【コミカライズ配信中/4月書籍発売】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~

 元聖女のおぞましい悪行の数々は、瞬く間に国全体へ広まった。

 街の人々を誘拐したミーティアの両親も捕まり、娘と三人、アストレア監獄で嘆きの日々を送っているらしい。

 辺境で軟禁生活を送るメイナードは「でんかぁ、あたしを裏切ったわね……」というミーティアの幻聴に悩まされ、精神を(むしば)まれているという。
 
 罪を犯した者たちは、おのおの自業自得により社会的に抹殺された。

 
 
 ……ダニエルを除いては。
 
 彼は聖女の悪事を証言するのと引き換えに『条件』をシリウスに提示していたらしい。

 その条件とは「シリウス殿下が王位に就いた暁には、僕を宰相にしてほしい」というものだった。どこまでも野心的な男だ。

 ミーティアの逮捕後、ダニエルは喜び勇んでシリウスの元を訪れ、こう言ったらしい。


『さぁ、シリウス殿下。あなた様が王位に就くことは決まったも同然。この僕を次の宰相に推すと、円卓会議で公表してくださいませ』

『断る。貴殿を次の宰相に任じたら、この国が滅ぶ』

『は? いえいえ! 約束したではありませんか! ほら、書面だってここに』

 押しつけられた契約書面を、シリウスは無表情で眺める。

『たしかに俺は貴殿を宰相に任じると書いた。だが【今すぐに】とは書いていない』

『はい? 何を仰っているのか……』

『カルミア侯爵子息、貴殿もお父上同様、相当金に汚いようだ。これまで数え切れないほどの悪事に手を染めてきたのだろう。いま把握している罪状だけで、刑期は軽く80年を超える』

『まさか……宰相する前に、僕を牢に入れるというのですか! 約束が違う!』

 ダンッと机を叩き抗議するダニエル。だが、シリウスに冷ややかな目で睨まれ、絶望したようにガックリその場に膝をついた。
 
『俺は貴殿に恩赦を与えるとは言っていない』
 
 シリウスは腕を組み、ゆったり足を組み替えて、絶望するダニエルを無慈悲に見下ろす。

『貴殿はいま二十歳過ぎだったな。獄中で80年。全ての罪を悔い改め、改心したら宰相にしてやろう。だからせいぜい――百歳まで頑張りたまえ』

 
 冷酷無比な美貌の王子は、冷ややかな笑みを浮かべ、ダニエルの望みを容赦なく切り捨てた。

 
 ちなみに、現在のアストレア王国の平均寿命は四、五十代。
 
 ダニエル・カルミアの野望は、儚く消え去った――。