物陰に隠れて近づき、こっそり様子をうかがう。
「二人きりで話がしたい。少し時間をもらえないだろうか」
そう懇願するシリウスは、驚くほど必死な顔をしていた。
先程とは違い、目には熱がこもり、言葉を尽くして言い寄っている。シリウスがアデルに想いを寄せているのは一目瞭然だった。
負けた、と思った。
(負けた? このあたしが、あんな平民女に負けたの? ありえない)
強烈な劣等感と悔しさが込み上げる。激情に駆られるまま、あたしはメイナードの私室に押し入った。
「あぁ、ミーティア。どうしたんだい?」
部屋中に充満するツンとした酒の匂い。
真っ昼間にもかかわらず、メイナードは寝台に転がり酒をあおっていた。
シリウスを落とせない以上、あたしが王妃になるには、この男を上手く利用しなきゃいけない。けれど、正攻法でこのボンクラ王子が王位継承するのは不可能に近い。
「メイナード殿下、公務はどうされたんですの?」
「ああ、もう諦めたよ。シリウスには勝てない。どんなに頑張ったって、僕が王になるのは無理だ」
能力もなければやる気もないメイナードは、へらへら笑いながら再び酒を食らう。
むせたのか、それとも再発した持病のせいか、ゴホゴホと苦しげに咳き込んだ。
見放したい気持ちをぐっと堪えて、あたしは彼の体に手をかざす。
こんな飲んだくれへの愛情はとうにないけれど、今死なれたら困る。
「殿下、お体を大事になさってください」
「ミーティア……君だけは、僕のそばに居てくれるんだね。王にもなれない、こんな僕のそばに」
みっともなく泣き始める男の頭を撫でながら、あたしは「諦めるのはまだ早いですわ」と告げた。メイナードが顔を上げる。
「わたくしに良い考えがありますの。あなたを絶対に、王にしてさしあげますわ」
メイナードが再びゴホゴホと咳き込む。
以前は数回手をかざすだけで病を治せたのに、今じゃ毎日治療しても回復しない。
メイナードの体が弱っているのか、あたしの力が衰えてきたのか、その両方か。
時間がない、一刻も早くこの国の頂点に登り詰めなきゃ。
「僕を王にするって、いったい……?」
「あなた以外の王位継承者、つまりシリウス殿下がいなくなれば良いのですわ」
メイナードは一瞬、戸惑う素振りを見せたものの、すぐさまニヤリとした。
「さすがは僕の聖女。素晴しい」
「そうでしょう。ではさっそく準備に、取りかかりますわ」
あたしは聖女離宮へ戻り、父とダニエルを呼ぶよう侍従に命じた。
先に到着したのはダニエルだった。
見れば随分と、くたびれた様子だ。それもそのはず。彼の父親は逮捕され、カルミア侯爵家は円卓会議から除名。お家存亡の危機に立たされている。
「本日は、どのようなご用件でしょうか」
「単刀直入に言うわ。シリウスを殺して」
ダニエルは絶句し、ぴたりと動きをとめる。
数秒後、掠れた声で「今……なんと」と呟いた。
「二人きりで話がしたい。少し時間をもらえないだろうか」
そう懇願するシリウスは、驚くほど必死な顔をしていた。
先程とは違い、目には熱がこもり、言葉を尽くして言い寄っている。シリウスがアデルに想いを寄せているのは一目瞭然だった。
負けた、と思った。
(負けた? このあたしが、あんな平民女に負けたの? ありえない)
強烈な劣等感と悔しさが込み上げる。激情に駆られるまま、あたしはメイナードの私室に押し入った。
「あぁ、ミーティア。どうしたんだい?」
部屋中に充満するツンとした酒の匂い。
真っ昼間にもかかわらず、メイナードは寝台に転がり酒をあおっていた。
シリウスを落とせない以上、あたしが王妃になるには、この男を上手く利用しなきゃいけない。けれど、正攻法でこのボンクラ王子が王位継承するのは不可能に近い。
「メイナード殿下、公務はどうされたんですの?」
「ああ、もう諦めたよ。シリウスには勝てない。どんなに頑張ったって、僕が王になるのは無理だ」
能力もなければやる気もないメイナードは、へらへら笑いながら再び酒を食らう。
むせたのか、それとも再発した持病のせいか、ゴホゴホと苦しげに咳き込んだ。
見放したい気持ちをぐっと堪えて、あたしは彼の体に手をかざす。
こんな飲んだくれへの愛情はとうにないけれど、今死なれたら困る。
「殿下、お体を大事になさってください」
「ミーティア……君だけは、僕のそばに居てくれるんだね。王にもなれない、こんな僕のそばに」
みっともなく泣き始める男の頭を撫でながら、あたしは「諦めるのはまだ早いですわ」と告げた。メイナードが顔を上げる。
「わたくしに良い考えがありますの。あなたを絶対に、王にしてさしあげますわ」
メイナードが再びゴホゴホと咳き込む。
以前は数回手をかざすだけで病を治せたのに、今じゃ毎日治療しても回復しない。
メイナードの体が弱っているのか、あたしの力が衰えてきたのか、その両方か。
時間がない、一刻も早くこの国の頂点に登り詰めなきゃ。
「僕を王にするって、いったい……?」
「あなた以外の王位継承者、つまりシリウス殿下がいなくなれば良いのですわ」
メイナードは一瞬、戸惑う素振りを見せたものの、すぐさまニヤリとした。
「さすがは僕の聖女。素晴しい」
「そうでしょう。ではさっそく準備に、取りかかりますわ」
あたしは聖女離宮へ戻り、父とダニエルを呼ぶよう侍従に命じた。
先に到着したのはダニエルだった。
見れば随分と、くたびれた様子だ。それもそのはず。彼の父親は逮捕され、カルミア侯爵家は円卓会議から除名。お家存亡の危機に立たされている。
「本日は、どのようなご用件でしょうか」
「単刀直入に言うわ。シリウスを殺して」
ダニエルは絶句し、ぴたりと動きをとめる。
数秒後、掠れた声で「今……なんと」と呟いた。


