夏色のキャンバス

 次の日の放課後、僕は海斗君に呼び出されて屋上へ来ていた。屋上へ行くと、海斗君は屋上の手摺りに凭れかかりながら俯いていた。

「なんか、昨日の夜に優から連絡があって……」

「うん?」

「俺と葵が付き合うことになったって……あれって、なんかの聞き間違い? それとも、まだ夢を見てるのかな?」

「……」

 そう言った海斗君は自分で自分の頬をつねっていた。美形が歪むのを、ただ僕は不思議な気持ちで眺めていた。

 彼の顔が極限まで引き延ばされるのを見ていたら、彼も一人の人間なんだと思った。今まで考えたことなかったが、心の中で壁を作っていたのは僕の方なのだと気がついた。

「どうしたの?」

 僕は頬を伸ばしていた彼の手を掴むと、海斗君の目を見て言った。

「夢じゃないよ」

「……うん」

「でも、僕は海斗君のことを友達として好きなんだ。恋愛対象として見れるかは、分からない。もしかして、ずっと友達のままかもしれない……それでもいい?」

「構わないよ。俺のこと、真剣に考えてくれるってことでしょ?」

「うん」

「手、繋いでもいい?」

「え? うん、いいよ」

「ありがとう。この間は、急に帰ってごめんね」

「ううん。なんで怒ったの?」

「怒ってないよ。ただ、上手く断れない自分と、葵にはっきりとした態度を取れない自分が不甲斐なかっただけ」

「……」

「でも、優のおかげで俺にもチャンスが生まれた」

「うん」

「俺のこと考えて、きちんと答を出してくれるって……それだけで、めちゃくちゃ嬉しい。それだけで満足しちゃいそう。ごめん、舞い上がってるかも。頑張って自分取り戻す」

「うん」

「葵のことをもっと知りたいし、俺のことも知って欲しい。その上で、俺のこと好きになってくれたら嬉しいけど、強制じゃないから」

「うん」

「葵、さっきから『うん』しか言ってないよね」

「うん。海斗君が話してくれて嬉しい」

 気がつけば、泣いていた。海斗君は、泣いてる僕を抱き寄せると背中を撫でていた。

「昨日、話せなかったことがツラかった?」

「ツラいなんてもんじゃないよ」

「ごめんね」

「いいよ、今日は話せたし」

「あのさ、海斗って呼び捨てでいいよ」

「海斗……」

 僕はそう言った後に赤面してしまった。見せられない顔をしていると思い、顔を隠そうとすると、海斗君は僕の手を掴んで真顔でこちらを見ていた。

「ごめん。やっぱ恥ずかしいかも」

「そっか。葵って、俺のこと……まあ、いいや。今日は、いっぱい話そう」

「うん」

 僕達は屋上にあるブロックに腰かけ、暗くなるまで話していた。