夏色のキャンバス

 都内にある劇場前で待ち合わせた僕たちは、受付でチケットを交換するとすぐに中へ入った。土曜日だからか、受付はものすごく混んでいて、並んでいる内に上映時間が迫って来て焦って中へ入ったが、予告編が長かったために映画はまだ始まっていなかった。

 正面向かって六列目の右端の席に優と神田君が座り、その四つ先の席に僕と海斗君が座った。優が足を伸ばせる前から六列目がいいと言うので、ほとんど空席のスクリーンで僕達は別々の席に座っていた。

 映画が始まった後に、僕は後悔していた。子供じゃないんだから、ホラー映画なんてもう怖くないと思っていたのは、間違いだった。間違いなく、ものすごく怖かった。僕が映画を観れずに目を瞑っていると、隣の人と肘が当たった。

「すみません」

 小声でそう言って目を開けると、隣にはこちらを心配そうに覗き込む海斗君がいた。震える僕の腕の上に海斗君の手がのせられると、僕の身体の震えは治まった。

「ありがと」

「……」

 海斗君が映画を見ずに、こちらをずっと見つめているので、映画を観れない僕は、なぜか海斗君と見つめ合っていた。

(僕達は、なんで見つめ合ってるんだ?)

 優のいる方を見たが、彼等は映画に夢中になっており、僕の視線には気がついていないようであった。腕に乗せられた手の温かさに、心臓の鼓動が早くなっていく。再び閉じた目をそっと開けて海斗君を見ると、彼は映画を見ていた。僕の視線に気がつくと、彼は映画を見ながら僕の腕をそっと撫でた。

(海斗君は、怖がっている僕を落ち着かせようとしているだけだ。特別な意味なんてない)

 そう思いながらも、ずっとドキドキしていた。

(友達だって言ったんだ。海斗君だって分かってるはず)

 そう思って海斗君の手をどけようと上から手を掴むと、隣の肘掛けの上へ置いた。

「もう、大丈夫だから」

 僕が小声でそう言うと、海斗君は至近距離で僕の顔を見つめた後、自分の座席の背もたれに寄りかかるようにして映画を観ていた。

 会場に低音のクラシック音楽が流れ、エンドロールが流れると、僕は座席で伸びをした。立ち上がる人もいたが、明るくなるまで待った方がいいだろうと思い、明かりがつくのを待っていた。隣を見れば、海斗君がこちらを見てた。

「怖かった?」

「うん」

「葵は、ずっと寝てたもんね」

「音は聞いてたよ。観てなかっただけ」

「ふぅん」

 海斗君が意味ありげに笑うのを見ているうちに、会場の明かりがついた。

「優?」

 後ろを振り返ると、そこに優と神田君の姿はなかった。

「先に外へ出たのかな?」

「どうだろう?」

 僕たちが外へ出ると、ロビーは人で溢れかえっていた。人気アニメの劇場版が公開初日だったようだ。

「透からメールが来てる。先に帰ったって」

 海斗君の言葉にスマホを見ると、僕のスマホにもメールが届いていた。

「僕の方にも優からメールが来てる。急用ができたから、先に帰るって」

「……どうする? せっかくだから、何か食べて帰る?」

「いや、もう帰ろう。テスト勉強もあるし」

 期末テストは少し先だったが、その前に小テストがあると聞いていたので、僕が帰ろうと言うと海斗君は明らかに悲しそうな顔をしていた。

「やっぱり少し何か食べてから帰ろうか。話してたら、お腹が空いてきちゃった」

「うん、そうしよう」

 僕達は映画館を出ると、駅前にある複合施設へ向かった。