今年の文化祭は日曜日に行われたため、次の日は振替休日だった。疲れていたのか、文化祭から家に帰ると、そのままベッドの上で眠ってしまい、朝早くに目が覚めた僕は、スマホアプリのグループトーク画面を見て固まっていた。
『緊急事態発生。できれば明日、相談したいことがある』
神田君からメッセージが来ていた。僕以外の海斗君と、優は既に了承のメッセージを送っていて、今日の朝11時に学校の教室に集まる話になっていた。
「了解」
(新見千早と何かあったのだろうか……)
そう思いつつも、僕は了解と書かれたネコのスタンプを送ると、出掛ける準備をした。学校で集まるなら、制服の方がいいだろう。
「あら、葵。今日も学校へ行くの?」
「うん。友達の……片付けを手伝ってくるよ」
「あら、気をつけてね」
嘘ではない嘘に少し心が痛んだが、神田君のことを話す訳にはいかない。
「いってらっしゃい」
「いってきます」
学校へ着くと、正門の脇にある教員用の入り口から中へ入った。誰もいない廊下を一人で歩いていたが、教室へ近づくにつれて話し声が聞こえてきた。
「遅いよ、葵」
教室へ入ると、優が僕に言った。
「ごめん、朝まで気がつかなくて」
「いいよ、ありがとう。俺も、今さっき来たところだから」
神田君の申し訳なさそうな感じに、僕が新見千早に名前をバラしてしまったことは、関係ないのかなと思い始めていた。
「葵、昨日の新見さん……だっけ? 透に会いに行って、しつこく付きまとってたらしいよ」
「え?」
「俺達が名前バラしたのもあるけど、サッカー部は校長室の隣で展示室の警備係をやってたでしょ? すぐに見つかっちゃったらしくて、騒いで大変だったらしいよ」
「ごめんね、神田君」
「いや、別にいいんだけど。名前だって、試合の時に聞かれてたらサッカー部の連中とか普通に答えてただろうし」
「もしかして、つきまとわれてるとか?」
僕の言葉に神田君は顎に手を当てると、顔を天井に向けて考えていた。
「たまに待ち伏せされてるのか、偶然を装ったかのように会うことはあるけど、特に何もされてないからな……」
「何それ?」
僕より早く反応をしたのは優だった。つきまとわれているのであれば、警察に言うべきだろう。
「ストーカー? 警察にいった方が……」
「いや、こんなんじゃ警察は動かないと思うよ。何かされたって訳じゃないし。向こうが偶然だって言い張れば、証拠なんてないんだし」
「えっと……それじゃ、今日は何で集まったの?」
「俺から言う?」
そう言った海斗君の言葉に、僕は首をひねった。何かを言いにくそうに、三人で話している姿を見て、僕だけのけものにされている気分になった。
「いや、俺が言うよ。葵、今まで黙っててごめん。実は、俺と透は付き合ってるんだ」
「そうなんだ。付き合って……ええ?」
僕が大声を出すと、他のみんなは笑っていた。どうやら知らなかったのは、僕だけだったようだ。
「まさか、知らなかったの僕だけ?」
「ごめん。いつかは言おうと思ってたんだけど」
「いつから?」
「夏祭りのちょっと後かな。俺が勉強教えてもらうために、優に連絡したのがきっかけで……」
「けっこう前だね。僕だけ知らなかったの、ちょっとショック」
「葵。俺も文化祭の少し前まで知らなかったんだ。知ったのは、ほぼ同じだよ」
「海斗君……それで? 優は、なんで黙ってたの?」
「内緒にしてた訳じゃないんだ。ただ、言いそびれたっていうか……でも、この機会にちゃんと言っておいた方がいいかなって、思って」
「早く言ってよ。それにしても、神田君は何で優に勉強を教わろうと思ったの?」
「いつもは海斗に教えてもらってたんだけど、付き合い始めたばっかりの時に、連絡するのは少し遠慮したっていうか」
「俺だって常に学年十位以内に入ってるからな。透は、それを知ってたみたいなんだ」
「へぇ……」
目の前にいる二人が付き合ってるって言われても、何だかピンと来なくて僕は二人の顔を交互に眺めてしまっていた。
「なんだ、お前ら来てたのか」
教室の入り口から聞こえた声に驚いて振り返ると、そこには白石先生が立っていた。
「休校の日に来ちゃ、ダメじゃないか」
「すみません」
僕達が口々に謝ると、先生は眉間にシワを寄せながら言った。
「お前たちは、文化祭の後片付けに来たんだよな? 昨日、俺が頼んだ」
「は、はぁ……」
「そこにあるダンボールを捨てておいてもらえないか?」
「分かりました」
「捨てたら、帰るんだぞ?」
「……はい」
意味が分からなかったが、どうやらダンボールを捨てることで、なかったことにしてくれるようだ。僕達は立ち上がると、教室の隅に置いてあったダンボールをゴミ捨て場へ持っていった。
「雪崩が起きそうだね」
ゴミ捨て場には大量のダンボールが置かれていた。
「まあ、なんとかなるっしょ」
「そうだ、この後ファミレス行かない?」
「え、なんで?」
ファミレスに行かないかと言った僕に、優は聞き返した。
「お祝いに」
「まさか、俺と優が付き合い始めたお祝いとか言わないよな……」
「だめなの?」
僕の言葉に、神田君と優は狼狽えていた。
「恥ずかしいよ、そんなの」
優は恥ずかしそうにしていたが、海斗君は僕の肩に腕を乗せると言った。
「葵、いいね。ファミレスで二人の馴れ初めをじっくり聞かせてもらおうじゃないか」
「う、うん」
「やめてくれ……」
僕達四人はそのままファミレスに向かい、お昼ご飯を食べながら優と神田君の馴れ初めをじっくり聞いた――というより、海斗君が聞き出していた。
『緊急事態発生。できれば明日、相談したいことがある』
神田君からメッセージが来ていた。僕以外の海斗君と、優は既に了承のメッセージを送っていて、今日の朝11時に学校の教室に集まる話になっていた。
「了解」
(新見千早と何かあったのだろうか……)
そう思いつつも、僕は了解と書かれたネコのスタンプを送ると、出掛ける準備をした。学校で集まるなら、制服の方がいいだろう。
「あら、葵。今日も学校へ行くの?」
「うん。友達の……片付けを手伝ってくるよ」
「あら、気をつけてね」
嘘ではない嘘に少し心が痛んだが、神田君のことを話す訳にはいかない。
「いってらっしゃい」
「いってきます」
学校へ着くと、正門の脇にある教員用の入り口から中へ入った。誰もいない廊下を一人で歩いていたが、教室へ近づくにつれて話し声が聞こえてきた。
「遅いよ、葵」
教室へ入ると、優が僕に言った。
「ごめん、朝まで気がつかなくて」
「いいよ、ありがとう。俺も、今さっき来たところだから」
神田君の申し訳なさそうな感じに、僕が新見千早に名前をバラしてしまったことは、関係ないのかなと思い始めていた。
「葵、昨日の新見さん……だっけ? 透に会いに行って、しつこく付きまとってたらしいよ」
「え?」
「俺達が名前バラしたのもあるけど、サッカー部は校長室の隣で展示室の警備係をやってたでしょ? すぐに見つかっちゃったらしくて、騒いで大変だったらしいよ」
「ごめんね、神田君」
「いや、別にいいんだけど。名前だって、試合の時に聞かれてたらサッカー部の連中とか普通に答えてただろうし」
「もしかして、つきまとわれてるとか?」
僕の言葉に神田君は顎に手を当てると、顔を天井に向けて考えていた。
「たまに待ち伏せされてるのか、偶然を装ったかのように会うことはあるけど、特に何もされてないからな……」
「何それ?」
僕より早く反応をしたのは優だった。つきまとわれているのであれば、警察に言うべきだろう。
「ストーカー? 警察にいった方が……」
「いや、こんなんじゃ警察は動かないと思うよ。何かされたって訳じゃないし。向こうが偶然だって言い張れば、証拠なんてないんだし」
「えっと……それじゃ、今日は何で集まったの?」
「俺から言う?」
そう言った海斗君の言葉に、僕は首をひねった。何かを言いにくそうに、三人で話している姿を見て、僕だけのけものにされている気分になった。
「いや、俺が言うよ。葵、今まで黙っててごめん。実は、俺と透は付き合ってるんだ」
「そうなんだ。付き合って……ええ?」
僕が大声を出すと、他のみんなは笑っていた。どうやら知らなかったのは、僕だけだったようだ。
「まさか、知らなかったの僕だけ?」
「ごめん。いつかは言おうと思ってたんだけど」
「いつから?」
「夏祭りのちょっと後かな。俺が勉強教えてもらうために、優に連絡したのがきっかけで……」
「けっこう前だね。僕だけ知らなかったの、ちょっとショック」
「葵。俺も文化祭の少し前まで知らなかったんだ。知ったのは、ほぼ同じだよ」
「海斗君……それで? 優は、なんで黙ってたの?」
「内緒にしてた訳じゃないんだ。ただ、言いそびれたっていうか……でも、この機会にちゃんと言っておいた方がいいかなって、思って」
「早く言ってよ。それにしても、神田君は何で優に勉強を教わろうと思ったの?」
「いつもは海斗に教えてもらってたんだけど、付き合い始めたばっかりの時に、連絡するのは少し遠慮したっていうか」
「俺だって常に学年十位以内に入ってるからな。透は、それを知ってたみたいなんだ」
「へぇ……」
目の前にいる二人が付き合ってるって言われても、何だかピンと来なくて僕は二人の顔を交互に眺めてしまっていた。
「なんだ、お前ら来てたのか」
教室の入り口から聞こえた声に驚いて振り返ると、そこには白石先生が立っていた。
「休校の日に来ちゃ、ダメじゃないか」
「すみません」
僕達が口々に謝ると、先生は眉間にシワを寄せながら言った。
「お前たちは、文化祭の後片付けに来たんだよな? 昨日、俺が頼んだ」
「は、はぁ……」
「そこにあるダンボールを捨てておいてもらえないか?」
「分かりました」
「捨てたら、帰るんだぞ?」
「……はい」
意味が分からなかったが、どうやらダンボールを捨てることで、なかったことにしてくれるようだ。僕達は立ち上がると、教室の隅に置いてあったダンボールをゴミ捨て場へ持っていった。
「雪崩が起きそうだね」
ゴミ捨て場には大量のダンボールが置かれていた。
「まあ、なんとかなるっしょ」
「そうだ、この後ファミレス行かない?」
「え、なんで?」
ファミレスに行かないかと言った僕に、優は聞き返した。
「お祝いに」
「まさか、俺と優が付き合い始めたお祝いとか言わないよな……」
「だめなの?」
僕の言葉に、神田君と優は狼狽えていた。
「恥ずかしいよ、そんなの」
優は恥ずかしそうにしていたが、海斗君は僕の肩に腕を乗せると言った。
「葵、いいね。ファミレスで二人の馴れ初めをじっくり聞かせてもらおうじゃないか」
「う、うん」
「やめてくれ……」
僕達四人はそのままファミレスに向かい、お昼ご飯を食べながら優と神田君の馴れ初めをじっくり聞いた――というより、海斗君が聞き出していた。


