夏色のキャンバス

 生徒総会の準備が終わると、ゴールデンウィークに入った。四月はそこまで暑くなかったのに、五月に入ると急激に暑くなった。

 神田君と優、それから海斗君と僕の四人で遊びに行こうという話もあったが、急に神田君の都合が悪くなり、もともと森崎先輩に美術館へ一緒に行こうと誘われていたということもあって、僕達は近所にある美術館に集まっていた。

「山田先輩?」

「俺も誘われたんだけど、一緒に行っても大丈夫?」

 森崎先輩以外に人が来ると思っていなかった僕達だったが、山田先輩なら大歓迎だ。

「僕は構いませんが……」

 そう言いながら後ろを振り返ると、優と海斗君も頷いていた。

「俺も構いません」

 優がそう言った時、森崎先輩が遅れてやってきた。

「ごめん。チケット忘れて取りに戻ってたら遅くなった」

「チケットは、人数分あるんですか?」

「えっと……無料券一枚で、四人まで入れるよ」

「四人? じゃあ、一人分足りないってことですね」

「いや、そこは俺の奢りってことで。誘ったのは俺だし」

「廉、俺が払うよ」

「いいって」

「いや、俺が払う」

 山田先輩も頑なに譲らなかったために、結局は森崎先輩が折れていた。

「じゃあ、半分払ってもらえると助かる。一人千円だから五百円」

「オッケー、はい五百円」

「サンキュ」

 先輩達のやり取りを見て、『本当に仲が良いんだな』と思った。

「森崎先輩、山田先輩ありがとうございます」

「いいって、気にするな」

 僕が奢ってもらったことに対してお礼を言うと、先輩達は照れていた。

「行こうか」

 森崎先輩がチケットを買ったあとに、みんなで美術館の中へ入ると、正面に大きな色鮮やかな絵が飾られていて圧倒された。絵の下には、順路と矢印が書かれた白い看板が置かれていた。

「そう言えば、案内パンフレット買い忘れてた。先に行ってて」

 僕達が入ってきた後に、団体客が入ってきて通路を塞いでいた。添乗員らしき人が喋り始めると、さっきまで静かだった美術館は急に騒がしくなった。

「俺達も行きます」

 森崎先輩の言葉に海斗君がそう言うと、海斗君は僕の手を引いて、森崎先輩の後をついていった。

「待ってる?」

「少し先まで進んでおきますか? ここにいると、迷惑になりそうですし……」

 絵の下に残された優と山田先輩は困惑しているようだったが、先へ進むことにしたようだ。

「海斗、少し先にいる」

「分かった」

 海斗君が優の言葉に答えるように手を挙げると、彼らは順路の先へ歩いていった。

「海斗君、これって……」

「謀ったのは、俺じゃないからね」

「いや、そうじゃないけど……」

 山田先輩と優が付き合ったらと考えたら、胸のあたりがモヤモヤするような気がした。神田君のことを詳しく知っている訳ではなかったが、優が心変わりをしたらと考えると、微妙な気分だ。

「俺は、優の幸せが一番だって思う」

「僕も……そう思う」

 僕がそう言うと、森崎先輩は驚いていた。

「染谷君が、二人の仲を応援するとは思わなかったよ」

「僕は応援するとかしないとかじゃなくて、優が納得してるんだったら、それでいいと思うというか……」

「そっか。二人とも友達想いなんだね」

「そんなことはないです。ただ、人の想いはそんなに簡単に変えられるものではないと思うので……」

 僕の言葉を聞いた森崎先輩は、腕を組んでいた。

「つまり、二人は上手くいかないと?」

「いえ……ただ、そんな気がするだけです」

 僕と森崎先輩が話していると、海斗君は入り口の横で販売していたパンフレットを手に取ると購入していた。パンフレットにはQRコードがついており、それをスマホで読み取ると詳しい説明が見れるようになっていた。

「行こうか」

 森崎先輩はすでにパンフレットを購入していたので、山田先輩たちのいる場所へ戻ろうとしたが、順路の先には人だかりができて、なかなか前へ進むことは出来なかった。避けるようにして前へ進むと、そこには山田先輩と優が立っていた。そのすぐ側には、なぜか神田君と見知らぬ青年が立っている。

「透?」

「神田君、なんでこんなところに……」

 僕と海斗君が声を掛けると、神田君はバツの悪い顔をしていた、なんてタイミングが悪いのだろう。神田君も僕達が美術館へ行くと知っていたのだから、誰かと会うのならこういう場所は避けてくれたらよかったのに……そう思わずにはいられなかった。

「ごめん。俺、帰るわ」

 優はそう言うと、美術館を出て行こうとした。

「優!」

 神田君は何かを言おうとしていたが、その前に優は山田先輩に手を掴まれてしまっていた。

「俺なら、もっと幸せにできるけど?」

 そう言った山田先輩の手を振り払うと、優は走り去っていった。その後を、神田君が追いかける。

「なにあいつ、気持ち悪っ……」

 神田君と一緒にいた青年は、吐き捨てるようにそう言うと、どこかへ行ってしまった。

「あの二人……」

「仲直りできるといいね」

「うん」

 僕達が話していると、その後ろで森崎先輩が顔を曇らせていた。