夏色のキャンバス

 冬休みがあけると、日常生活が戻って来た。四人で遊びに行くこともあったが、基本的に神田君の所属しているサッカー部は毎日ある。神田君の帰る時間は、どうしても遅くなってしまうので、優は図書館で勉強をしながら部活が終わるのをいつも待っていた。

「もしかして新見さん、まだ待ち伏せしてるの?」

「最近は見なくなったけど、油断した頃にまた現れそうだからね。気をつけてはいるけど……」

 もともと海斗君と二人で帰ることが多かったが、最近は優と一緒に図書館で勉強してから帰る日も多くなった。冬休みに入る少し前に、担任の白石先生に勧められて、僕と海斗君と優は美術部に所属することになった。好きな時に行って好きな絵を描けばいいという話だったが、所属してから絵を描いたことは一度もなかった。

 こんなんでいいのだろうかと思いながら顔を上げると、そこには数学の問題集を眺めている海斗君の顔があった。海斗君に見惚れていると、隣で咳ばらいをする声が聞こえた。

「葵、後で相談があるんだけど……」

 優は僕の耳に顔を近づけると、内緒話でもするかのような小さな声で僕に言った。

「何してるの?」

 海斗君は僕達の顔が近づくと、顔を上げてこちらを見ていた。微笑んでいたが、目は笑っていない。

「ううん、何も」

「あとでメールする」

「分かった」

 僕が頷くと、優は机の下で親指を立てていた。


※※※※※


 家に帰って夕飯を食べた後は、新しく発売したRPGゲームのアバター装備を考えていた。そしたら、あっという間に一時間が過ぎていて……スマホを見れば、優から電話が来ていた。マナーモードにしたままで気がつかず、慌てて折り返すと優はすぐに電話に出た。

「ごめん、気がつかなかった。何かあった?」

「ううん、何も。何もなさすぎるというか……」

「何もなさすぎる?」

「葵と海斗は、すごくいい感じに見えるのに俺達はそうでもないっていうか……」

「いや、人それぞれじゃない? 何もしないカップルって、いるみたいだし」

「何もしないカップル?」

 僕が海斗君に聞いた話を話すと、優は納得したようだった。

「そういうことね。でも、俺達はその、あんまり甘い雰囲気になることもないっていうか」

「でも、お互い好きなんでしょ?」

「付き合った時は、そう思ってた。でも、あんまりにも淡々としてるから、なんか違ったのかなって思えてきて……」

「それ、神田君に言った?」

「……言ってない。でも、別れるべきか迷ってる」

「え、別れる?」

「俺のこと、好きじゃなくなったんなら、仕方ないんじゃないかな」

「ストップ、ストップ。まだ、そう決まった訳じゃないでしょ? 本人に直接気持ちを聞いてみてからでも、遅くはないんじゃない?」

「うん、そうしてみる」

「あ……」

「どうかしたの、葵?」

「バレンタインの時に告白するのはどう?」

「告白って、女子じゃあるまいし」

「でも、好きな人からプレゼントをもらったら、誰だって嬉しいと思うし。バレンタインなら、聞きやすいんじゃない?」

「え?」

「プレゼントして、気持ちを伝える。いい考えじゃない?」

「恥ずかしい」

「じゃあ、僕もやるよ」

「は?」

「一緒に、手作りチョコを作ってみよ。チョコ溶かして型に入れて固めるだけでしょ? 簡単だよ」

「葵たちは、これ以上盛り上がってどうするつもりなの? それとも何? 見せつけようとしてるの?」

「見せつけてなんか……」

 そう言ってから、この間は優のいる前で普通にキスをしようとしたことを思い出していた。

「……でも、たまには? 気分転換に料理してみるのもいいかもな」

「そう来なくっちゃ」

 優が考え直してくれてよかった。そう思いながら、今度の土曜日に会う約束をして電話を切ったのだった。