夏色のキャンバス

 三学期の期末テストが終わると春休みになり、冬休みと同じように僕はバイトに明け暮れた。桜の花が咲くころ、新学期が始まった。すっかり忘れていたが、始業式にクラス分けの発表があり、僕達四人はバラバラのクラスになってしまった。僕と海斗君は以前と変わらず五組だったが、優が三組で神田君は六組だった。担任の先生は変わらず白石先生だったが、放課後に帰ろうとしていると声を掛けられた。

「お前たち、あれだろ? 美術部に一回も行ってないだろ?」

「……はい」

 白石先生は、僕達に美術部へ顔を出すようにと言った。

「説明があるみたいだから行ってこい。たぶん、新入生の勧誘の手伝いだと思うんだが……生徒会会長の森崎から言われてな。何かあるみたいなんだ」

「生徒会長?」

「たぶん、入学式の後にパフォーマンスをするんじゃないか?」

「美術部がパフォーマンスですか?」

「分からん。すまないが、沢田にも声を掛けといてくれ」

「分かりました」

 先生が何を言っているのか分からなかったが、美術部に所属している以上、行った方がいいだろう。僕と海斗君は帰りがけに三組へ寄って、優と一緒に美術部へ向かった。

 美術部は特別教室棟にある美術室で活動していたので、とりあえず美術室へ行ってみたが、教室には誰もいなかった。しばらく待っても誰も来なかったので、何か手違いがあったのだろうと思い、帰ろうとすると教室のドアが開いた。

「やあ、待たせてすまないね。あれ? 君達三人だけ?」

 教室へ入って来たのは、二年生の森崎蓮だった。昨年、生徒会副会長をやっていて今年は生徒会会長をやることになったと聞いている。

「いえ。僕達は、普段は美術部にあまり顔を出さないんです。今日は、白石先生からここへ行くようにと言われて美術室へ来たんですが……あの、入学式での紹介とかでしたら僕達には出来ないと思います」

「君達は何か勘違いを……失礼。紹介がまだだったね。生徒会長の森崎蓮だ」

「知ってます」

「俺も」

「ありがとう」

 僕達がそう答えると、先輩は前髪を手でかき上げながら言った。黒縁の眼鏡が似合う、細身で背の高い先輩だったが、顔は笑ってるのに目が笑っていない様子は見ていて怖かった。

「君たちに知られているとは嬉しいね。今日はお知らせがあって、ここへ来てもらったんだ」

 何だか嫌な予感がしつつも、海斗君を残してこの場を離れるわけにはいかないと思っていた。

「君達を生徒会役員に歓迎する」

「いえ、僕達は美術部で……」

「先生から聞かなかったのかな? 生徒会役員は、毎年四月に美術部から選出するのが慣例となってるんだ」

「いえ、僕達は何も知らないですし、何も聞かされていませんでしたので……」

 僕が慌てて教室を出ようとすると、先輩はドアの前で腕を組みながら言った。

「君達は幽霊部員なんだよね? そのことを校長先生や、教頭先生はご存じなのかな?」

「まさか、脅すつもりですか?」

「いや、そんなつもりはないが……」

 およそ高校生徒は思えない笑い方で、僕達の前に立ちはだかった先輩は、ただ者ではないと思った。

「ええと、君は――」

「高梨です。こっちは染谷君で、こちらが沢田君です」

「じゃあ、高梨君が副会長で書記が染谷君と沢田君ね」

「なっ……葵は関係ないだろ。外してくれ」

 優は僕の前に立ちはだかると、両手を広げて僕の前に立った。

「そうです。森崎先輩、葵は見逃してやってくれませんか?」

 優と海斗君が僕が生徒会に入らなくて済むように、森崎先輩の前に立ちはだかると、森崎先輩は眼鏡を人差し指で上げて、面白そうなものを見つけたかのような顔で僕を見ていた。

「二人に守られて、君はお姫様なのかな?」

「違っ……」

 先輩は、僕の顔を見ると言った。

「一人だけ、やらないつもり?」

「そんなつもりは、ありません」

「じゃあ、決まりだね」

「……」

「生徒会へ、ようこそ」

 笑顔でそう言った先輩に対して、僕達三人は言葉を失っていた。