夏色のキャンバス

 夕飯を食べ終わり上映会が始まると、白黒の無音声の映像がスクリーンに映し出され、映画が始まった。音のない映画を観るのは初めてだったが、想像以上に面白かった。話の途中で主人公が帽子を取ったのは何故なのか。男性が気がつかないふりをしたのは何故なのか、映画を観ながら話は弾んでいった。最後の最後で中途半端なところで終わり、腑に落ちない部分もあったが、最終的にはそういう映画なのだろうという話になった。

「これって喜劇? それとも悲劇?」

 僕の言葉に、海斗君は首を傾げていた。

「確か、タイトルはパリジェンヌの喜劇だったかな」

「喜劇? コメディ映画ってこと?」

「コメディにも色々あるからね」

 海斗君はそう言うと、僕の頭を撫でていた。二人の前で恥ずかしいと思いつつも、避けることは出来なかった。

「そろそろ、行こうか」

「そうだね」

 神田君が帰ろうと言うと、優も立ち上がった。

「海斗は泊っていくんでしょ?」

「うん」

「そうなんだ。じゃあ、僕も帰るね」

 僕がそう言って、立ち上がろうとすると海斗君が僕の手を掴んで言った。

「もう少し、ゆっくりしていきなよ」

「え?」

 神田君と優は、「またねー」と言うと、部屋を出ていく。

「こっち来て」

 海斗君は僕を二人掛けのソファへ座らせると、隣に座って手を握り、僕に寄りかかってきた。

「寒い?」

「ううん、平気」

「葵は、これからどうするの?」

「どうするって?」

「進路。冬休み明けに出すように言われてただろ」

 海斗君は僕の手を撫でながら、僕を見つめていた。

「うーん、まだ考えてないっていうか、思いつかないっていうか」

「葵なら、何でもできるよ」

「海斗君がそう言うと、本当に何でも出来る気がするから不思議だね」

「ふ……」

「今、笑った?」

「ごめん。ただ、葵らしいなって」

「海斗君は?」

「うーん、俺は両親の後を継ぐべきか迷ってる」

「輸入販売の会社をやってるんだっけ?」

 海斗君の両親は、年末年始も仕事で忙しいらしく、大晦日も関係なく海外を飛び回っていた。

「うん、いろいろ手広くやってるみたい。でも、俺はどうせやるなら自分で会社をやりたいって思ってるんだ」

「海斗君なら出来そう」

「でも、まだ知識が足りないと思う。だから、大学には行こうかなって思ってる」

「僕も大学には行こうと思ってるけど、それだと何だか流されてるような気がして、自分の中では微妙なんだよね」

「それ、分かる。漠然としたいことはあるのに、目標は定まってない感じ」

「中学で仲良かった子は、医者を目指してるって言って、毎日学校帰りに塾へ通ってたんだ。何か、そういう明確な目標持ってるのって羨ましいなって、思う」

「葵も他人を羨ましいって思うんだね」

「当たり前だよ。人を何だと思ってるの?」

 怒った僕に、海斗君が突然口づけをした。

「なっ……」

「葵……」

 何度もキスをされながら、僕はいつの間にか、ソファの上に押し倒されていた。

「海斗君、ちょっと……ま、待って」

「待てないよ」

「ストップ、ストップ」

 海斗君の両腕を掴んで引き離すと、そこには笑っている海斗君がいた。

「葵、焦りすぎ」

「海斗君が押し倒すから」

「抱きつくだけだったらいい?」

「……うん」

 海斗君は僕の上にのしかかると、ソファの上で僕を抱きしめていた。

「何もしないカップルもいるんだって」

「何もしない?」

「つまりプラトニックってこと」

「そんな人もいるんだ」

「精神的に満たされていたら、必要ないって人もいるのかもね。俺達は男だし……やるってなったら、どっちかが痛い思いをしなくちゃいけないだろ?」

「でも、行為をしないで愛を伝えて、お互いを信じられるのかな」

「それは、その人達次第なんじゃないかな。行為をしていても、浮気をする人はするだろうし」

「……」

「葵も、そういうこと考えてたんだね」

「少しくらいは知っておいた方がいいかなって思って、ちょっと調べただけだよ」

「今度、一緒に調べてみる?」

「いいよ。あっ、もうすぐ終電の時間」

「ほんとだ」

「そろそろ帰る?」

「うん、そうだね」

 その後、海斗君と仲良く部屋を片づけると、終電一本前の電車に乗って、家へ帰ったのだった。