【コミカライズ配信中/4月書籍発売】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~

 ふと疑問が浮かび、私は口を開く。
 
「そういえば……。王室の記録では、子どもの頃は離宮にいたはずよね? どうしてシリィとして孤児院にいたの?」

「俺と母が離宮にいたというのは、王室が自分たちの失態を隠すための嘘だ」

「嘘? どうしてそんなことを」

「母が俺を授かったとき、正妃はすでに兄上を身ごもっていた。正妃派閥に命を狙われた母は、身重の体で王宮から逃げた」

 シリウスの母は密かに息子を産み、追っ手から逃げながら各地を転々として暮らしていた。

 だが、ついに無理がたたり……幼いシリウスに『王都には近付くな』と言い残して亡くなったのだという。

「これは後で知った話だが、父上は母のことを本当に愛していたようで、俺たち親子をずっと探していたらしい。孤児院で父の部下に発見された俺は、そのまま王宮へと連れ戻された」

 壮絶な過去を語るシリウスは、一見いつもと変わらぬ無表情。しかし瞳の奥には深い悲しみが宿っていた。

「俺はそれから各地の孤児院をたらい回しにされ、最終的に、一番収容人数の多い王都の教会に流れ着いてしまった」

 その頃にはもう、人生どうにでもなれと思っていた、と淡々と語る。

「誰にも必要とされず、うとまれ嫌われ、愛想もないから友達も出来ない。どこへ行っても孤独で、自分の境遇も、自分自身も大嫌いだった」

 たまらず彼の手を握ると、シリウスは大丈夫というように口元をゆるめた。

「そんなとき、エスターに出会った。いつの間にか、俺に懐いて、後ろをついて回って。あんなの、好きにならない方が無理だろ」

「『大嫌いだ』って言ったじゃない」

「身分が違った。恋したって、叶うわけないだろう。だから自分の気持ちを認めたくなくて、わざと遠ざけようとした。……だが、今は違う」

 シリウスはベンチから立ち上がると、私の前に(うやうや)しくひざまずいた。

「この先、どんなことがあっても、今度こそ俺が守り抜く。――どうか俺に、あなたを生涯守る栄誉をお与え下さい」
 
 私の左手を取り、薬指にやわらかな口づけを落とす。

「結婚しよう、アデル」
 
 真摯な言葉、ひたむきな眼差し、伝わってくる温もりと愛情。
 注がれる沢山の愛に、心が震えた。