それから7月に入ると期末テストが始まり、テストが終わると、すぐに夏休みになった。海斗君とは、今まで通り一緒に遊んだり一緒に帰ったりして過ごしていた。
恋人としての進展はなく、お試しで付き合っていることを忘れそうになった頃に、みんなで夏祭りに行こうという話になった。
夏祭り当日。神社の境内で待ち合わせた僕たち四人は、神社の入り口に集まった。
「お待たせ」
みんなの中で僕が最後の到着だったらしく、集まると神田君が「それじゃ行くか」と言って歩き出した。
「葵、浴衣で来たんだ」
「うん。毎年、母さんが着せてくれるんだ。もう恥ずかしいからやめてって言ってるんだけど、背が伸びたら着れなくなるかもしれないから、もったいないって言って」
「葵は毎年、浴衣だよな」
海斗君がこちらを見ていたので僕が照れていると、隣で優が揶揄うように言っていた。
「本当は浴衣なんて恥ずかしいんだけど……」
「似合ってるから、いいんじゃない?」
「ありがとう」
海斗君の褒め言葉に照れていると、優が「砂はきそう」と言った。
「葵は、今日こっちな」
神田君に腕を掴まれた僕は、境内とは反対方向にあるたこ焼き屋へ連れていかれた。
「あれっ……優と海斗君は?」
「たまには別行動もいいだろ?」
「えっ……うん」
てっきり海斗君と二人か、四人で回るものだと思っていた。二人と引き離されてしまった僕は、軽く落ち込んでいた。
「そう落ち込むなよ。そんなに海斗と回りたかったの?」
「ちがっ……くない」
僕はいいかげん自分の気持ちに気づいていた。海斗君のことは好きだ……でも、恋愛の好きかって聞かれると、いまいち自信が持てなかった。人を好きになったことがないから、これが友達としての好きか、それとも恋愛としての好きなのかは、判別がつかなかった。
「いいかげん、素直になったら?」
「素直って……神田君。好きって、どういう気持ち?」
「はぁ?」
「ごめん。人を好きになったことがなくて……」
「あああ……」
神田君は空を見上げると、髪をかきむしって呻き声を上げていた。
「待って。そっからだとは、さすがの俺も思わなかったわ」
「え?」
「ちょっと来て」
神田君は僕の腕を掴むと、優と海斗君が見える位置まで戻ってきていた。彼らの元へ戻るつもりがないのか、数メートル手前で立ち止まると、射的をしている彼らを眺めていた。
「どう思う?」
「どうって……楽しそうだから、僕も一緒にやりたいな」
「違う。二人が付き合ってるって言ったら、どう思う?」
「どうって、優はそんなことしないよ」
「そうじゃなくて、もし仮に……そうだ。海斗が優を好きになるってことも考えられるだろう? いつまでたっても答えがでない葵を諦めて、優を好きになる。そういう可能性だって、ゼロじゃないんだ」
「海斗君が優を?」
その可能性を考えた僕は、目の前が真っ暗になった。
「どう思う?」
「どうって……そうなったら僕は、二人の友達をいっぺんになくすのか」
「どうして結論が先なんだよ! たとえ、海斗と別れて海斗と優が付き合うことになったって、友達でいればいいじゃないか。今も友達で、これからも友達」
「そんなこと出来ないよ……」
神田君にそう言われて、僕は海斗君と友達ではないと思った。もし仮にそうなったら、友人の幸せを素直に喜べない。それどころか、壊したいって思う。そんなのは友人じゃない。それくらいのこと、僕だって分かる。海斗君がいないなら、他の誰かの手を取るなら、傍にいても心が苦しくなるだけだと思った。
「他の誰かに取られたくないとか、ふとした時に思い出してしまうとか……それは、もう好きだって言っていいと思う」
神田君の話を聞いていたが、優と海斗君の前に一人の青年が現れた。彼は二人に挨拶すると、海斗君にやけに馴れ馴れしかった。
「誰?」
「やばっ、あれ海斗が中学の時に付き合ってた元カレじゃん」
「え?」
神田君の言葉を聞いたその瞬間、僕は走り出していた。走って彼らのところまで行くと、僕は海斗君に触れようとしていた青年の手を叩き落とした。
「葵?」
「ごめんなさいっ」
(なにやってんだ、僕は!)
「ちょっと、葵!」
二人が僕を呼び止めるのを振り切って、僕は境内を走った。人の流れに沿って走って行くと、本殿の奥へ辿り着いた。その少し先にある道へ進むと、そこには誰もいなかった。雑木林が続いている道に立つと、静かで蝉の声だけが響いていた。胸の鼓動が早鐘を打っているのは、走ってきたせいなのか、自分でもよく分からなかった。
「葵!」
追いかけてきたのか、海斗君は僕の傍まで来ると手を握った。
「ごめん……」
「透に聞いたの?」
「うん」
「ごめん。ちゃんと説明すればよかったね。彼とはもう別れたし、何でもないんだ。さっきも、俺の服に着いた糸くずを取ってくれようとしていただけだし……」
「え? 糸くず?」
まさかの話に、僕は穴があったら入りたいと思った。
「彼とは付き合ってたけど、もう昔の話。四股してたから、こっちから別れようって言って別れたんだ」
「四股?!」
「向こうから告白してきたんだけどね」
「なんか、すごい人もいるんだね」
「そうだよ。彼とは何もなかったし、自分から付き合いたいって思ったのは葵が初めてなんだ」
「その、聞きづらいんだけど……」
「いいよ、何でも聞いて」
「海斗君は男の人が好きなの?」
僕の質問に海斗君は目を丸くすると答えた。
「うん。自分でも分からないけど、たぶん男の人が好きなんだと思う。女の人を見ても何とも思わないし、一緒にいたいって思うのは男の人だけかな……引いた?」
「ううん。むしろ、安心した。海斗君の恋愛対象の範囲が狭くて」
「え?」
「僕、海斗君のことが好きだ」
――ドォン……
その時、打ち上げ花火が上がった。大きな音に驚いていると、海斗君が握っている僕の手に力を込めて聞いてきた。
「もう一回言って?」
「海斗君のことが好きだ」
「葵、俺も好き」
そう言った海斗君は、僕の身体を引き寄せて抱きしめると顔を近づけてきた。キスをするのだろうと思いつつも、僕は彼の長いまつげに見惚れていた。
「目、閉じて」
「うん」
僕は生まれて初めて、好きになった人とキスをした。
神社の境内で海斗君とキスをした後、優と神田君の元へ戻った僕達は、気まずいと思いつつも二人に付き合うことになったことを伝えた。
「やっとか……」
「俺達の陰の努力に感謝しろ」
彼らの脱力感には驚かされたが、二人とも中々くっつかない僕達に、苛立ちを越えて心配をしていたらしい。
「心配かけてごめんね、優」
僕が優に謝ると、優は笑っていた。
「いいって。葵が幸せになって良かったよ」
優の様子がいつもと違うので戸惑ったが、二人とも僕達のことを祝福してくれた。
恋人としての進展はなく、お試しで付き合っていることを忘れそうになった頃に、みんなで夏祭りに行こうという話になった。
夏祭り当日。神社の境内で待ち合わせた僕たち四人は、神社の入り口に集まった。
「お待たせ」
みんなの中で僕が最後の到着だったらしく、集まると神田君が「それじゃ行くか」と言って歩き出した。
「葵、浴衣で来たんだ」
「うん。毎年、母さんが着せてくれるんだ。もう恥ずかしいからやめてって言ってるんだけど、背が伸びたら着れなくなるかもしれないから、もったいないって言って」
「葵は毎年、浴衣だよな」
海斗君がこちらを見ていたので僕が照れていると、隣で優が揶揄うように言っていた。
「本当は浴衣なんて恥ずかしいんだけど……」
「似合ってるから、いいんじゃない?」
「ありがとう」
海斗君の褒め言葉に照れていると、優が「砂はきそう」と言った。
「葵は、今日こっちな」
神田君に腕を掴まれた僕は、境内とは反対方向にあるたこ焼き屋へ連れていかれた。
「あれっ……優と海斗君は?」
「たまには別行動もいいだろ?」
「えっ……うん」
てっきり海斗君と二人か、四人で回るものだと思っていた。二人と引き離されてしまった僕は、軽く落ち込んでいた。
「そう落ち込むなよ。そんなに海斗と回りたかったの?」
「ちがっ……くない」
僕はいいかげん自分の気持ちに気づいていた。海斗君のことは好きだ……でも、恋愛の好きかって聞かれると、いまいち自信が持てなかった。人を好きになったことがないから、これが友達としての好きか、それとも恋愛としての好きなのかは、判別がつかなかった。
「いいかげん、素直になったら?」
「素直って……神田君。好きって、どういう気持ち?」
「はぁ?」
「ごめん。人を好きになったことがなくて……」
「あああ……」
神田君は空を見上げると、髪をかきむしって呻き声を上げていた。
「待って。そっからだとは、さすがの俺も思わなかったわ」
「え?」
「ちょっと来て」
神田君は僕の腕を掴むと、優と海斗君が見える位置まで戻ってきていた。彼らの元へ戻るつもりがないのか、数メートル手前で立ち止まると、射的をしている彼らを眺めていた。
「どう思う?」
「どうって……楽しそうだから、僕も一緒にやりたいな」
「違う。二人が付き合ってるって言ったら、どう思う?」
「どうって、優はそんなことしないよ」
「そうじゃなくて、もし仮に……そうだ。海斗が優を好きになるってことも考えられるだろう? いつまでたっても答えがでない葵を諦めて、優を好きになる。そういう可能性だって、ゼロじゃないんだ」
「海斗君が優を?」
その可能性を考えた僕は、目の前が真っ暗になった。
「どう思う?」
「どうって……そうなったら僕は、二人の友達をいっぺんになくすのか」
「どうして結論が先なんだよ! たとえ、海斗と別れて海斗と優が付き合うことになったって、友達でいればいいじゃないか。今も友達で、これからも友達」
「そんなこと出来ないよ……」
神田君にそう言われて、僕は海斗君と友達ではないと思った。もし仮にそうなったら、友人の幸せを素直に喜べない。それどころか、壊したいって思う。そんなのは友人じゃない。それくらいのこと、僕だって分かる。海斗君がいないなら、他の誰かの手を取るなら、傍にいても心が苦しくなるだけだと思った。
「他の誰かに取られたくないとか、ふとした時に思い出してしまうとか……それは、もう好きだって言っていいと思う」
神田君の話を聞いていたが、優と海斗君の前に一人の青年が現れた。彼は二人に挨拶すると、海斗君にやけに馴れ馴れしかった。
「誰?」
「やばっ、あれ海斗が中学の時に付き合ってた元カレじゃん」
「え?」
神田君の言葉を聞いたその瞬間、僕は走り出していた。走って彼らのところまで行くと、僕は海斗君に触れようとしていた青年の手を叩き落とした。
「葵?」
「ごめんなさいっ」
(なにやってんだ、僕は!)
「ちょっと、葵!」
二人が僕を呼び止めるのを振り切って、僕は境内を走った。人の流れに沿って走って行くと、本殿の奥へ辿り着いた。その少し先にある道へ進むと、そこには誰もいなかった。雑木林が続いている道に立つと、静かで蝉の声だけが響いていた。胸の鼓動が早鐘を打っているのは、走ってきたせいなのか、自分でもよく分からなかった。
「葵!」
追いかけてきたのか、海斗君は僕の傍まで来ると手を握った。
「ごめん……」
「透に聞いたの?」
「うん」
「ごめん。ちゃんと説明すればよかったね。彼とはもう別れたし、何でもないんだ。さっきも、俺の服に着いた糸くずを取ってくれようとしていただけだし……」
「え? 糸くず?」
まさかの話に、僕は穴があったら入りたいと思った。
「彼とは付き合ってたけど、もう昔の話。四股してたから、こっちから別れようって言って別れたんだ」
「四股?!」
「向こうから告白してきたんだけどね」
「なんか、すごい人もいるんだね」
「そうだよ。彼とは何もなかったし、自分から付き合いたいって思ったのは葵が初めてなんだ」
「その、聞きづらいんだけど……」
「いいよ、何でも聞いて」
「海斗君は男の人が好きなの?」
僕の質問に海斗君は目を丸くすると答えた。
「うん。自分でも分からないけど、たぶん男の人が好きなんだと思う。女の人を見ても何とも思わないし、一緒にいたいって思うのは男の人だけかな……引いた?」
「ううん。むしろ、安心した。海斗君の恋愛対象の範囲が狭くて」
「え?」
「僕、海斗君のことが好きだ」
――ドォン……
その時、打ち上げ花火が上がった。大きな音に驚いていると、海斗君が握っている僕の手に力を込めて聞いてきた。
「もう一回言って?」
「海斗君のことが好きだ」
「葵、俺も好き」
そう言った海斗君は、僕の身体を引き寄せて抱きしめると顔を近づけてきた。キスをするのだろうと思いつつも、僕は彼の長いまつげに見惚れていた。
「目、閉じて」
「うん」
僕は生まれて初めて、好きになった人とキスをした。
神社の境内で海斗君とキスをした後、優と神田君の元へ戻った僕達は、気まずいと思いつつも二人に付き合うことになったことを伝えた。
「やっとか……」
「俺達の陰の努力に感謝しろ」
彼らの脱力感には驚かされたが、二人とも中々くっつかない僕達に、苛立ちを越えて心配をしていたらしい。
「心配かけてごめんね、優」
僕が優に謝ると、優は笑っていた。
「いいって。葵が幸せになって良かったよ」
優の様子がいつもと違うので戸惑ったが、二人とも僕達のことを祝福してくれた。


