夏色のキャンバス

 複合施設の入り口には大きなフロア看板が置かれており、そこには地下一階にレストラン街があると書かれていた。僕達は一階から店の中へ入ると、地下一階へ階段で下りた。階段を下りて直進すると、広場とインフォメーションカウンターがあり、その先に大手チェーン系列のファーストフード店を見つけた。

「ここにする?」

「うん。ここなら、ゆっくり出来そう」

 それぞれタッチパネルで注文すると、カウンターでハンバーガーを受け取り、空いている席へ座った。

「音は、どうだった?」

「怖かった。見えない分、恐怖が増したのかも」

 僕が正直に答えると、海斗君は笑っていた。

「ホラーが苦手なら、そう言えばよかったのに」

「ずっと観てなかったから、もう平気だと思ったんだよ。そしたら、思ったより怖くて焦った」

 泣きそうになるくらい怖かった映像を思い出し、僕はげんなりしていた。そんな僕を見て、海斗君は笑っている。

「海斗君、笑わないでよ」

 僕の振り上げた拳を手のひらで優しく受け止めた海斗君は、眉根を寄せて言った。

「海斗って呼んでくれないの?」

「呼び捨ては、まだ恥ずかしいよ」

「……」

「……海斗」

 僕がそう言うと、海斗君は僕の頭を撫でていた。

「あのぉ、お隣いいですか?」

 顔を上げると、そこにはパリピっぽい女子高校生がいた。席が混んできたせいだろう。四人掛けの席に座っていた僕たちは席を譲ることにした。

「葵、行こう」

「う、うん」

 僕は最後のポテトを口に頬張ると、トレーを持って外へ出ようとした。

「あのぉ、その服って城南高校ですよね?」

「そうだけど?」

 僕は映画を見るのに私服で来てしまったが、海斗君は学校の制服で来ていた。その方が学割の説明をしなくて済むのだと、映画を観る前に海斗君が言っていたことを思い出す。

「彼女いますか?」

「は?」

 立ち上がった海斗君に質問をした女子高校生は首を傾げていた。首を傾げた方が自分が可愛く見えると思っているのだろうか……僕は、どうすることも出来ずに見守っていた。

「いてもいなくても、どっちでもいいだろ。それと、うちの高校に何か関係があるのか?」

「そうじゃないんですけど……別にいいです」

「行こう、葵」

「う、うん」

 海斗君は僕の手を掴むと、店を出て行った。トレーを片づけて慌てて後を追うと、そこには暗い瞳をした海斗君が立っていた。

「海斗君?」

「何でもっと、ちゃんと断れなかったんだろ」

「さっきの?」

「……」

「気にすることないよ。はっきり言わないと、しつこい人もいるって聞くし。海斗君は、優しいね。モテない僕とは大違いだよ」

「何で、そんなこと葵が言うんだよ!」

 僕は海斗君を励ましたつもりだった。それなのに、海斗君は声を荒げて言うと僕を睨んでいた。

「え?」

「ごめん、やっぱ今のなし」

「海斗君?」

「もう、そんな風に呼ばないでよ」

 そう言った海斗君は、暗い顔をしたまま走って先に行ってしまった。さっきまで仲良く話していたのに、急に見えない壁が出来てしまったようで、ショックだった。僕は追いかけることも出来ずに、ただ立ち尽くしていた。

「じゃあ、何て言えば良かったんだよ」

 急に悲しくなってきて、僕は涙を堪えると俯いた。