【コミカライズ配信中/4月書籍発売】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~

 シリウスが、背後に控えるライアンへ指示を出す。しばらくして、騎士に支えられた女性――シスター・クラーラが姿を現わした。


「先ほど聖女離宮を捜索したところ、地下牢にて数名の女性および子どもを発見。すぐさま騎士団にて保護いたしました。彼女は地下に幽閉されていた者の一人です」

 シリウスに目配せされたシスターは、小さく頷き、口を開いた。

「私達は、ある日突然何者かにさらわれ、気が付けば聖女離宮にいました。怯え、戸惑う私達に、聖女さまがこう、おっしゃったのです――」


 あんたたちは、あたしが『聖女』でいるためのエサなの。

 異能持ちは、力を。
 女と子どもは、若さと美しさを。
 神に仕えるシスターは、敬虔さと慈愛の心を差し出しなさい。

 あたしが全部、奪ってあげるから――と。
 

 
 あまりのおぞましさ、貪欲さに、その場にいる全員が戦慄(せんりつ)した。
 
 泰然(たいぜん)としていた陛下でさえ「なんということだ……」と狼狽える。


 
 ことの起こりは数日前、シスター・クラーラの失踪を知った私は、真っ先にミーティアを疑った。

 聖女離宮で転んだ少年の傷を癒したとき、癒しの力が明らかに弱まっていたのを思い出したからだ。

 異能は体力などと同じく、加齢や病によって衰えていく。
 
 時を止められないのと同じように、老いと異能の減退をとめる(すべ)はない。

 ミーティアが国一番の『癒し手』でいるためには、エスター(わたし)から力を奪ったように、他人から盗むしかない。

 しかし癒しの能力者は数が少ない上に、癒し手ばかりが失踪したら、まっさきに犯人として疑われてしまう。

 そこで思いついたのが、若い女性や子どもから『若さ』を盗み、加齢による衰えという自然の摂理に逆らうことだった。
 
 シスター・クラーラは、下町で子供が攫われる現場に居合わせてしまい、口封じのため囚われてしまったという。

 
 昔からミーティアは、私から奪ったものは全て、自室の鍵のかかる宝箱にしまっていた。その癖は今も健在のようで、攫った人々は全員、聖女離宮の宝物庫に閉じ込めていた。
 

(聖女離宮を密かに散策していたのが、こんな所で役に立つなんてね。……それにしても、ミーティア、あなた本当に、変わっていないのね)

 私は憐れみの目を、元妹へ向ける。

 彼女は唇を噛みしめ、昔と同じく、恨みがましい目で周囲を睨んでいた。
 
 
「過ぎた強欲で、己の身を滅ぼしたな」

 
 シリウスはミーティアを正面から見すえ、嘘だらけの『聖女』の仮面を剥ぎ取った。
 
 
「もう終わりだ。――『罪人』ミーティア・ロザノワール」