5階で降りると、非常灯の明かりを頼りに通路の先にあるドアの前まで行った。
「ここ?」
「うん。一年前に弁護士事務所の人がここを出て行ってから、次に入るお店が見つかっていないんだ。でも、電気と水は今でもまだ使えるから、大丈夫だと思う」
そう言った海斗君はポケットから鍵を取り出すと、『法律相談所』と書かれたドアを開けて、部屋の中へ入った。海斗君は電気とエアコンをつけながら、僕にブラインドを閉めるように言うと、ダンボールの中から掃除用具を取り出していた。
「どうしてブラインドを閉めたの?」
「どうしてって、夜だから向かいのビルから丸見えだし」
海斗君は僕の近くへ来ると、抱きついてきた。
「こんなことも、出来ないでしょ」
「ちょっ、待って。まだ半分しか下ろしてないから!」
「冗談だよ。モニターを運ぶから、手伝ってくれる?」
「うん」
海斗君のイタズラにドキドキしていたが、掃除が始まると海斗君は手際よく部屋の中を片づけていった。
「ソファとテーブル、それからキッチンがあれば充分だね」
「この機械って、何なの?」
僕が机の上に置いてあった機械を指差すと、海斗君は嬉しそうに笑った。
「8ミリビデオカメラ。あのスクリーンに昔の映画を映してみようかなって思って」
「へぇ……」
「ダメだったら、あっちのモニターで何か見ようかなって思ったんだけど」
「海斗君、ソファって三人しか座れないの?」
テーブルには、二人掛けの椅子と一人掛けのソファが置かれていた。
「うん。あっちにキャスターつきの椅子があったから、俺はそれ使おうかなと思って」
「僕が、そっちの椅子でいいよ」
「ダメ。葵は、お客さんだからね。もしどうしてもって言うなら、僕の膝の上に乗ってもらうことになると思うけど」
「二人の前で? そんなこと、出来るわけないよ」
「じゃあ、諦めて」
僕が何も言えずに、立ったまま口を膨らましていると海斗君は僕の手を引いて歩き、二人掛けのソファへ座った。
「今日は来てくれてありがとう。今度、お礼するね。何がいい?」
「いらないよ、そんなの」
「だめ。考えておいてね」
二人掛けのソファは柔らかく、腰掛けたことによって、二人の距離は縮まっていた。疲れていた僕は、さりげなく手を握ってきた海斗君の肩に頭を乗せるようにして寄りかかった。
「どうしたの? 何かあった」
「何も……そう言えば、変なお客さんが来たんだ」
「変なお客さん?」
「いや、変ってほどでもないんだけど、オーナーの小林さんが出て来て、すぐに対応してくれてさ。僕って、何も出来ないのに役立たずだなって思って」
「でも、葵はちゃんとやったんでしょ?」
「うん」
「だったら、そんなに気に病む必要はないよ。小林さんだって、葵が一生懸命やってるの分かってたから、助けに入ってくれたんだろうし」
身体を起こしてソファへ座り直すと、優しく僕に語りかけてくる海斗君を直視できなかった。見た目だけでなく、性格までスパダリの海斗君は、隣にいるだけで心臓に悪い。
「……」
僕が顔を両手で覆って恥ずかしくなっていると、海斗君は心配そうにこちらを覗き込んでいた。
「葵?」
「なんでもない。ちょっと待って」
「……もしかして、恥ずかしかった?」
「……うん」
「手、貸して」
「え?」
海斗君は僕の手を掴むと、服の上から海斗君の心臓部分に手を押しつけた。
「僕だって全く恥ずかしくない訳じゃないんだよ。君の隣にいるだけで、こんなにドキドキしてる」
洋服越しに伝わってくる海斗君の体温と鼓動は、僕の鼓動を更に加速させた。これでは、何が何だか分からない。僕は海斗君の手を掴むと、同じように自分の胸に彼の手を当ててみた。
「ぼ、僕もドキドキしてる」
「……うん」
そう言った海斗君は、僕の手を掴みながらキスをした。誰もいない夜のオフィスで、僕達は触れるだけのキスをした。
「ここ?」
「うん。一年前に弁護士事務所の人がここを出て行ってから、次に入るお店が見つかっていないんだ。でも、電気と水は今でもまだ使えるから、大丈夫だと思う」
そう言った海斗君はポケットから鍵を取り出すと、『法律相談所』と書かれたドアを開けて、部屋の中へ入った。海斗君は電気とエアコンをつけながら、僕にブラインドを閉めるように言うと、ダンボールの中から掃除用具を取り出していた。
「どうしてブラインドを閉めたの?」
「どうしてって、夜だから向かいのビルから丸見えだし」
海斗君は僕の近くへ来ると、抱きついてきた。
「こんなことも、出来ないでしょ」
「ちょっ、待って。まだ半分しか下ろしてないから!」
「冗談だよ。モニターを運ぶから、手伝ってくれる?」
「うん」
海斗君のイタズラにドキドキしていたが、掃除が始まると海斗君は手際よく部屋の中を片づけていった。
「ソファとテーブル、それからキッチンがあれば充分だね」
「この機械って、何なの?」
僕が机の上に置いてあった機械を指差すと、海斗君は嬉しそうに笑った。
「8ミリビデオカメラ。あのスクリーンに昔の映画を映してみようかなって思って」
「へぇ……」
「ダメだったら、あっちのモニターで何か見ようかなって思ったんだけど」
「海斗君、ソファって三人しか座れないの?」
テーブルには、二人掛けの椅子と一人掛けのソファが置かれていた。
「うん。あっちにキャスターつきの椅子があったから、俺はそれ使おうかなと思って」
「僕が、そっちの椅子でいいよ」
「ダメ。葵は、お客さんだからね。もしどうしてもって言うなら、僕の膝の上に乗ってもらうことになると思うけど」
「二人の前で? そんなこと、出来るわけないよ」
「じゃあ、諦めて」
僕が何も言えずに、立ったまま口を膨らましていると海斗君は僕の手を引いて歩き、二人掛けのソファへ座った。
「今日は来てくれてありがとう。今度、お礼するね。何がいい?」
「いらないよ、そんなの」
「だめ。考えておいてね」
二人掛けのソファは柔らかく、腰掛けたことによって、二人の距離は縮まっていた。疲れていた僕は、さりげなく手を握ってきた海斗君の肩に頭を乗せるようにして寄りかかった。
「どうしたの? 何かあった」
「何も……そう言えば、変なお客さんが来たんだ」
「変なお客さん?」
「いや、変ってほどでもないんだけど、オーナーの小林さんが出て来て、すぐに対応してくれてさ。僕って、何も出来ないのに役立たずだなって思って」
「でも、葵はちゃんとやったんでしょ?」
「うん」
「だったら、そんなに気に病む必要はないよ。小林さんだって、葵が一生懸命やってるの分かってたから、助けに入ってくれたんだろうし」
身体を起こしてソファへ座り直すと、優しく僕に語りかけてくる海斗君を直視できなかった。見た目だけでなく、性格までスパダリの海斗君は、隣にいるだけで心臓に悪い。
「……」
僕が顔を両手で覆って恥ずかしくなっていると、海斗君は心配そうにこちらを覗き込んでいた。
「葵?」
「なんでもない。ちょっと待って」
「……もしかして、恥ずかしかった?」
「……うん」
「手、貸して」
「え?」
海斗君は僕の手を掴むと、服の上から海斗君の心臓部分に手を押しつけた。
「僕だって全く恥ずかしくない訳じゃないんだよ。君の隣にいるだけで、こんなにドキドキしてる」
洋服越しに伝わってくる海斗君の体温と鼓動は、僕の鼓動を更に加速させた。これでは、何が何だか分からない。僕は海斗君の手を掴むと、同じように自分の胸に彼の手を当ててみた。
「ぼ、僕もドキドキしてる」
「……うん」
そう言った海斗君は、僕の手を掴みながらキスをした。誰もいない夜のオフィスで、僕達は触れるだけのキスをした。


