時は少し遡り、聖女離宮ツアーが失敗した直後――。
あたしは、誰も居なくなった聖女離宮で一人、しゃがみ込んでいた。
「どうしてよ……どうして、こんなことに」
途中まで小説どおりに進んでいた。なのに、市民が暴動を起こしたあの日……全てがおかしくなった。
シリウスがメイナードを裏切らず、かわりにウェルス伯爵?とかいうモブが反旗をひるがえし、その後はもう滅茶苦茶。
シリウスの公開処刑も、あたしとメイナードの結婚イベントも一切無し。
「どうなってるのよぉ……」
どこで間違えた? 何がシナリオを狂わせた?
いくら考えても分かんない。
怒りのまま、髪の毛をぐしゃぐしゃかきむしる。
「とにかく、いま出来ることをしなきゃ。メイナードに会って、それで……それで、どうすればいいの? 分かんない、分かんないってのッ!」
ヒステリックに叫びながら廊下を進む。あたしの姿を見た途端、使用人が怯えた顔で逃げ出した。ムカつく……。
聖女離宮を出て、王宮にあるメイナードの私室へ向かう道すがら、ある人を見かけて足をとめた。
「まぁ、シリウス殿下!」
聖女のほほ笑みを顔に貼り付け、愛嬌たっぷりに走り寄る。
振り返ったシリウスは、あいかわらずの無表情だった。
(マジ陰気な男。愛想笑いもできないのかよ。顔はメイナードより好みなのに、性格最悪だわ)
心の中で悪態を吐きつつも、あたしは冷静だった。
落ち目のメイナードにすがるより、勝ち馬に乗るべき。
あたしは狙いをシリウスに定めた。
「シリウス殿下、どちらへ行かれるのです?……きゃあっ!」
途中でわざとつまずき、可愛らしい悲鳴を上げながらシリウスに抱きつく。
上目遣いで頼りなさをアピールし、さりげなく胸を押しつけて誘惑。庇護欲と性欲をかき立て『こいつは俺が守ってやらなきゃだめだ』と思わせたら既に落ちたも同然。
男なんて、ほんと笑っちゃうくらい馬鹿で単純な生き物。
――のはずだった。
「ぎゃあっ!」
蛙の潰れたような音が口からもれる。気付けばあたしは、誰もいない場所へ顔面からダイブしていた。
鼻と額を打ち付け、ひりひり痛む。
え? なに、どういうこと? と、頭が真っ白になった。
「悪いな、とっさに避けてしまった」
みっともなく地面に座り込むあたしを、シリウスが興味なさげに見下ろす。
(クールイケメン? 違うわ。こいつは冷血漢よ。こんな可愛いあたしにまるで興味ないなんて、どうかしてるわ)
「先を急いでいる。失礼」
「あっ、おまち……」
シリウスは振り返りもせず立ち去った。
こんな屈辱は生まれて初めてだった。
ふつふつと怒りが込み上げる。同時にある考えが浮かんだ。
(シリウス。絶対あんたのこと落としてやる。クールイケメンの溺愛、見てやろうじゃないの)
立ち上がり、パンパンとドレスについた汚れを払い落とす。
急いであとを追いかけると、シリウスは何故かアデルと話をしていた。
あたしは、誰も居なくなった聖女離宮で一人、しゃがみ込んでいた。
「どうしてよ……どうして、こんなことに」
途中まで小説どおりに進んでいた。なのに、市民が暴動を起こしたあの日……全てがおかしくなった。
シリウスがメイナードを裏切らず、かわりにウェルス伯爵?とかいうモブが反旗をひるがえし、その後はもう滅茶苦茶。
シリウスの公開処刑も、あたしとメイナードの結婚イベントも一切無し。
「どうなってるのよぉ……」
どこで間違えた? 何がシナリオを狂わせた?
いくら考えても分かんない。
怒りのまま、髪の毛をぐしゃぐしゃかきむしる。
「とにかく、いま出来ることをしなきゃ。メイナードに会って、それで……それで、どうすればいいの? 分かんない、分かんないってのッ!」
ヒステリックに叫びながら廊下を進む。あたしの姿を見た途端、使用人が怯えた顔で逃げ出した。ムカつく……。
聖女離宮を出て、王宮にあるメイナードの私室へ向かう道すがら、ある人を見かけて足をとめた。
「まぁ、シリウス殿下!」
聖女のほほ笑みを顔に貼り付け、愛嬌たっぷりに走り寄る。
振り返ったシリウスは、あいかわらずの無表情だった。
(マジ陰気な男。愛想笑いもできないのかよ。顔はメイナードより好みなのに、性格最悪だわ)
心の中で悪態を吐きつつも、あたしは冷静だった。
落ち目のメイナードにすがるより、勝ち馬に乗るべき。
あたしは狙いをシリウスに定めた。
「シリウス殿下、どちらへ行かれるのです?……きゃあっ!」
途中でわざとつまずき、可愛らしい悲鳴を上げながらシリウスに抱きつく。
上目遣いで頼りなさをアピールし、さりげなく胸を押しつけて誘惑。庇護欲と性欲をかき立て『こいつは俺が守ってやらなきゃだめだ』と思わせたら既に落ちたも同然。
男なんて、ほんと笑っちゃうくらい馬鹿で単純な生き物。
――のはずだった。
「ぎゃあっ!」
蛙の潰れたような音が口からもれる。気付けばあたしは、誰もいない場所へ顔面からダイブしていた。
鼻と額を打ち付け、ひりひり痛む。
え? なに、どういうこと? と、頭が真っ白になった。
「悪いな、とっさに避けてしまった」
みっともなく地面に座り込むあたしを、シリウスが興味なさげに見下ろす。
(クールイケメン? 違うわ。こいつは冷血漢よ。こんな可愛いあたしにまるで興味ないなんて、どうかしてるわ)
「先を急いでいる。失礼」
「あっ、おまち……」
シリウスは振り返りもせず立ち去った。
こんな屈辱は生まれて初めてだった。
ふつふつと怒りが込み上げる。同時にある考えが浮かんだ。
(シリウス。絶対あんたのこと落としてやる。クールイケメンの溺愛、見てやろうじゃないの)
立ち上がり、パンパンとドレスについた汚れを払い落とす。
急いであとを追いかけると、シリウスは何故かアデルと話をしていた。


