朗らかに笑って会話をしていた。
ムッとする自分に気付いて、学年下の奴に嫉妬するなんて、アホらしい…と思ったけど、やっぱり癪に障る気持ちに変わりは無くて。

俺の前での新は、いつも、距離を取る努力をし、むしろバリアを張ろうと必死な感じだから、笑顔もすぐに消してしまう。
俺にも普通にしてくれたら良いのに…
なんでだ?
そんな事をぼんやりと考えてたら…

ふと……俺を、ものすごく特別だと思っているから?
意識して特別だからこそ、あんな反応になるなのかもしれない…と気付いた。
一度、考えがそこに至ってしまうと、もう、今までの新の反応全てが、そうだと思えてくる。
なんだか、新の中身を暴こうとしてるみたいで…考えを進めていいのか迷ったが、一度、気付いてしまうと、止められなかった。

私生活は推さない!と明言していた彼だが、一緒に居るうちに分かったのは、線引きを非常に意識してるが故に、本当は俺に対して興味があるということ。
俺が自分の話をすると、一瞬止まるのだ。
その後すぐに、興味のない素振りにすり変わるが。
分かりやすい反応なのに、本人は、隠せていると思っている。
ちゃんと新を見ていれば、彼の感情は、思ったよりも読み取れた。



「よっ!」
「どうも…」

既にお昼を食べ始めていた新を見つけ、声を掛ける。
いつも通りの薄い反応も、彼の本心を考えると、逆に何か特別な物に見えてくる。

ドカりと横に腰を下ろすと、新の顔色がいつもより青白く、目の下のクマを発見した俺は、心配になり
「寝不足か?体調悪いのか?」
聞くと、ギクリとしたように新の表情が強ばった。

「いや、別に…ちょっと夜更かししただけで…」
「しっかり寝ないとダメだぞ」
「だって…昨日、公式からの供給が凄くて…」
ボソボソと言う新の言葉を聞いて、反芻した。コウシキからのキョウキュウ…
あ!そういえば、昨日、新しいMVが解禁されて、それについて前撮りしたグループの雑談やインタビューも同時解禁したんだった。

もしかして、それを見てて…寝不足?
ちょっと…おい、可愛いじゃねぇか…
内心で身悶えながら、隣をチラッと見ると、前を向いてパンを咀嚼しながらも、新の赤い
耳が目に入る。
思わず、見てはならない物を目撃してしまったようで、俯いた俺は急いで弁当の蓋を開けた。
うわっ、今日…苦手なブロッコリーが入れられてる。
嫌いなのを知ってるが、母は容赦なく、1ヶ月に1回程度は、コイツを入れてくる。

はぁ…と思わず溜息をつくと
「どうかしたんですか?」
こちらを向いて怪訝な顔をする。

「あ、いや…うー、苦手なんだよね…ブロッコリーがさ……」
子供みたいな好き嫌いがかっこ悪くて、言い淀むと。

「そういえば…そうですね」
さすが、俺のファンだ。
プロフィールに書いてある事は知ってるという事か。

「僕、食べましょうか?」
「良いの?やった!サンキュ」
残して帰ると次の日もまたブロッコリーが入れられるので、エンドレスブロッコリーを防ぐ為、いつもお茶で流し込むんだけど…
救世主現る!

「はい」
嬉しくて、箸で新の口の目の前にブロッコリーを差し出す。
えっ?って顔で見られて初めて、これってアーンってヤツじゃん…と気付く。
新は戸惑いつつも、俺のブロッコリーを、はむっと食べた。

「平気?不味くない?」
「いや、普通のブロッコリーですよ」
彼はそのまま前を向いてしまった。
いつも通り反応に、なんだ…推しからのアーンとか痺れる〜とか無いのか…なんて、残念に思っていると、新の唇が、への字に曲がってるのが分かった。

「もしかして、ニヤけ無いように無理してんの?」
つい、クスクスと笑ってしまった。
「そんなっ!!そんな事ありません!!」
プリっと怒ってソッポを向いてしまった。
でも、立ち去る訳ではない所をみると、そこまで怒っては無さそうだ。

「ねぇねぇ、新。もう、無理しなくていいんじゃないの?俺の事、推してるんでしょ?」
「いいえ!!角南先輩を推してはいません!」

相変わらずの頑なさが、可愛いとまで感じてしまう。
普段一緒に居る時の彼と、あのイベントで泣いていた彼が、ごく稀に重なる時もある。
自制しようとしてる所が、いじらしく思える程に、実は、新の感情は漏れ出ていたりする。


ダンス練習中の休憩時間、思い出してニヤニヤしていると
「お前、気持ち悪い顔してるぞ…アイドルなのに」
と、他のメンバーから引かれた。

さっきも、リーダーを掴まえて、新につい熱く語っていたら
「お前、完全にファンみたいな事、言い出したな…こわっ」

そうか…
俺、推しが出来るのなんて初めてだから、こんな感じなのか…って気付いた。
寝ても覚めても、彼の顔が頭に思い浮かび、子を持つ母のように健康面を心配し、会えた時は、一気に体温が上昇する。
見た事の無い表情を魅せられると、感情が爆発しそうになり、心の動画ボタンを押す。

そうか、俺、人生初の推しが出来たんだ!!
リーダー気付かせてくれてありがとう!!

「推し活か〜隠し撮りして、団扇とか作った方が良いかな…」
なんてブツブツ言ってると、リーダーが、マジで気持ち悪い…って呟いた。

とりあえず…
ツーショット写真が欲しい…と思って、ふと、ファンが握手会とかツーショット写真会に来てくれる気持ちが分かった。

待てよ、これって、これからの活動にも生かせるんじゃないか…?
ファンの気持ちの分かるアイドルとして…

加速する気持ちをストップしなくていいという事か。
俺の推し活の扉は開いたらしい。