「だからシリウスを暗殺しなさい。あの男の弱点は、アデル・シレーネ。女を誘拐しておびき出し、シリウスを一刻も早く亡き者にして。王位継承者の選定日までによろしくね」
一息でまくしたてる。ダニエルは困惑顔で固まっていた。
「何よ。出来ないの? シリウスが王座につけば、カルミア侯爵家はお取り潰し。あんたも、あんたの一族も破滅するのよ」
「それは、そうですが……」
「やるの? やらないの?」
ダニエルは少し思案したのち「やります」と頷いた。
しかし続けざまに「ただし――」と口を開く。
「一つ条件がございます。シリウス殿下を亡き者にし、メイナード殿下が即位した暁には、我が家を宰相の位につけてくださいませ」
「宰相? ははっ、円卓を追い出されたのに、まだ権力にしがみつくのね。いいわよ」
「ありがたき幸せ。では……万が一のために、念書を書いて頂きたい。後日約束を反故にされては、俺も困りますので」
面倒だったが、書面ひとつで王座が手に入るのなら安いもの。
あたしはダニエルが差し出した紙にサインした。
「では、俺は準備に取りかかります。少々お時間を頂きますが、継承日までには必ず」
「頼んだわ」
ダニエルと入れ替わるように、お父様が部屋に入ってくる。外であたしたちの会話を聞いていたのか、お父様は険しい顔であたしを非難した。
「なんて恐ろしいことを……何を命じたか、分かっているのか!」
「今さら父親面して説教しないでよ。それより『アレ』連れてきた?」
「……ああ」
「そう。じゃあ、今日も頂くとしましょう」
あたしはゆったり椅子から立ち上がると、出口へ向かう。
お父様の横を通り過ぎる瞬間、「まるで化物だ」という呟きが聞こえた。
「化物ですって?」――あたしは目を見開き、振り返る。
「あたしがこんな風になったのは、あんたらのせいじゃない! あたしはずっと、愛されたかった……。でも、お父様たちは利用価値のある娘にしか興味ない。だから、あたしは、愛され続けるために、盗むしかなかったのよ!」
獣のように吠えると、父は怯えをあらわに後ずさった。
父を残して部屋を出る。化物――という父の声が、しばらく耳から離れなかった。
◆
「始末しました」とダニエルから報告があったのは、王位継承者を決める日の前日だった。
王宮は大混乱。シリウス派の廷臣は慌てふためき、騎士団は朝から捜索に駆り出されている。
メイナードとあたしは、ほくそ笑んだ。
必死の捜索も虚しく、ついに今日――王位継承者を決める時がやってきた。
大広間には、各地から集まった貴族諸侯や有力者、廷臣がずらりと並んでいる。
玉座には国王が座り、その一段下にメイナード、隣にあたしが腰掛けた。
シリウスの席は当然ながら空いている。式典の開始五分前になっても、姿を現わさない。
大本命だった第二王子の不在に、人々は一層焦りをにじませる。
時計の針が頂点に達するまで、残り4分、3、2、1……。
(もうすぐ……あたしが、この国で一番偉い女になる)
これは、あたしが王妃になるまでのカウントダウン。
胸の高鳴りがおさまらない。ああ、今日はなんて素晴しい日なのかしら。
途中シナリオが狂って窮地に陥ったけれど、最後はシリウスでも、アデルでもなく、このミーティア・ロザノワールが勝つの。
(だって、この世界の主役はあたしなんだもの!)
王の隣に控えていた宰相が懐中時計をじっと睨み、蓋をとじて懐にしまった。
モノクルをかちゃりと押し上げると、コホンと一つ咳払い。
「これより、王位継承の――」
宰相が開会宣言を行おうとした瞬間、ギィと重い音が響き、広間の扉が開いた。
この場にいる全ての人が、一斉に振り向く。
人々が固唾を呑んで見守る中、男が赤いカーペットの上を堂々と歩く。
「遅くなり申し訳ございません。シリウス・イヴァン・アストレア、ただいま参上いたしました」
王の御前で膝をつき、胸に手を当て優雅に一礼するシリウス。
まさかの出来事に、あたしは「嘘でしょ……」と呟いた。
一息でまくしたてる。ダニエルは困惑顔で固まっていた。
「何よ。出来ないの? シリウスが王座につけば、カルミア侯爵家はお取り潰し。あんたも、あんたの一族も破滅するのよ」
「それは、そうですが……」
「やるの? やらないの?」
ダニエルは少し思案したのち「やります」と頷いた。
しかし続けざまに「ただし――」と口を開く。
「一つ条件がございます。シリウス殿下を亡き者にし、メイナード殿下が即位した暁には、我が家を宰相の位につけてくださいませ」
「宰相? ははっ、円卓を追い出されたのに、まだ権力にしがみつくのね。いいわよ」
「ありがたき幸せ。では……万が一のために、念書を書いて頂きたい。後日約束を反故にされては、俺も困りますので」
面倒だったが、書面ひとつで王座が手に入るのなら安いもの。
あたしはダニエルが差し出した紙にサインした。
「では、俺は準備に取りかかります。少々お時間を頂きますが、継承日までには必ず」
「頼んだわ」
ダニエルと入れ替わるように、お父様が部屋に入ってくる。外であたしたちの会話を聞いていたのか、お父様は険しい顔であたしを非難した。
「なんて恐ろしいことを……何を命じたか、分かっているのか!」
「今さら父親面して説教しないでよ。それより『アレ』連れてきた?」
「……ああ」
「そう。じゃあ、今日も頂くとしましょう」
あたしはゆったり椅子から立ち上がると、出口へ向かう。
お父様の横を通り過ぎる瞬間、「まるで化物だ」という呟きが聞こえた。
「化物ですって?」――あたしは目を見開き、振り返る。
「あたしがこんな風になったのは、あんたらのせいじゃない! あたしはずっと、愛されたかった……。でも、お父様たちは利用価値のある娘にしか興味ない。だから、あたしは、愛され続けるために、盗むしかなかったのよ!」
獣のように吠えると、父は怯えをあらわに後ずさった。
父を残して部屋を出る。化物――という父の声が、しばらく耳から離れなかった。
◆
「始末しました」とダニエルから報告があったのは、王位継承者を決める日の前日だった。
王宮は大混乱。シリウス派の廷臣は慌てふためき、騎士団は朝から捜索に駆り出されている。
メイナードとあたしは、ほくそ笑んだ。
必死の捜索も虚しく、ついに今日――王位継承者を決める時がやってきた。
大広間には、各地から集まった貴族諸侯や有力者、廷臣がずらりと並んでいる。
玉座には国王が座り、その一段下にメイナード、隣にあたしが腰掛けた。
シリウスの席は当然ながら空いている。式典の開始五分前になっても、姿を現わさない。
大本命だった第二王子の不在に、人々は一層焦りをにじませる。
時計の針が頂点に達するまで、残り4分、3、2、1……。
(もうすぐ……あたしが、この国で一番偉い女になる)
これは、あたしが王妃になるまでのカウントダウン。
胸の高鳴りがおさまらない。ああ、今日はなんて素晴しい日なのかしら。
途中シナリオが狂って窮地に陥ったけれど、最後はシリウスでも、アデルでもなく、このミーティア・ロザノワールが勝つの。
(だって、この世界の主役はあたしなんだもの!)
王の隣に控えていた宰相が懐中時計をじっと睨み、蓋をとじて懐にしまった。
モノクルをかちゃりと押し上げると、コホンと一つ咳払い。
「これより、王位継承の――」
宰相が開会宣言を行おうとした瞬間、ギィと重い音が響き、広間の扉が開いた。
この場にいる全ての人が、一斉に振り向く。
人々が固唾を呑んで見守る中、男が赤いカーペットの上を堂々と歩く。
「遅くなり申し訳ございません。シリウス・イヴァン・アストレア、ただいま参上いたしました」
王の御前で膝をつき、胸に手を当て優雅に一礼するシリウス。
まさかの出来事に、あたしは「嘘でしょ……」と呟いた。


