夏色のキャンバス

 中間テストが終わると、生徒総会の準備のために、放課後は毎日のように生徒会室へ集まっていた。生徒総会の前日、生徒会役員が体育館へ集まると森崎先輩の指示のもと、リハーサルが始まった。こういう時の、森崎先輩はカッコいいと思っていた。

「葵、森崎先輩のこと見てたでしょ」

「見てたけど、変な意味じゃないよ」

「変な意味じゃないって?」

「うーん。先輩としてカッコいいなって思ったっていうか」

「カッコいい?」

「僕も、将来あんなふうになれたらいいなって、思たっていうか……」

「森崎先輩みたいに?」

「うん」

 僕の言葉に、海斗君は困惑していた。

「葵の浮気者」

「だから、浮気じゃないって」

「ただの先輩への憧れ」

「……」

 僕の言葉に海斗君は珍しくむくれていた。

「優と神田君、仲直りしたんでしょ? よかったね」

 僕が話題を変えると、海斗君は困ったように言った。

「うん。まだ少しギクシャクしてるみたいなんだけど、前みたいに一緒に帰ってるって言ってた。大学も同じところを目指して、ずっと一緒にいられるようにしたいんだって」

「へぇ。神田君は、サッカー続けるのかなって、思ってたけど……」

「この前、ケガして休んだ時にサッカーは続けられないって思ったらしいよ。ケガはたいしたことなかったらしいんだけど、なかなか治らなくて考え直したって言ってた」

「神田君らしいね」

 神田君は遊び人みたいな雰囲気があるが、実はけっこう真面目だ。真面目に考えた結果、優と共に歩む道に決めたんだろうと思った。

「それより、俺が話してたのは森崎先輩のことなんだけど……」

「ごめん、ごめん」

「葵が好きなら、付き合ってみてもいいんじゃないかな?」

「何言ってるの? 海斗君」

「だって、生涯で付き合うのが俺だけってなったら、それはそれで葵の人生どうかなって思うし」

「そんなことするわけないじゃん!」

「じゃあ、この先もずっと俺と一緒にいてくれる?」

 海斗君のプロポーズみたいな言葉に、僕は顔が熱くなっていくのを感じていた。

「それは……」

 ずっと一生一緒にいるなんて、考えたこともなかった。ただ、学校と海斗君と神田君と優のいる世界が、ずっと続くような気がしていた。僕だって、いつかは卒業するし、友達とも離れ離れになる。その時に、海斗君の隣にいられるのかは自信がなかった。一緒にいたければ、いられるだろう。ただそれは、何かが違う気がした。

「今すぐじゃなくていいよ。俺も焦って変なこと言ったって、思ったし」

「変なことじゃないよ。僕も海斗君と一緒にいたいって思う。ただ、一生ってなると、そこまで覚悟してなかったっていうか……」

「焦らなくていいよ。俺も具体的に何か考えてるって訳じゃないんだ。この先もずっと一緒にいたいってこと言っておきたかったし、葵の気持ちも確認しておきたかっただけ」

「海斗君のいない人生なんて考えられない。でも、海斗君の傍にいるのは好きな気持ちだけじゃダメだと思ったんだ。ごめん、上手く言えないけど……」

「ううん。それだけで、十分。ありがと、葵」

 そう言った海斗君は、僕の手を引いて額にキスをした。

「そろそろ、海斗呼びしてくれると嬉しいんだけど……」

「海斗」

 自分の言った言葉に自分で恥ずかしくなったが、そう言われた海斗君はものすごく嬉しそうだった。

「海斗」

「なに?」

 名前を呼んだだけで、海斗君がこんなに喜ぶなら呼んでもいいかもしれない。

「なんでもない」

「なんだよ、もう」

 そう言った海斗君は、笑っていた。僕が笑っている海斗君の手に、そっと自分の手を絡ませると、海斗君は嬉しそうな顔をしていた。