「いえ、要りません」
「は?えっ?要らない…?」
90度の綺麗なお辞儀の後、さっさと去っていった後ろ姿を、呆然と眺めた。
いや、待て、なんで俺が振られたみたいになってんだ?!
ーーーーーー
俺、角南 流生は、高校に通いながら、アイドルグルー プ “オルタナティブ” のメンバーの1人として活動している。
別にアイドルになろうと夢を描いて叶えた思なんて訳ではなく、3つ歳上の姉が、面白がって大手の事務所の公式オーディションに応募した結果…
あれよあれよと一次通過、二次通過、最終選考に残り。
そして、アイドルグループのメンバーとして選ばれた。
高校1年生の春だったので辞退する選択もあったけど、何事も経験よ〜部活代わりにすれば?なんて呑気な母が言い。
どうせデビューなんて出来ないだろうから、やってもやらなくても…と適当な父が言い。既に応募した事も忘れる程の勢いで興味を失い、自分の趣味の世界に没頭中の身勝手な姉からは、アドバイスの一言も無く。
学業に支障が無ければ芸能活動も可能だと学校からのお許しは出てしまい。
流れるように生きる。
まさに、流生の名前の通りに…名は体を表すとは、この事。
流されて生きている今の俺。
確かに昔から女子の人気はあったし、男子からは、モテて良いよな…なんて言われ。
でも、俺には、良いよな…の意味が分からなかった。
特に好きでも無い女子から、日々、多種多様な手紙を貰い、何かのおまじないだからって、いつの間にか自分の鉛筆や消しゴムがファンシーな物に入れ替わってたり、これは虐めなのか?と思って友達に相談したら、モテて良いなと言われる。
何が良いんだ?
全く分からなかった。
女好きで、取っかえ引っ変えにでも出来たら良かったんだけど…
そこだけは少女漫画ヒロインみたいに、付き合うなら本当に好きな人と…
なんてセンチメンタルに思ってる俺は、大モテ人生を送っているのに、高校生にもなってお付き合いした人数ゼロ。
そんな俺がアイドル…か。
むしろ、プライベートが赤子のようなクリーンさに、事務所の選考担当から、頼むから断らないでくれ…と涙ながらに訴えられたのが、アイドルへの入口になったかもしれない。
俺以外の他のメンバー達4人は、皆が完全なる体育会系で、スポーツ少年の集まりだった。
各々小学生からやっていたというサッカーや野球などチームプレイの猛者が集結した結果、異様なスピードでチームの絆が深まっていった。
グループ名も、“〇〇スポーツ少年団”にでも変えたら良いのにと思うほど。
みんながひたむきで、根は真面目、やる気に溢れ、努力が好きという鬼メンタル集団に、俺も流されるように染まっていった。
歳が一番若い俺は、メンバー達が総出で可愛がってくれた。
全員大学生なので、お兄さんが沢山出来たようで、偏屈な姉しか居ない俺は、正直嬉しかった。
部活をする時間帯でアイドル活動をしているから、規則正しい生活も出来ているし、有名難関大学所属の我らがリーダーが勉強も教えてくれて、なんなら、成績が下がるどころか、上がったくらいで、母がとても喜んだほどだ。
グループのイベントやライブも夜では無く、土日や祝日の昼に開催されるというのがパターンなんだが、そこら辺も事務所が俺を、大人ではなく普通の高校生として見てくれてるのが分かって…
なんだか優遇されてるみたいで申し訳ないと零すと、マネージャーから、学業優先の高校生を預かる時は、事務所の方針として、無理なスケジュールは組まない!と決めてる事だから、心配しなくていいと言われた。
そうまでして、俺を入れてくれた事に対して、期待を裏切ってはならないというプレッシャーは、確実にあった。
ダンスが得意という訳では無くて、唯一、歌は多少の自信があったが、歌の上手い人間なんてこの世に数え切れない程、存在する。
とにかく足を引っ張りたくない一心で、今も、必死で歌もダンスも頑張っているところだ。
高2の春にデビューしてから一年。
俺は高校3年生となった。
ファンクラブの会員数は増えに増え、日々着実に人気を出している…とマネージャーが、ホクホクの笑顔で教えてくれた。
今日は、新しいアルバムの発表イベントを行う事となり、貸切の劇場に、公募に当たった一部のファンを呼んでいる。
座席いっぱいのファンの姿を袖から見ていると、女性ばかりの会場には、男性は数える程しか居ない。最前列に、ちょこんと1人だけ男がいた。
年齢は高校生くらいに見える。
手には俺の写真が大きくプリントされ、メンカラの青いファーが付けられた団扇を持っている。
推しは俺か。
悪くない気分だった。
男のファンがつくというのは、実力がある証拠みたいで、単純に嬉しかった。
その子を更に観察していると。
手には手作りなのだろうか、少し歪な形の毛糸のぬいぐるみ。
これも青い色で、多分…猫?
プロフィールなどには載せて無いが、俺がウチの愛猫の話を公式のYouTubeで、時々してるからか…
よく観てるという事なのか。
その子自身は、身長は低くなくスラリとしていて、パッと見は、どこにでも居そうだが、独特の雰囲気を持っていた。
言うなれば、天使顔。
純真無垢という文字を人間にAI生成してもらったら、こうなるのかな?って顔。
何となく目が彼の方へ、いってしまう。
「おい、行くぞ」
リーダーに声を掛けられてハッとした。
俺たちが壇上に上がると、静かだった空間が一気に揺さぶられた。
会場全体からの声援に圧倒される。泣いてる子も居るし、こんなにも大きな渦が出来るのかって程の熱狂に、緊張が増した。
順番にマイクを向けられ、何を言おうと思っていたのか忘れてしまった。
「あ。えっと…」
焦って、空を彷徨う視線が、最前列の彼に留まる。祈るようにも、期待するようにも見えるその表情に、すっと落ち着く自分が、分かった。
「今回のアルバムは、ステージを魅せる為の曲とは別に、ファンの方々と一緒に歌えるような曲もあります。是非、一緒に楽しんでください」
拍手を受け、視線をスっと上に向ける。
天井のライトを見ていると、まるで自分に向かってくる光を浴びている感覚になり、背筋が伸びた。
会場を後にするとき、三度、最前列の彼を見た。
どうしてそんなに彼の事が気になるのかは、自分でも分からなかったが、目線が向いてしまう。
彼は…泣いていた。
手作りであろう、毛糸のぬいぐるみを、ギュッと握りしめ。
俺の写真付き団扇がフルフルと震えている。
来てくれてありがとうって、心の中で呟いた。
「は?えっ?要らない…?」
90度の綺麗なお辞儀の後、さっさと去っていった後ろ姿を、呆然と眺めた。
いや、待て、なんで俺が振られたみたいになってんだ?!
ーーーーーー
俺、角南 流生は、高校に通いながら、アイドルグルー プ “オルタナティブ” のメンバーの1人として活動している。
別にアイドルになろうと夢を描いて叶えた思なんて訳ではなく、3つ歳上の姉が、面白がって大手の事務所の公式オーディションに応募した結果…
あれよあれよと一次通過、二次通過、最終選考に残り。
そして、アイドルグループのメンバーとして選ばれた。
高校1年生の春だったので辞退する選択もあったけど、何事も経験よ〜部活代わりにすれば?なんて呑気な母が言い。
どうせデビューなんて出来ないだろうから、やってもやらなくても…と適当な父が言い。既に応募した事も忘れる程の勢いで興味を失い、自分の趣味の世界に没頭中の身勝手な姉からは、アドバイスの一言も無く。
学業に支障が無ければ芸能活動も可能だと学校からのお許しは出てしまい。
流れるように生きる。
まさに、流生の名前の通りに…名は体を表すとは、この事。
流されて生きている今の俺。
確かに昔から女子の人気はあったし、男子からは、モテて良いよな…なんて言われ。
でも、俺には、良いよな…の意味が分からなかった。
特に好きでも無い女子から、日々、多種多様な手紙を貰い、何かのおまじないだからって、いつの間にか自分の鉛筆や消しゴムがファンシーな物に入れ替わってたり、これは虐めなのか?と思って友達に相談したら、モテて良いなと言われる。
何が良いんだ?
全く分からなかった。
女好きで、取っかえ引っ変えにでも出来たら良かったんだけど…
そこだけは少女漫画ヒロインみたいに、付き合うなら本当に好きな人と…
なんてセンチメンタルに思ってる俺は、大モテ人生を送っているのに、高校生にもなってお付き合いした人数ゼロ。
そんな俺がアイドル…か。
むしろ、プライベートが赤子のようなクリーンさに、事務所の選考担当から、頼むから断らないでくれ…と涙ながらに訴えられたのが、アイドルへの入口になったかもしれない。
俺以外の他のメンバー達4人は、皆が完全なる体育会系で、スポーツ少年の集まりだった。
各々小学生からやっていたというサッカーや野球などチームプレイの猛者が集結した結果、異様なスピードでチームの絆が深まっていった。
グループ名も、“〇〇スポーツ少年団”にでも変えたら良いのにと思うほど。
みんながひたむきで、根は真面目、やる気に溢れ、努力が好きという鬼メンタル集団に、俺も流されるように染まっていった。
歳が一番若い俺は、メンバー達が総出で可愛がってくれた。
全員大学生なので、お兄さんが沢山出来たようで、偏屈な姉しか居ない俺は、正直嬉しかった。
部活をする時間帯でアイドル活動をしているから、規則正しい生活も出来ているし、有名難関大学所属の我らがリーダーが勉強も教えてくれて、なんなら、成績が下がるどころか、上がったくらいで、母がとても喜んだほどだ。
グループのイベントやライブも夜では無く、土日や祝日の昼に開催されるというのがパターンなんだが、そこら辺も事務所が俺を、大人ではなく普通の高校生として見てくれてるのが分かって…
なんだか優遇されてるみたいで申し訳ないと零すと、マネージャーから、学業優先の高校生を預かる時は、事務所の方針として、無理なスケジュールは組まない!と決めてる事だから、心配しなくていいと言われた。
そうまでして、俺を入れてくれた事に対して、期待を裏切ってはならないというプレッシャーは、確実にあった。
ダンスが得意という訳では無くて、唯一、歌は多少の自信があったが、歌の上手い人間なんてこの世に数え切れない程、存在する。
とにかく足を引っ張りたくない一心で、今も、必死で歌もダンスも頑張っているところだ。
高2の春にデビューしてから一年。
俺は高校3年生となった。
ファンクラブの会員数は増えに増え、日々着実に人気を出している…とマネージャーが、ホクホクの笑顔で教えてくれた。
今日は、新しいアルバムの発表イベントを行う事となり、貸切の劇場に、公募に当たった一部のファンを呼んでいる。
座席いっぱいのファンの姿を袖から見ていると、女性ばかりの会場には、男性は数える程しか居ない。最前列に、ちょこんと1人だけ男がいた。
年齢は高校生くらいに見える。
手には俺の写真が大きくプリントされ、メンカラの青いファーが付けられた団扇を持っている。
推しは俺か。
悪くない気分だった。
男のファンがつくというのは、実力がある証拠みたいで、単純に嬉しかった。
その子を更に観察していると。
手には手作りなのだろうか、少し歪な形の毛糸のぬいぐるみ。
これも青い色で、多分…猫?
プロフィールなどには載せて無いが、俺がウチの愛猫の話を公式のYouTubeで、時々してるからか…
よく観てるという事なのか。
その子自身は、身長は低くなくスラリとしていて、パッと見は、どこにでも居そうだが、独特の雰囲気を持っていた。
言うなれば、天使顔。
純真無垢という文字を人間にAI生成してもらったら、こうなるのかな?って顔。
何となく目が彼の方へ、いってしまう。
「おい、行くぞ」
リーダーに声を掛けられてハッとした。
俺たちが壇上に上がると、静かだった空間が一気に揺さぶられた。
会場全体からの声援に圧倒される。泣いてる子も居るし、こんなにも大きな渦が出来るのかって程の熱狂に、緊張が増した。
順番にマイクを向けられ、何を言おうと思っていたのか忘れてしまった。
「あ。えっと…」
焦って、空を彷徨う視線が、最前列の彼に留まる。祈るようにも、期待するようにも見えるその表情に、すっと落ち着く自分が、分かった。
「今回のアルバムは、ステージを魅せる為の曲とは別に、ファンの方々と一緒に歌えるような曲もあります。是非、一緒に楽しんでください」
拍手を受け、視線をスっと上に向ける。
天井のライトを見ていると、まるで自分に向かってくる光を浴びている感覚になり、背筋が伸びた。
会場を後にするとき、三度、最前列の彼を見た。
どうしてそんなに彼の事が気になるのかは、自分でも分からなかったが、目線が向いてしまう。
彼は…泣いていた。
手作りであろう、毛糸のぬいぐるみを、ギュッと握りしめ。
俺の写真付き団扇がフルフルと震えている。
来てくれてありがとうって、心の中で呟いた。

