「惚れさせる」という宣言どおり、翌日から怒濤の求愛が始まった。
王位継承争いに決着がつくまで、私達の仲は世間には秘密。
シリウスは「不便な思いをさせてすまない」と言うけれど、私は別に構わなかった。人目を忍んで夜にひっそり私の部屋で会うのも、秘密の恋って感じでドキドキするし。
(なかなか会えない分、毎日情熱的な手紙をくれるしね)
「お嬢様、本日も殿下からお手紙です」
今日も今日とて送られてきた手紙を、私は苦笑まじりで受け取る。
「もう、忙しいんだから、毎日じゃなくていいのに」
「あと、ドレスと装飾品も」と、ソニアがプレゼントを部屋に運び込む。
「また!? 体は一つなんだから、そんなに要らないって言ってるのに……」
「前回のは夜会用で、今回のは普段着と、婚約お披露目パーティ用だそうです」
「……気が早いわよ」
「愛されてますね、お嬢様」と、ソニアがにっこり笑う。
ほほ笑ましいとばかりに温かな眼差しを向けられ、恥ずかしくて照れくさい。
「こほん」と咳払いして手紙を開くと、丁寧な字で文章が綴られている。
シリウスは現在、視察もかねて、王都から少し離れた地方領にいるらしい。
『郷土料理が美味しかったから、アデルにも食べさせたい。こちらは温かいが、王都は寒いだろう? 風邪を引いていないか心配だ』
『早く会いたい。愛してる』
綴られる愛の言葉。注がれる沢山の愛情に、心がほっこり温かくなった。
普段は無口なくせに、手紙では饒舌なのも愛おしい。
(ギャップ萌えが過ぎるわよ、シリウス)
なんて思いつつ、私は返事をしたためた。
(私も彼の隣に並び立てるよう頑張らなきゃ)
求婚への返事は、まだしていなかった。
シリウスのことは愛している。生涯を共にしたいとも思っている。けれど、彼と結婚すれば、私はこの国の王室に入らざるを得ない。
――不安は山積みだ。
私の正体は、世間で『罪人』とされているエスター。もしバレたら、シリウスに多大な迷惑をかけてしまう。
そもそも今の私は商家の娘。爵位のない平民との婚姻を、国王陛下や円卓会議の面々が許すとは到底思えなかった。
私の不安を、シリウスはひとつひとつ、真剣に聞いてくれた。そして全てを聞き終えたあと、彼は言った。
『分かった。全て解決したあと、改めて求婚する』――と。
その言葉を聞いて、私は思わず絶句してしまった。シリウスなら、もっと釣り合う貴族令嬢が沢山いるのに……。どうして、こんな面倒な事情を抱えた自分に執着するのか、分からなかった。
疑問をそのまま口にすると、彼は迷いのない口ぶりで、こう告げた。
『君と生きて一緒に居られるのなら、何一つ面倒だとは思わない。言っただろう? 俺の執着心をなめるなと』
こんな経緯があり、結婚話は一旦保留中。とはいえ、シリウスは私との結婚に向けて、水面下で色々と根回しをしているらしい。
しかもいつの間にか、私の両親――シレーネ夫妻――への挨拶もしており、気付けば私達の仲は家族公認となっていた。
「なんだか、着実に外堀を埋められている気がする……」
シリウスから送られてきたプレゼントの箱を開きながら、呟く。
中に入っていたのは、薄桃色の可憐なドレスだった。細かなフリルと繊細な花の飾りが、優雅さと上品さをかもし出している。派手すぎず、露出も控えめで、私の好みの服だった。
着替え終わったタイミングで、母が部屋に入ってきた。
「さぁ、アデル! 今日もビシバシ花嫁修業をするわよ!」
ニコニコしながら母が腕まくりをする。シリウスと恋仲だと知ってから、母のテンションは連日爆上がり。
「大事な娘が、好きな人と結ばれるなんて、これほど嬉しいことはないわ! 王室に入っても恥ずかしくない令嬢になれるよう、特訓しなきゃ」と大張り切りだ。
今日の花嫁修業を終える頃には、すっかり陽が落ち、夜になっていた。
それから季節は晩秋に。とうとう王位継承を決める儀式が目前に迫ったある日――。
「お嬢様、教会のシスターからお手紙が届いています」
「教会から? 珍しいわね」
手紙を開き読み始める。予期せぬ内容に、私はとっさに「そんな……」と呟いた。
「何か問題でもございましたか?」
「最近、王都内で行方不明者が出ているのは知っているでしょう?」
「ええ。平民貴族問わず、行方が分からなくなっているとか。それがどうかしたのですか?」
「実は――」
私は手紙をソニアに差し出し、震える声で言った。
「シスター・クラーラが、失踪したみたいなの」
王位継承争いに決着がつくまで、私達の仲は世間には秘密。
シリウスは「不便な思いをさせてすまない」と言うけれど、私は別に構わなかった。人目を忍んで夜にひっそり私の部屋で会うのも、秘密の恋って感じでドキドキするし。
(なかなか会えない分、毎日情熱的な手紙をくれるしね)
「お嬢様、本日も殿下からお手紙です」
今日も今日とて送られてきた手紙を、私は苦笑まじりで受け取る。
「もう、忙しいんだから、毎日じゃなくていいのに」
「あと、ドレスと装飾品も」と、ソニアがプレゼントを部屋に運び込む。
「また!? 体は一つなんだから、そんなに要らないって言ってるのに……」
「前回のは夜会用で、今回のは普段着と、婚約お披露目パーティ用だそうです」
「……気が早いわよ」
「愛されてますね、お嬢様」と、ソニアがにっこり笑う。
ほほ笑ましいとばかりに温かな眼差しを向けられ、恥ずかしくて照れくさい。
「こほん」と咳払いして手紙を開くと、丁寧な字で文章が綴られている。
シリウスは現在、視察もかねて、王都から少し離れた地方領にいるらしい。
『郷土料理が美味しかったから、アデルにも食べさせたい。こちらは温かいが、王都は寒いだろう? 風邪を引いていないか心配だ』
『早く会いたい。愛してる』
綴られる愛の言葉。注がれる沢山の愛情に、心がほっこり温かくなった。
普段は無口なくせに、手紙では饒舌なのも愛おしい。
(ギャップ萌えが過ぎるわよ、シリウス)
なんて思いつつ、私は返事をしたためた。
(私も彼の隣に並び立てるよう頑張らなきゃ)
求婚への返事は、まだしていなかった。
シリウスのことは愛している。生涯を共にしたいとも思っている。けれど、彼と結婚すれば、私はこの国の王室に入らざるを得ない。
――不安は山積みだ。
私の正体は、世間で『罪人』とされているエスター。もしバレたら、シリウスに多大な迷惑をかけてしまう。
そもそも今の私は商家の娘。爵位のない平民との婚姻を、国王陛下や円卓会議の面々が許すとは到底思えなかった。
私の不安を、シリウスはひとつひとつ、真剣に聞いてくれた。そして全てを聞き終えたあと、彼は言った。
『分かった。全て解決したあと、改めて求婚する』――と。
その言葉を聞いて、私は思わず絶句してしまった。シリウスなら、もっと釣り合う貴族令嬢が沢山いるのに……。どうして、こんな面倒な事情を抱えた自分に執着するのか、分からなかった。
疑問をそのまま口にすると、彼は迷いのない口ぶりで、こう告げた。
『君と生きて一緒に居られるのなら、何一つ面倒だとは思わない。言っただろう? 俺の執着心をなめるなと』
こんな経緯があり、結婚話は一旦保留中。とはいえ、シリウスは私との結婚に向けて、水面下で色々と根回しをしているらしい。
しかもいつの間にか、私の両親――シレーネ夫妻――への挨拶もしており、気付けば私達の仲は家族公認となっていた。
「なんだか、着実に外堀を埋められている気がする……」
シリウスから送られてきたプレゼントの箱を開きながら、呟く。
中に入っていたのは、薄桃色の可憐なドレスだった。細かなフリルと繊細な花の飾りが、優雅さと上品さをかもし出している。派手すぎず、露出も控えめで、私の好みの服だった。
着替え終わったタイミングで、母が部屋に入ってきた。
「さぁ、アデル! 今日もビシバシ花嫁修業をするわよ!」
ニコニコしながら母が腕まくりをする。シリウスと恋仲だと知ってから、母のテンションは連日爆上がり。
「大事な娘が、好きな人と結ばれるなんて、これほど嬉しいことはないわ! 王室に入っても恥ずかしくない令嬢になれるよう、特訓しなきゃ」と大張り切りだ。
今日の花嫁修業を終える頃には、すっかり陽が落ち、夜になっていた。
それから季節は晩秋に。とうとう王位継承を決める儀式が目前に迫ったある日――。
「お嬢様、教会のシスターからお手紙が届いています」
「教会から? 珍しいわね」
手紙を開き読み始める。予期せぬ内容に、私はとっさに「そんな……」と呟いた。
「何か問題でもございましたか?」
「最近、王都内で行方不明者が出ているのは知っているでしょう?」
「ええ。平民貴族問わず、行方が分からなくなっているとか。それがどうかしたのですか?」
「実は――」
私は手紙をソニアに差し出し、震える声で言った。
「シスター・クラーラが、失踪したみたいなの」


