夏色のキャンバス

 たこ焼きを食べたあと、もう少し見て回ろうという話になり、僕達は屋上を出て出し物をしている教室へ向かった。

「あっ、お化け屋敷」

「入る?」

「ううん。僕は、やる方をやりたかっただけだから」

「そっか」

 僕が首を横に振ると、海斗君は僕の手を握っていた。

「え?」

「カップルって設定でどう?」

「どうって……うん、いいよ」

 海斗君の言葉に、気恥ずかしいと思いながらも嬉しかった。それに、少し混んできたので手を繋いでいた方が歩きやすい。

「あ、染谷葵みっけ」

 僕が聞いたことのある声に振り返ると、そこには中学校の時の同級生が立っていた。彼女は僕を見つけると、人と人の間をすり抜けながらこちらへやって来た。

「なに、その恰好」

「……」

「……誰?」

 彼女は中学の時に同じクラスだった新見千早だ。僕は彼女のことが苦手だった。

「葵の友達です。あなたこそ、誰ですか?」

「城東高校の新見千早よっ。覚えておきなさい」

 彼女は僕達に人さし指を向けると、決めゼリフのように言った。

「元カノ?」

「そんな訳ない」

「世の中には、いろんな人がいるよね。行こうか」

 海斗君が僕の手を引いて立ち去ろうとすると、彼女は僕達の前に立ちはだかった。

「私、あんたを探してたの」

「なんで?」

(怖っ……てか、探してたってなに?)

 僕を探していたと言った新見さんは、鞄からスマホを取り出すと僕へ見せていた。スマホには、よく知っている男子生徒の顔が映っていた。

「彼について聞きたいことがあるんだけど……」

「神田君?」

「透に?」

 僕達が思わず声を漏らすと、彼女は目を輝かせながら言った。

「そう、神田透君って言うの」

「しまった」

「知らなかったのか」

 僕と海斗君は、彼女の知っているような口ぶりに騙されてしまった。急に友人の危機が訪れたような気がして、僕は握っている手に思わず力を込めた。

「透に何か用?」

「私、サッカー部のマネージャーをしてるんだけど、先週の土曜日に城南高校と城東高校で練習試合があって……」

「知らない。そうなんだ」

 海斗君は、さも興味がないというように、そっけない態度をとっていたが、そんな塩対応に屈することなく、新見さんのテンションは上がっていった。

「私、一目惚れしちゃって……」

「は?」

「連絡先、教えてくれない?」

「教えるわけないだろ」

「染谷君」

「僕、神田君とあまり話したことないし」

「SNSのアカウントでもいいから」

「知らないよ」

「はっ、使えねー」

 急に態度を変えた新見さんに怯えていると、海斗君が僕の手を引っ張った。

「もう、いいでしょ。俺達を巻き込まないでください」

 そう言った海斗君は僕の手を引くと、下の階へ降りていった。二年生の教室では、食べ物を売っている教室が多いのか、廊下までいい匂いが流れてきていた。三組で売っていた唐揚げ棒を買うと、僕達は壁に凭れかかりながら唐揚げ棒を食べた。

「中学の時の知り合い?」

「同じクラスだったんだ。悪い人じゃないんだけど、性格があんな感じだから、陰で『女王』って呼ばれてた」

「女王……へぇ、納得。葵、食べたら戻ろうか」

「うん」

 神田君のことが心配だったが、そろそろ教室へ戻らなければならない時間だ。唐揚げを食べ終えると、僕達はそのまま教室へ戻った。