騙されましたわね、王子様!「メロメロ」にして国を乗っ取ってやりますわ!

 私は王子様――スパリオと一緒に、お忍び王都デートにやってきましたの。

(さあ、スパリオをメロメロにしますわよー!)

 まずは大通りを散策ですわ!
 普段は公爵令嬢としてお屋敷で教育を受けている私は、こうして街中にやってくるのは初めてですの。

「すっごーい!! 人が沢山! お店も沢山!」

 あまりの賑わいに、思わず声を弾ませてしまいましたの。だって、仕方がありませんわ?
 絵や本で見たまま、いいえ、それ以上に楽しそうな世界が広がっていたんですもの!

 あれも見たいし、これも見たいですわ!
 ……何か大切な目的を忘れている気がしますが、まあ良いですわね!

「スパリオ、行きましょう! まずは、あっちの雑貨屋さんに……、いいえ、待って、本屋さんも気になるわ! ああでも、服屋さんも素敵ね! あら、あの屋台には何が売っていますの?」

 手を繋いだまま、あちらこちらへ忙しなく動き回る私に、スパリオは文句ひとつ言わず付き合ってくれましたわ!

「ふふふっ、そう慌てなくとも、時間は沢山ありますよ。全部、見て回りましょう」

「やったー!」

 そして言葉通り、気になるお店に次々と入っていきましたの。
 はしゃぎ回った後、最後に通りすがったお菓子屋さんに、私は目を奪われましたわ。
 
(はわわわわっ!?)

 なんと店先には、私のお気に入りのテディベアである”ランランちゃん”にそっくりな絵が描かれた、可愛らしいマカロンが飾ってありましたわ!

(可愛い、けど、そろそろ次の予定が――)

 このあと、スパリオと一緒に池でボートに乗る約束をしていましたの。今日の為に、ボート漕ぎの練習をしてくれたんですって!

 そもそも大通の散策も十分時間があったはずなのに、私ばかりがお店を選んでしまいましたわ。いくらスパリオが私にメロメロだからといって……これ以上のわがままはよくないですわよね?

(またね、ランランちゃん……!)

 私は後ろ髪を引かれつつも、大通りを後にしましたわ。

◇ ◇ ◇

 午後、私たちは街外れにある公園の湖にやってきましたの。

 今日はお天気もよくて、お日様がぽかぽか気持ち良いですわ。陽の光に反射した水面がきらきら輝いて、まるで宝石みたいに見えましたの。

「ボートに乗るなんて、初めてですわ!」

 私はスパリオの手を借りながら、そっとボートに乗り込みましたわ。
 思ったよりもグラグラと揺れましたが、座ってしまえば平気そうでしたの。

「わあっ、お魚が見えますわ。ふふ、可愛いっ」

 水面を見つめる私に、舟をこぐためのオールを手にしたスパリオが笑いかけてくれましたわ。

「ふふ、準備は良いですか? それでは、進みますよ――」

「はいっ!」

 彼に私も笑顔を返して、ゆっくりと船が進み――あれ、進み、ませんわね。

「……ぐっ、ぬぅ、」

 スパリオは一生懸命オールをこいでいましたわ。でも、少し力が足りない様子でしたの。
 
「……」
「……」
「……」

「……あのっ、スパリオ!」

 気まずい沈黙が場を支配する前に、私は思い切って声をかけながら彼の手に自分の手を重ねましたわ。

「私も! 一緒に漕ぎます!」

「えっ、エリーもですか!?」

「良いじゃありませんの。おーっほっほっほ! 私たち、夫婦になるんですのよ。いつだって一心同体ですわー!」

 本音を言うと、一生懸命なスパリオを見ていると、何かせずにはいられなかったんですわ。
 だって、私の為にこんなに頑張ってくれているのに!

「……っ。はい、では、お願いします、エリー!」

「せーの、でいきますわよ! せーの!」

「「いっちに! いっちに!」」

「あっ、もっと右に!」

「今度は左ですわー!」

「ぶつかるーっ!」

「急いで、スパリオ!!」

 こうして私たちは協力してボートを漕ぎ進めていきましたの。
 なんだか優雅とは程遠い、ドタバタな感じになってしまいましたけれど……とっても楽しかったんですわ!

 スパリオとの距離も自然に縮まって、気づけば彼の敬語もなくなり、お互い笑い合っていましたの。
 そして名残惜しいけれど、デートが終わる時間がやってきましたわ。

「はーっ、疲れたけど、なかなかいい体験でしたわー!」

 ボートから降りて満足感でいっぱいの私に、スパリオが声をかけてくれましたわ。

「ねえ、エリー。実はプレゼントがあるんだ」

「えっ?」

 そして差し出されたのは――朝にお菓子屋さんで見たマカロンでしたわ。

「こ、ここっ、これ、なんで!?」

「エリーがとても幸せそうに、このマカロンを見ていたから。好きなんでしょう?」

「好きいいっ!!」

 ――このとき好きだと言ったのが、マカロンのことだったのか、スパリオのことだったのかは、内緒ですの。

「ふふっ、喜んでもらえて嬉しい!」

 そう言うスパリオの顔は少し無邪気に見えて、何だか少し、可愛かったんですわ。

「エリー、また僕とデートしてくれる?」

「あら、当前ですわ! スパリオこそ、また私に振り回される覚悟はおありかしら?」

 私がふふんと得意げに言って見せると、スパリオは目を細めましたわ。

「勿論!」

 その日以降、私たちはときどき一緒にお出かけをして、沢山お話もしましたわ。
 スパリオと話すととても楽しい――じゃなかった、国を乗っ取るには、情報収集も大事ですわよね!

◆ ◆ ◆

エリーですわ!
ここまでお読みくださり、ありがとうございますわー!

スパリオはもう私にメロメロですわね、おーっほっほっほ!
この国を乗っ取れる日も近いですわ!

次回、社交界デビュー編!
お楽しみになさって!