夏色のキャンバス

 生徒会の仕事は思っていたほど忙しくなく、バイトも続けられそうだったが、どちらかがおろそかになってもよくないと思い、オーナーの小林さんと話し合って、バイトは来月で辞めることになっていた。

「葵、よかったの?」

「うん。念願のバイトデビューは出来たし。受験生になったら、辞めようかと思ってたから、辞める時期が少し早くなったくらいだよ」

「そっか」

「よっ、お前ら。こんなところにいたのか」

 昼休みに屋上で海斗君と話していると、後ろから生徒会長である森崎先輩に話しかけられた。

「森崎先輩」

「お前ら、付き合ってたんだな」

「な、なんでそんなこと……それは、その……」

 驚いた僕は、しどろもどろな言い方をしてしまった。そんな僕を見た先輩は笑っていた。

「友達にしては、距離が近すぎるっていうか……友達で、その距離はおかしいだろ? 勘違いしてたよ、ごめん」

「勘違い?」

「その……染谷君は、沢田君と付き合っているのかと思ってた」

「え?」

「でも、違ったのなら良かった」

 良かったと言った先輩の言葉に、まさかと思った。

「良かったって、先輩……」

「いや、違う。俺じゃない」

「?」

「山田の方」

「まさか山田先輩は、優のことが好きなんですか?」

「いや、気になってるくらいだと思う。あいつは、確か男しか愛せないって、言ってたような気がする」

「先輩、優は……」

 僕が付き合っている人がいることを森崎先輩に伝えようとすると、海斗君は僕の口を塞いでいた。

「山田先輩は、人の気持ちをないがしろにする人ではありませんよね?」

「当たり前だ。山田先輩はって、なんだ? 俺も、ないがしろになんかしないぞ」

「だったら、いいんです」

 海斗君の言葉に違和感を覚えた僕は、首を傾げながら尋ねた。

「海斗君、それって……」

「優のは、見てらんないよ。他にいい人がいるんだったら、それでいいと思う」

「……うん」

「海斗に飽きたら、俺に乗りかえてもいいんだぞ?」

「えっ……」

 森崎先輩の思っても見なかった言葉に、僕は固まってしまった。

「森崎先輩!」

「ごめん、冗談だ」

「冗談でも、やめてください!」

 海斗君の怒っている姿を見て、なんとなく虚しくなっていた。優は海斗君と違って、滅多に感情的にはならない。そんな優が、山田先輩に告白されたら、神田君との仲は終わってしまうのだろうか。

「海斗君、僕は大丈夫だから」

「葵、どうしたの?」

「何でもない」

 心のどこかで感じた不安を、言葉にすることは出来なかった。