「じゃあ、僕は用があるから先に帰るね」
「待って、俺も一緒に帰る」
僕が帰ると言うと、高梨君は慌てて自分の鞄を取りに戻ろうとしていた。
「ごめん、急いでるから」
「……そっか、分かった」
僕が急いでいると言うと、高梨君は少し残念そうな顔をしていた。申し訳ないと思いつつも踵を返すと、僕は駅まで走った。
(忘れてた。今日はバイトの日だ)
僕の通う高校では珍しくアルバイトが禁止されていた。高校に入ったらバイトをしたいと思っていたので、入った後に気がついて後悔したが、どうしてもやってみたかったので、知り合いのお兄さんに今のバイト先を紹介してもらったのだ。個人経営のお店で、給料も手渡し。よっぽどのことがない限り、誰にもバレないだろうという話だった。
僕は池袋駅で降りると、大通りから一つ入った細い道にあるお店へ入った。
「お疲れ様です」
「お疲れ、遅かったね」
「すみません。先生の体育祭の片づけ手伝ってて、少し遅くなりました」
池袋西口の雑居ビル地下一階にあるこのお店は、主に骨董品を取り扱うお店で、だいたいのお客さんがリピーターだ。取り寄せがメインで、お店に入って購入するという人はまずいない。店番が主な仕事だった。
「いいって、着替えてきな」
「はい」
僕は店の奥にあるロッカーで黒いエプロンをつけると、レジの前に立った。
「んじゃ、あとよろしくね」
「はい」
そう言ったオーナーは、店の奥へ引っ込んでいった。僕が週二回お店へ来て店頭に立っている間、オーナーは事務処理をしているらしい。
オーナーは渋い服装が似合う50代のおじさんで、名前を小林さんといった。彼はパソコンやSNSには疎いらしく、時間が掛かってしょうがないと笑いながら言っていた。
(やばっ、眠くなってきた)
誰も来ないので、立ったまま眠りそうになっていた。おそらく、身体が疲れているのだろう。僕はレジから離れると店の骨董品を眺めていた。どれも素晴らしい作品ばかりだったが、オーナーに後から値段を聞いて、物の価値はよく分からないと思ってしまった。
(こっちが十万で、こっちが百万か……よく分かんないな)
――カランコロン……
ドアに取り付けられていた鈴が鳴って、僕は入り口を振り返りながら「いらっしゃいませ」と言った。
「た、高梨君?!」
「よっ、お疲れさま」
入って来た客が高梨君で驚いてしまったが、彼がお客さんとして来たのなら、きちんと接客しなければならないだろう。
「何かお探しですか?」
「探してると思う?」
「いいえ」
「あっ、でも探しものは見つかったかな」
そう言った高梨君は、真顔で僕の顔を見つめていた。
「えっ、ぼく?」
「なんだ、知り合いか」
オーナーが奥から出てくると、僕たちの様子を見て部屋の奥へ戻っていった。
「このビル、俺の父親の持ちビルなんだよね」
「え、持ちビル?」
「建物の権利を持ってるの」
「……よく分からないけど、すごいんだね」
「すごくないよ、すごいのは俺の親父ってだけ」
「それで、このビルに何か用事があったの?」
「ううん。様子がおかしかったからさ、ちょっと気になって……途中で見失って、とりあえずここ来たら、葵がいたからびっくりしちゃった」
「ごめん、心配かけたね。あのさ、高梨君って……」
スマホの写真について聞こうと思ったが、この場所で聞くのは何だか憚られた。恥ずかしがることはないはずなのに、なぜか聞けない自分がいる。
「ごめん、やっぱり何でもない」
「あのさ、待ってるから一緒に帰らない?」
「え、いいの?」
「うん、入り口で待ってる」
「待ってるって、あと一時間半はあるけど大丈夫?」
「買い物して戻って来るよ。そんなに寒くないし……また後で」
「うん、また後で」
僕が手を振ると、高梨君も手を振りながらお店を出て行った。
「待って、俺も一緒に帰る」
僕が帰ると言うと、高梨君は慌てて自分の鞄を取りに戻ろうとしていた。
「ごめん、急いでるから」
「……そっか、分かった」
僕が急いでいると言うと、高梨君は少し残念そうな顔をしていた。申し訳ないと思いつつも踵を返すと、僕は駅まで走った。
(忘れてた。今日はバイトの日だ)
僕の通う高校では珍しくアルバイトが禁止されていた。高校に入ったらバイトをしたいと思っていたので、入った後に気がついて後悔したが、どうしてもやってみたかったので、知り合いのお兄さんに今のバイト先を紹介してもらったのだ。個人経営のお店で、給料も手渡し。よっぽどのことがない限り、誰にもバレないだろうという話だった。
僕は池袋駅で降りると、大通りから一つ入った細い道にあるお店へ入った。
「お疲れ様です」
「お疲れ、遅かったね」
「すみません。先生の体育祭の片づけ手伝ってて、少し遅くなりました」
池袋西口の雑居ビル地下一階にあるこのお店は、主に骨董品を取り扱うお店で、だいたいのお客さんがリピーターだ。取り寄せがメインで、お店に入って購入するという人はまずいない。店番が主な仕事だった。
「いいって、着替えてきな」
「はい」
僕は店の奥にあるロッカーで黒いエプロンをつけると、レジの前に立った。
「んじゃ、あとよろしくね」
「はい」
そう言ったオーナーは、店の奥へ引っ込んでいった。僕が週二回お店へ来て店頭に立っている間、オーナーは事務処理をしているらしい。
オーナーは渋い服装が似合う50代のおじさんで、名前を小林さんといった。彼はパソコンやSNSには疎いらしく、時間が掛かってしょうがないと笑いながら言っていた。
(やばっ、眠くなってきた)
誰も来ないので、立ったまま眠りそうになっていた。おそらく、身体が疲れているのだろう。僕はレジから離れると店の骨董品を眺めていた。どれも素晴らしい作品ばかりだったが、オーナーに後から値段を聞いて、物の価値はよく分からないと思ってしまった。
(こっちが十万で、こっちが百万か……よく分かんないな)
――カランコロン……
ドアに取り付けられていた鈴が鳴って、僕は入り口を振り返りながら「いらっしゃいませ」と言った。
「た、高梨君?!」
「よっ、お疲れさま」
入って来た客が高梨君で驚いてしまったが、彼がお客さんとして来たのなら、きちんと接客しなければならないだろう。
「何かお探しですか?」
「探してると思う?」
「いいえ」
「あっ、でも探しものは見つかったかな」
そう言った高梨君は、真顔で僕の顔を見つめていた。
「えっ、ぼく?」
「なんだ、知り合いか」
オーナーが奥から出てくると、僕たちの様子を見て部屋の奥へ戻っていった。
「このビル、俺の父親の持ちビルなんだよね」
「え、持ちビル?」
「建物の権利を持ってるの」
「……よく分からないけど、すごいんだね」
「すごくないよ、すごいのは俺の親父ってだけ」
「それで、このビルに何か用事があったの?」
「ううん。様子がおかしかったからさ、ちょっと気になって……途中で見失って、とりあえずここ来たら、葵がいたからびっくりしちゃった」
「ごめん、心配かけたね。あのさ、高梨君って……」
スマホの写真について聞こうと思ったが、この場所で聞くのは何だか憚られた。恥ずかしがることはないはずなのに、なぜか聞けない自分がいる。
「ごめん、やっぱり何でもない」
「あのさ、待ってるから一緒に帰らない?」
「え、いいの?」
「うん、入り口で待ってる」
「待ってるって、あと一時間半はあるけど大丈夫?」
「買い物して戻って来るよ。そんなに寒くないし……また後で」
「うん、また後で」
僕が手を振ると、高梨君も手を振りながらお店を出て行った。


