私はエリザベス・スパイシュカ、14歳になりましたの。
この春から、王立学園に通うことになりましたわ。
婚約者である王太子殿下――スパリオをメロメロにして国を乗っ取ることを計画している私に、最近、大きな悩みが出来たんですの!
「ほら、見てみろよ、聖女さまだぜ」
「平民出身だけど凄く優秀だって話よ」
「可憐で清楚で、長い銀髪が美しいわね。なんて素敵なの」
「スパリオ王太子殿下と並んでいると、お似合いで絵になるわよね」
カフェテリアで他の生徒たちが交わす噂話に、私はこぶしを握り締めましたわ。
彼らの視線の先には、中庭の便利で仲睦まじく会話する、スパリオと銀髪の可憐な少女の姿がありましたの。
「ぐぬぬぅ!」
この王立学園は基本的には貴族家が在席していますわ。
けれど、珍しい才能を持つ人間は特例として通学が認められますの。
その中でも一番特別なのが、聖女として認められた娘ですわ。
これは30年に1度現れる、女神様に認められた存在であるらしいんですの。
聖女は女神のお告げを聞く力があり、国に幸運をもたらすと言われているんですわ。
「だからって、どうしてスパリオがそのお目付け役なんですのー!」
いえ、分かりますわ、分かりますのよ。
スパリオはとても優秀ですし、面倒見も良いですし、格好良いですし、何よりも王太子という立場ですし、国の要となる聖女さんのお世話役に任命されるのは当然かもしれませんわ。
聖女さんは平民出身ということで、貴族社会でこれから苦労することもあるかもしれませんの。
スパリオが傍について、しきたりなどを教えるというのも理にかなっているのかもしれませんわ。
でも、でも……。
「折角、同じ学園に通えましたのに。これでは全然お話も出来ませんわ……」
こんなのあまりにも寂しい――ではなくて、このままでは、スパリオをメロメロにする計画に支障が出てしまいますわ!
しょんぼりと一人で紅茶を飲む私に、三人の女生徒が近づいてきましたの。
「あの、ちょっと宜しいでしょうか。エリザベス様」
「……何ですの?」
見上げれば、上品ないでたちと仕草から、高位の貴族の娘さんたちであることはすぐに分かりましたわ。
三人の内の真ん中にいる、茶色の巻き毛の女生徒が丁寧にお辞儀をしてきましたの。
「お初にお目にかかります。私はルアード侯爵家の長女、マリリンと申します。以前より、エリザベス様とお近づきになりたいと思っていましたの」
その言葉に、落ち込んでいたはずの私の心が、少しだけ軽くなりましたの。
そうね、スパリオだって忙しいのだもの。私も他のお友達を作って、学園生活を楽しむのが良いのかもしれませんわ!
「おーっほっほっほ! 私と仲良くなりたいだなんて、なかなか良い心がけですわね。親友から始めてさしあげても宜しくてよ?」
私が答えると、三人はにっこりと微笑んでくれましたの!
ふっふっふ、私くらい魅力的だと、親友を作るのだって朝飯前ですわ!
私が満足感と喜びに浸っていると、マリリンが心配そうに顔を近づけてきましたの。
「ところで、エリザベス様。いま、とてもお辛いのではないですか?」
「へっ?」
「スパリオ王太子殿下は、エリザベス様の婚約者でいらっしゃるのに。最近は、あの平民出身の聖女のかかりきりで……」
「……っ!」
マリリンの言葉に、私の胸がずきりと痛む。
そうですわね。いくら他で気を紛らわそうとしても、やっぱり悔しさや悲しさはゼロには出来ませんわ。
暗い表情を浮かべた私を慰めるように、マリリンが私の肩にそっと手を置いてくれましたわ。
「エリザベス様。私たちは、思うんです。やはり王立学園は、貴族が中心であるべきだと。あの聖女は、少し調子に乗っていますわ。このままでは、王太子殿下も盗られてしまうかもしれませんよ?」
「スパリオが……!?」
彼女の言葉に、私の心が更にきしむ。
――スパリオが私の元を離れて、聖女さんと一緒になる未来?
そんなの、考えただけでも辛くて耐えられない。
胸のあたりをぎゅっと手で押さえて落ち着こうとしましたが、指先の震えが止まりませんでしたわ。
「だから、エリザベス様。私たち、あの聖女をこらしめてやろうと思うんです。身分の差というのを、分からせてやりませんか? 手始めに、まず、彼女をみんなで無視してやりましょう。教科書を隠してやるのも面白いかもしれませんね」
くすくすと私の耳元で楽しそうに囁くマリリンに、私は息を飲みましたの。
そして真剣な眼差しで、じっと彼女を見つめましたわ。
「マリリンさん」
私はにこりと微笑んで彼女の肩に手を置きましたの。
「――誰かを仲間外れにしたり虐めるのは、人としてどうかと思いますわ?」
「えっ?」
「そんなことをしても、何の解決にもなりませんわよ?」
その場の空気が、何故か凍った気がしましたわ。
マリリンさんは勿論、後ろに控えている二人も動揺した様子を見せていましたの。
――何か私が言ったこと、変だったかしら?
「あ、そ、その通りですよね。失礼しました!」
マリリンさんは狼狽えながらそう答えると、他の二人の令嬢も引き連れて足早に立ち去ってしまいましたわ。
「……? なんだったんですの……」
置いて行かれた私は、状況についていけずにぽかんとしてしまいましたの。
でも、すぐに気づいたんですわ。
「あ、ああっ! 私の親友が!」
貴重な親友候補を失ってしまいましたわ。
聖女さんを仲間外れにするとかいう冗談に、もう少し乗って差し上げた方が良かったのかしら。
でも、冗談でもそういうことを言うのは良くないと思いましたの。会話って難しいわね……。
「はあ、これからどういたしましょう」
私は冷めた紅茶に口を付け直しつつ、カフェテリアから青い空を見上げましたの。
――その日以降も、スパリオと会話できる機会は、日に日に減っていく気がしましたわ。
◆ ◆ ◆
エリーですわ!
ここまでお読みくださり、ありがとうございますわ。
折角の学園生活なのに、なんだか楽しめませんの……。
でも、私は挫けませんことよ!
次回、悪役令嬢編!
お楽しみになさって!
この春から、王立学園に通うことになりましたわ。
婚約者である王太子殿下――スパリオをメロメロにして国を乗っ取ることを計画している私に、最近、大きな悩みが出来たんですの!
「ほら、見てみろよ、聖女さまだぜ」
「平民出身だけど凄く優秀だって話よ」
「可憐で清楚で、長い銀髪が美しいわね。なんて素敵なの」
「スパリオ王太子殿下と並んでいると、お似合いで絵になるわよね」
カフェテリアで他の生徒たちが交わす噂話に、私はこぶしを握り締めましたわ。
彼らの視線の先には、中庭の便利で仲睦まじく会話する、スパリオと銀髪の可憐な少女の姿がありましたの。
「ぐぬぬぅ!」
この王立学園は基本的には貴族家が在席していますわ。
けれど、珍しい才能を持つ人間は特例として通学が認められますの。
その中でも一番特別なのが、聖女として認められた娘ですわ。
これは30年に1度現れる、女神様に認められた存在であるらしいんですの。
聖女は女神のお告げを聞く力があり、国に幸運をもたらすと言われているんですわ。
「だからって、どうしてスパリオがそのお目付け役なんですのー!」
いえ、分かりますわ、分かりますのよ。
スパリオはとても優秀ですし、面倒見も良いですし、格好良いですし、何よりも王太子という立場ですし、国の要となる聖女さんのお世話役に任命されるのは当然かもしれませんわ。
聖女さんは平民出身ということで、貴族社会でこれから苦労することもあるかもしれませんの。
スパリオが傍について、しきたりなどを教えるというのも理にかなっているのかもしれませんわ。
でも、でも……。
「折角、同じ学園に通えましたのに。これでは全然お話も出来ませんわ……」
こんなのあまりにも寂しい――ではなくて、このままでは、スパリオをメロメロにする計画に支障が出てしまいますわ!
しょんぼりと一人で紅茶を飲む私に、三人の女生徒が近づいてきましたの。
「あの、ちょっと宜しいでしょうか。エリザベス様」
「……何ですの?」
見上げれば、上品ないでたちと仕草から、高位の貴族の娘さんたちであることはすぐに分かりましたわ。
三人の内の真ん中にいる、茶色の巻き毛の女生徒が丁寧にお辞儀をしてきましたの。
「お初にお目にかかります。私はルアード侯爵家の長女、マリリンと申します。以前より、エリザベス様とお近づきになりたいと思っていましたの」
その言葉に、落ち込んでいたはずの私の心が、少しだけ軽くなりましたの。
そうね、スパリオだって忙しいのだもの。私も他のお友達を作って、学園生活を楽しむのが良いのかもしれませんわ!
「おーっほっほっほ! 私と仲良くなりたいだなんて、なかなか良い心がけですわね。親友から始めてさしあげても宜しくてよ?」
私が答えると、三人はにっこりと微笑んでくれましたの!
ふっふっふ、私くらい魅力的だと、親友を作るのだって朝飯前ですわ!
私が満足感と喜びに浸っていると、マリリンが心配そうに顔を近づけてきましたの。
「ところで、エリザベス様。いま、とてもお辛いのではないですか?」
「へっ?」
「スパリオ王太子殿下は、エリザベス様の婚約者でいらっしゃるのに。最近は、あの平民出身の聖女のかかりきりで……」
「……っ!」
マリリンの言葉に、私の胸がずきりと痛む。
そうですわね。いくら他で気を紛らわそうとしても、やっぱり悔しさや悲しさはゼロには出来ませんわ。
暗い表情を浮かべた私を慰めるように、マリリンが私の肩にそっと手を置いてくれましたわ。
「エリザベス様。私たちは、思うんです。やはり王立学園は、貴族が中心であるべきだと。あの聖女は、少し調子に乗っていますわ。このままでは、王太子殿下も盗られてしまうかもしれませんよ?」
「スパリオが……!?」
彼女の言葉に、私の心が更にきしむ。
――スパリオが私の元を離れて、聖女さんと一緒になる未来?
そんなの、考えただけでも辛くて耐えられない。
胸のあたりをぎゅっと手で押さえて落ち着こうとしましたが、指先の震えが止まりませんでしたわ。
「だから、エリザベス様。私たち、あの聖女をこらしめてやろうと思うんです。身分の差というのを、分からせてやりませんか? 手始めに、まず、彼女をみんなで無視してやりましょう。教科書を隠してやるのも面白いかもしれませんね」
くすくすと私の耳元で楽しそうに囁くマリリンに、私は息を飲みましたの。
そして真剣な眼差しで、じっと彼女を見つめましたわ。
「マリリンさん」
私はにこりと微笑んで彼女の肩に手を置きましたの。
「――誰かを仲間外れにしたり虐めるのは、人としてどうかと思いますわ?」
「えっ?」
「そんなことをしても、何の解決にもなりませんわよ?」
その場の空気が、何故か凍った気がしましたわ。
マリリンさんは勿論、後ろに控えている二人も動揺した様子を見せていましたの。
――何か私が言ったこと、変だったかしら?
「あ、そ、その通りですよね。失礼しました!」
マリリンさんは狼狽えながらそう答えると、他の二人の令嬢も引き連れて足早に立ち去ってしまいましたわ。
「……? なんだったんですの……」
置いて行かれた私は、状況についていけずにぽかんとしてしまいましたの。
でも、すぐに気づいたんですわ。
「あ、ああっ! 私の親友が!」
貴重な親友候補を失ってしまいましたわ。
聖女さんを仲間外れにするとかいう冗談に、もう少し乗って差し上げた方が良かったのかしら。
でも、冗談でもそういうことを言うのは良くないと思いましたの。会話って難しいわね……。
「はあ、これからどういたしましょう」
私は冷めた紅茶に口を付け直しつつ、カフェテリアから青い空を見上げましたの。
――その日以降も、スパリオと会話できる機会は、日に日に減っていく気がしましたわ。
◆ ◆ ◆
エリーですわ!
ここまでお読みくださり、ありがとうございますわ。
折角の学園生活なのに、なんだか楽しめませんの……。
でも、私は挫けませんことよ!
次回、悪役令嬢編!
お楽しみになさって!
