騙されましたわね、王子様!「メロメロ」にして国を乗っ取ってやりますわ!

 社交界デビューの日には、王城の大広間で舞踏会が開かれることになっていましたの。
 その日に向けて、私は礼儀作法やダンスの特訓を頑張りましたのよ。
 
 素敵なドレスと洗練された動きで私の魅力を発揮して、スパリオに可愛いって思われたい――じゃなかった、これも彼をメロメロにして国を乗っ取る為ですの!


 ――そして舞踏会当日、私はスパリオが贈ってくれた薄い青色のドレスに身を包みましたわ。

 栗色の長い髪は大人っぽく、お団子に結いあげて貰いましたの。ドレスの刺繍と同じ金色の、お星さまの髪飾りが素敵でしょう?
 お化粧だって、少しだけ施してもらいましたの。似合うかしら。

 この姿を一刻も早くスパリオに見て貰いたかったのに、彼は他の公務ですぐには会えないんですって。
 舞踏会の挨拶のときに合流すると、伝えられましたの。

「そうですの。スパリオは他にもお仕事がありますのね……」

「ほら、エリー、元気を出して? すぐにスパリオ王太子殿下にもお会いできるよ」
「少し会えないだけでも寂しいのよねぇ、ふふっ」

「ち、違いますわっ! 私はただ、スパリオが間に合うかを心配しただけで!」

 お父様とお母様の慰めるような言葉に、私はむきになって言い返しましたの。
 スパリオがいないからって、寂しいだなんて、そんなこと!

◇ ◇ ◇

 王族による挨拶が始まる前から、舞踏会の会場は既に華やかな賑わいを見せていた。
 テーブルに並ぶワインや軽食を片手に、大勢の貴族や他国の要人たちが交流を深めている。

「うううっ、寂しいですわ。早く会いたいですわー……」

 早めに会場入りをはたしていた私は、しょんぼりと壁際に佇んでいましたの。
 お父様とお母様は、大臣さんと難しいお話があるということで、何処かに行ってしまいましたわ。

 私は巨大な会場で見知った顔も少なく、小さくなっていましたの。

 時折、挨拶をしてくださる方はいらっしゃいましたが、すぐに通り過ぎてしまわれましたわ。
 貴重な他国の方と交流できる機会ということで、皆さんお忙しそうでしたの。

「……失礼、レディ?」

 そんな中で聞こえてきた声は、最初、自分に向けられたものだと気が付きませんでしたわ。
 けれど、見渡してもこんな壁際にいるのは私だけでしたもの。
 だから恐る恐る、顔をあげましたの。

「あの、わ、私のことですの?」
 
「ええ。貴女に声をかけさせていただきました、可愛いレディ」

「ふぇっ」

 そこには私より少し年上に見える、桃色の髪をした少年がいましたわ。
 凛々しい顔立ちで、けれど柔和さもあって、品の良い青色の燕尾服を身に付けていましたの。

「ご挨拶が遅れました。私は海洋国リストニアの第二王子、ミハエルです」

「ミハエル……王子様でいらっしゃいましたの!?」

 リストニア国といえば、同盟国の中でも特に大きく豊かな国で、貿易でも大切な協力関係にあるとお父様から聞いていましたの。

「し、ししっ、失礼いたしましたわ。私――エリザベス・スパイシュカと申しますの」

 私は慌てて姿勢を正すと、沢山練習してきた作法の通りにお辞儀をしましたわ。

「これはご丁寧にありがとうございます」

 くすりと微笑むミハエル様は大人っぽくて、それになんだか距離が近い気がして、私はあたふたしてしまいましたの。

「あの、どなたかお探しでいらっしゃいますの? 宜しければ、ご案内いたしますわ」

「いいえ、貴女とお話したかったんです。美しい方が、壁の花になっていたものですから」

 そう告げながら、ミハエルさまはそっと私の手をすくいあげましたわ。

 こんなこと、スパリオ以外にされたことありませんの!
 他国では、これくらいのことは普通なんですの? 
 ――私は一体、どうしたら良いのかしら!?
 
 私は緊張で固まってしまって、どうすれば良いのか分からなくなってしまいましたわ。

「はわわっ……!?」

 そんな私のもう一方の手を、すくいあげる方がいましたの。

「何をしているのですか」

 その手をぎゅっと握りながら声を発したのは――スパリオでしたわ!

「す、すすっ、す、スパリオーっ!!!!」

 私は安堵と混乱が押し寄せて来て、思わず叫んでしまいましたの。

「大丈夫、エリー。心配しないで」

 スパリオは私にそう優しく微笑むと、腕を軽く引いて抱き寄せてくれましたわ。

「はうっ、あ、でも、他国の王子様に失礼があっては――」

「良いんだ。失礼なのはあっちの方なんだから。そうでしょう、ミハエル兄さん」

「ミハエル……お兄様!?」

 私は驚きのあまり目を見開きましたわ。
 それからようやくミハエル様に視線を移してみれば、彼は楽しそうに笑いを堪えている様子でしたの。

「くくくっ、ごめんごめん。スパリオの姿が見えないのに、可愛いお姫様がいたから、ついね」

「つい、ではありません。エリーは純粋なんです! 近寄らないでください!」

 スパリオは、しっしっとミハエル様を追い払うような仕草をしましたわ。
 いつも大らかで余裕のあるスパリオが、こんな風に接するなんて。

「はいはい、ごめんね。しかし噂には聞いていたけど、あのスパリオがここまで女の子に惚れ――」

「もう、戻ってください! そもそも何でここに居るんですか。貴方、まだ挨拶が残っていたでしょう。お父上が探していましたよ!」

「ああ、それはいけない! では、私はこの辺りで。じゃあね、エリザベス姫。スパリオを宜しく!」

 快活な笑みを残して、ミハエル様は手を振り行ってしまわれましたわ。
 
「あ、嵐のような方でしたわね」

「すまない、エリー。ミハエル兄さんとは幼少の頃から、家族ぐるみの交流があるんだ。悪い人ではないんだけど、すぐにからかってくる癖があって」

 スパリオは困ったように溜息を吐きましたが、同時にミハエル様のことを大切に思っていることも伝わってきましたの。
 
「……なんだか、妬けてしまいますわ」

「えっ?」

「何でもありませんの! それより、スパリオ。今日の私、いかがかしら?」

 私は、安堵と嫉妬の入り交ざった複雑な気持ちを誤魔化すように、スパリオの前でくるりとドレス姿を見せびらかしてみましたわ。

 そうしたら、彼は今までで一番良い笑顔で言いましたの。

「うん、綺麗だよ。世界で一番綺麗だ」

「むふー! 当然ですわよ!」

 うんうん。素直でよろしいですわ。遅れてきたことも、全部許してさしあげますの!
 しばらくして、ラッパの音が響いた後、アナウンスがされましたわ。

「続いて、アゼラン王国の王太子殿下ならび、婚約者のご紹介です!」
 
 私たちは気を引き締め直すと、きゅっと手を繋ぎ合いましたの。

「さあ、行こう、エリー」
「勿論ですわ、スパリオ」

 二人の息の合った挨拶とダンスは喝采を浴び、皆さんから沢山褒められましたわ。
 ふっふっふ、これでまた一歩、この国の乗っ取りに近づきましたわね! 

◆ ◆ ◆

エリーですわ!
ここまでお読みくださり、ありがとうございますわー!

ミハエル様の登場には驚きましたわね。
そういえば、彼は最後に何を言おうとしていたのかしら……?

次回、ライバル出現編!
お楽しみになさって!