【コミカライズ配信中/4月書籍発売】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~

 宰相が「定刻よりやや遅れましたが、これより王位継承者の選定式典を開催します」と宣言した。

 直後、シリウスが片手を上げる。

「式典の前に、国王陛下、ならびにこの場にいる全員へ、ご報告したいことがございます」

 国王陛下が「聞こう」と鷹揚に頷く。

「陛下の寛大なお心に感謝致します。それでは、この場に『証人』を召喚いたします」

「証人?」

 誰もが怪訝そうな顔をするなか、シリウスは静かに頷いた。
 
 その合図を受けて、一人の男が御前に現れる。

「あんたは……!」

 驚きのあまり、ミーティアが扇子を手から取り落とす。

 陛下の前で恭しく一礼した男――ダニエル・カルミア侯爵子息は「ご報告いたします」と口火をきった。
 
「私はこの場で、聖女の罪を、嘘偽りなく証言すると誓います」

 
 ダニエルの言葉に、会場が一気にざわめく。

 
「まず一つ目の罪について、聖女ミーティアは私に『シリウス殿下を殺せ』とお命じになりました。これが、証拠の念書です」

 国王陛下に見せるように、ダニエルが念書を高く掲げる。

 聖女印とサインがそろった書面に、さすがの陛下も驚き言葉を失う。
 
 ミーティアが椅子を蹴飛ばし立ち上がる。が、ダニエルは構わず話し続けた。
 
 
「ご報告すべき事柄は、まだあります。――聖女ミーティアの癒しの異能は、偽物です」


 広間に集った人々が「うそだろ……」と驚愕の声を上げる。
 
「ミーティアの異能は『盗み』の力。癒しの力はミーティアの姉、エスター・ロザノワールが持っていたものでした」

「もしかして……ミーティアは姉の力を盗んだ、というのか……?」

 絶句し固まっていたメイナードが、かすれた声で尋ねる。
 
 自分の『聖女』が、姉から力を奪うような非情な人間だと信じたくないのだろう。嘘だと言ってくれといわんばかりのメイナードに対し、ダニエルは無情にも「はい」と頷いた。

「エスターの17歳の誕生日、ミーティアは姉から癒しの異能を盗みました。当時、私は現場に居合わせたため、盗みの瞬間を目撃しております。程なくして、エスターは殺人未遂を犯したとして追放され、療養所で亡くなりました」

「まさか。あの事件も、君が仕組んだことなのか……?」
 
 信じられない……といった顔で、メイナードがミーティアに問いかける。

 ミーティアは答えない。虚ろな目で一点を見つめ、ぶつぶつ小声で何かを言っている。もはや正気の顔ではなかった。

 険しい顔をする国王陛下。
 唖然とするメイナード。

 聖女に疑念と失望の眼差しを向ける聴衆。

 もはや王位継承の式典どころではなく、会場は異様な空気に包まれていた。

 しんと静まり返る広間。痛いほどの静寂を、突如、甲高い声が切り裂いた。
 
「うるさい……うるさい、うるさいッ!」
 
 ミーティアがゆらりと立ち上がり、ケタケタ(わら)う。
 
「あたしが盗みの異能持ち? エスターから癒しの力を盗んだ? いいかげんなこと言うなよッ! そんなに言うなら、証拠を見せろよ!」

「分かった。望み通りにしよう」と、シリウスが淡々と頷く。

 予想外の返答に、ミーティアが「は……?」と訝しげな顔をした。