民に寄り添い、賢王と謳われたシリウス国王陛下。
精力的に政を行う陛下の隣には、常にアデル妃の姿があった。
二人は慈善活動や民との交流も精力的に行い、開かれた王室の礎を築いたという。
歴代の王が複数の女性を囲う中、陛下が生涯愛したのはただお一人、アデル妃だけだった。
二人の間には、やがて三人の子供が産まれた。
一人目は、王女。二人目と三人目は、王子だった。
王女は父親譲りの頭脳と、母親譲りの美貌を持つ才女。
長男は、卓越した頭脳を持つ学者肌。王より研究者になることを願った。
次男は、剣を振るうことを得意とし、幼少期から騎士を目指した。
陛下が後継者に選んだのは、長女である王女殿下だった。
前例のない女王誕生に、国民はにわかに動揺したが……すぐさまそれは、杞憂だったと知る。
女王は父王の築いた穏やかな治世を守り、時代と共に柔軟に法制度を変えていった。
シリウス陛下と、それに続く女王の治世は、のちにこう呼ばれる。
――アストレアの黄金時代、と。
晩年、退位したシリウス前国王とアデル王太后は、森と湖が美しい静かな場所で余生を過ごした。
年老いてもなお仲睦まじい様子は変わらず。おしどり夫婦とはまさに彼らのことだと、ソニアは常々思っていた。
うららかな春の昼下がり。柔らかな陽光降り注ぐこの日も、二人は並んで森の中を散歩したあと、湖畔のベンチに腰掛けた。
寄り添い湖を眺め、時折ぽつぽつ言葉を交わす。すべてを言わずとも、お互い何もかもを理解しているのだろう。通じ合っている雰囲気があった。
珍しく、無口なシリウス様がこんなことを言った。
「アデル。俺は、君を幸せに出来たかな」
静かな問いに、アデル様が「ええ」とにっこり頷く。
「それはもう、沢山。夢かと思うくらい、幸せな日々でした」
シリウス様は「良かった」と言い妻の肩を抱き寄せた。アデル様も安心しきったご様子で、愛する夫の肩に頭を乗せる。
「なんだか、眠くなってきましたね」
「ああ。そうだな」
「あなた。私と結婚してくれて、ありがとうございます」
「それは俺の台詞だよ。ありがとう、アデル。君のおかげで、とても良い人生だった」
「私もです。もし来世があるとしたら、また私を、あなたの側に置いてくれますか」
「当たり前だ。どこに居ても、どんな姿でも、俺がまた君を見つけるよ。だから安心しなさい」
最愛の夫の言葉に、アデル様が心から幸せそうに笑う。
それきり、声が聞こえなくなった。
……二人とも、眠ってしまったのだろうか。
ソニアは部下からブランケットを受け取り、足音を消し近付く。
そっと膝にかけようとして――「えっ?…………あぁっ……」と涙を流した。
ほほ笑み寄り添いながら、二人は天へと旅立っていた。
「お休みなさいませ。シリウス様、アデル様。私も、夫のライアンも、お仕えできて幸せでございました」
幸せそうに眠る主を見つめ、願いながら、ソニアは深々と頭をさげた。
同じ日、同じ時、同じ瞬間に、今世を終えられた――。
願わくば、いつかお二人の魂がまた別のどこかで、どうか出会えますように。
~END~
精力的に政を行う陛下の隣には、常にアデル妃の姿があった。
二人は慈善活動や民との交流も精力的に行い、開かれた王室の礎を築いたという。
歴代の王が複数の女性を囲う中、陛下が生涯愛したのはただお一人、アデル妃だけだった。
二人の間には、やがて三人の子供が産まれた。
一人目は、王女。二人目と三人目は、王子だった。
王女は父親譲りの頭脳と、母親譲りの美貌を持つ才女。
長男は、卓越した頭脳を持つ学者肌。王より研究者になることを願った。
次男は、剣を振るうことを得意とし、幼少期から騎士を目指した。
陛下が後継者に選んだのは、長女である王女殿下だった。
前例のない女王誕生に、国民はにわかに動揺したが……すぐさまそれは、杞憂だったと知る。
女王は父王の築いた穏やかな治世を守り、時代と共に柔軟に法制度を変えていった。
シリウス陛下と、それに続く女王の治世は、のちにこう呼ばれる。
――アストレアの黄金時代、と。
晩年、退位したシリウス前国王とアデル王太后は、森と湖が美しい静かな場所で余生を過ごした。
年老いてもなお仲睦まじい様子は変わらず。おしどり夫婦とはまさに彼らのことだと、ソニアは常々思っていた。
うららかな春の昼下がり。柔らかな陽光降り注ぐこの日も、二人は並んで森の中を散歩したあと、湖畔のベンチに腰掛けた。
寄り添い湖を眺め、時折ぽつぽつ言葉を交わす。すべてを言わずとも、お互い何もかもを理解しているのだろう。通じ合っている雰囲気があった。
珍しく、無口なシリウス様がこんなことを言った。
「アデル。俺は、君を幸せに出来たかな」
静かな問いに、アデル様が「ええ」とにっこり頷く。
「それはもう、沢山。夢かと思うくらい、幸せな日々でした」
シリウス様は「良かった」と言い妻の肩を抱き寄せた。アデル様も安心しきったご様子で、愛する夫の肩に頭を乗せる。
「なんだか、眠くなってきましたね」
「ああ。そうだな」
「あなた。私と結婚してくれて、ありがとうございます」
「それは俺の台詞だよ。ありがとう、アデル。君のおかげで、とても良い人生だった」
「私もです。もし来世があるとしたら、また私を、あなたの側に置いてくれますか」
「当たり前だ。どこに居ても、どんな姿でも、俺がまた君を見つけるよ。だから安心しなさい」
最愛の夫の言葉に、アデル様が心から幸せそうに笑う。
それきり、声が聞こえなくなった。
……二人とも、眠ってしまったのだろうか。
ソニアは部下からブランケットを受け取り、足音を消し近付く。
そっと膝にかけようとして――「えっ?…………あぁっ……」と涙を流した。
ほほ笑み寄り添いながら、二人は天へと旅立っていた。
「お休みなさいませ。シリウス様、アデル様。私も、夫のライアンも、お仕えできて幸せでございました」
幸せそうに眠る主を見つめ、願いながら、ソニアは深々と頭をさげた。
同じ日、同じ時、同じ瞬間に、今世を終えられた――。
願わくば、いつかお二人の魂がまた別のどこかで、どうか出会えますように。
~END~


