二人でベンチに座り、景色を眺める。
遠くの空を見ながら、私は今までの経緯を訥々と語った。
ミーティアに異能力をうばわれ、濡れ衣を着せられて追放されたこと。その後、療養所から救出され、シレーネ家の支援を受けてアデルに成り代わったこと。
そして「信じられないと思うけれど……」と前置きしたうえで、私が持つ前世の記憶について説明した。
「――というわけなの。信じられないわよね?」
「いいや、信じる」
「即答!?」
「嘘をつく理由はないだろう? それに、俺は君を信じてる」
「うん。……ありがと」
お礼を言うと「どういたしまして」と肩を引き寄せられる。
ずっと誰にも言えなかった秘密を明かせたことで心が一気に軽くなった。
身を預けてほっとしていると、上から物騒な言葉が降ってきた。
「落とし前をつけさせなければ」
「えっ」
「君を陥れた者たちに、罪を償わせる」
シリウスは険しい顔をしていた。指先で私の髪をくるくる弄びながら、暗い目で遠くを見つめている。
指で何かを弄りながら考え事をするのは、子供の頃からの癖だ。しかも大抵こういう時は、本気で怒っていたり、腹黒い悪巧みをしていることが多い。
私は慌てて「待って、シリィ!」と叫んだ。
「あなたの死を回避できただけで、私はもう十分満足してるの。それにあなただって今が一番大事な時期でしょう? お願い、危険なことはしないで」
「大丈夫だ。殺しはしない。――楽に終わらせてたまるか」
「怖いわよ!」
せっかく死を回避したのに、また危険にさらしたくない。
私は彼の気をそらすべく、わざと話題を変えた。
「実は、不安だったの。私、こんな複雑な事情があるから。全部知ったら、あなたが私のこと、嫌いになるんじゃないかって」
「それで俺を避けていたのか?」
「複雑な事情に巻き込みたくないって理由も、勿論あるわよ。でも……うん、そうね。私、怖かったのかも」
視線を落として、私は胸の内を語った。
「力を失った途端、みんな……実の親すら、私のもとから去っていったわ。だから、あなたも私の事情を知ったら、きっと」
「厄介者扱いして嫌いになると? ――君は、全然分かってないな」
シリウスが不機嫌そうな顔をする。王子らしい優雅な話し方から一転、子供時代を思わせる、ぶっきらぼうな口調で言った。
「『俺がもらってやる』って言っただろ」
「そんなの……子供の頃の話じゃない」
はぁ、とシリウスが深くため息をつく。
「君はほんと、何にも分かってない」と、呆れた口調で繰り返す。
「えっ? どういうこと?」
「俺が一体何年、君に片思いしてきたと思っている。子どもの頃に惚れてからずっとだぞ。婚約者がいると分かっているのに諦めきれず、遠くから見守ったり、変装して教会ですれ違ってみたり――」
「そんなことしてたの!?」
「どうやって、婚約者から略奪してやろう。いっそ攫ってしまおうか。長期任務に出る直前まで、本気で考えていた。しかし俺が戦場で死んだ場合、君を不幸にしてしまう。そう考えると思い留まるしかなかった」
結局、俺は生きて生還し、君を守れなかったことを悔やむことになったが……と、シリウスは苦しげに言った。
「ごめん。私、ぜんっぜん、気付かなかった……」
シリウスは『だろうな』と笑う。「君は昔から超絶鈍感だ」と言われ、私は何も言い返せなかった。全くその通りだから、ぐうの音も出ない。
「とにかく、俺の執着心をなめるな。俺に秘密を教えたのが運の尽きだな。悪いが、もう逃がす気はない。諦めろ」
「『愛してほしいなんて思ってない』って、さっき言ってたんじゃないの?」
ちょっとイジワルに言うと、シリウスがニヤリと笑った。
「俺は『いますぐ』愛してほしいなんて思ってない、と言ったんだ。これからじっくり惚れさせる」
「何よそれ、すごい屁理屈じゃないの」
「屁理屈じゃない、駆け引きだ」
「ふぅん? あの口下手なシリィが駆け引きを覚えるなんて。随分大人になったのね」
からかい混じりに言うと、シリウスは目を細めて「大人の男を、あんな無防備に寝室へ通すなよ」と意地悪く返してくる。私は、ううっと言葉に詰まった。
昔は、しゃべりは私の方が上手だったのに。いつの間にか、形勢逆転されてる。
勝てる気がしない……と恨めしげに睨む私を、シリウスが余裕の表情で眺めていた。
遠くの空を見ながら、私は今までの経緯を訥々と語った。
ミーティアに異能力をうばわれ、濡れ衣を着せられて追放されたこと。その後、療養所から救出され、シレーネ家の支援を受けてアデルに成り代わったこと。
そして「信じられないと思うけれど……」と前置きしたうえで、私が持つ前世の記憶について説明した。
「――というわけなの。信じられないわよね?」
「いいや、信じる」
「即答!?」
「嘘をつく理由はないだろう? それに、俺は君を信じてる」
「うん。……ありがと」
お礼を言うと「どういたしまして」と肩を引き寄せられる。
ずっと誰にも言えなかった秘密を明かせたことで心が一気に軽くなった。
身を預けてほっとしていると、上から物騒な言葉が降ってきた。
「落とし前をつけさせなければ」
「えっ」
「君を陥れた者たちに、罪を償わせる」
シリウスは険しい顔をしていた。指先で私の髪をくるくる弄びながら、暗い目で遠くを見つめている。
指で何かを弄りながら考え事をするのは、子供の頃からの癖だ。しかも大抵こういう時は、本気で怒っていたり、腹黒い悪巧みをしていることが多い。
私は慌てて「待って、シリィ!」と叫んだ。
「あなたの死を回避できただけで、私はもう十分満足してるの。それにあなただって今が一番大事な時期でしょう? お願い、危険なことはしないで」
「大丈夫だ。殺しはしない。――楽に終わらせてたまるか」
「怖いわよ!」
せっかく死を回避したのに、また危険にさらしたくない。
私は彼の気をそらすべく、わざと話題を変えた。
「実は、不安だったの。私、こんな複雑な事情があるから。全部知ったら、あなたが私のこと、嫌いになるんじゃないかって」
「それで俺を避けていたのか?」
「複雑な事情に巻き込みたくないって理由も、勿論あるわよ。でも……うん、そうね。私、怖かったのかも」
視線を落として、私は胸の内を語った。
「力を失った途端、みんな……実の親すら、私のもとから去っていったわ。だから、あなたも私の事情を知ったら、きっと」
「厄介者扱いして嫌いになると? ――君は、全然分かってないな」
シリウスが不機嫌そうな顔をする。王子らしい優雅な話し方から一転、子供時代を思わせる、ぶっきらぼうな口調で言った。
「『俺がもらってやる』って言っただろ」
「そんなの……子供の頃の話じゃない」
はぁ、とシリウスが深くため息をつく。
「君はほんと、何にも分かってない」と、呆れた口調で繰り返す。
「えっ? どういうこと?」
「俺が一体何年、君に片思いしてきたと思っている。子どもの頃に惚れてからずっとだぞ。婚約者がいると分かっているのに諦めきれず、遠くから見守ったり、変装して教会ですれ違ってみたり――」
「そんなことしてたの!?」
「どうやって、婚約者から略奪してやろう。いっそ攫ってしまおうか。長期任務に出る直前まで、本気で考えていた。しかし俺が戦場で死んだ場合、君を不幸にしてしまう。そう考えると思い留まるしかなかった」
結局、俺は生きて生還し、君を守れなかったことを悔やむことになったが……と、シリウスは苦しげに言った。
「ごめん。私、ぜんっぜん、気付かなかった……」
シリウスは『だろうな』と笑う。「君は昔から超絶鈍感だ」と言われ、私は何も言い返せなかった。全くその通りだから、ぐうの音も出ない。
「とにかく、俺の執着心をなめるな。俺に秘密を教えたのが運の尽きだな。悪いが、もう逃がす気はない。諦めろ」
「『愛してほしいなんて思ってない』って、さっき言ってたんじゃないの?」
ちょっとイジワルに言うと、シリウスがニヤリと笑った。
「俺は『いますぐ』愛してほしいなんて思ってない、と言ったんだ。これからじっくり惚れさせる」
「何よそれ、すごい屁理屈じゃないの」
「屁理屈じゃない、駆け引きだ」
「ふぅん? あの口下手なシリィが駆け引きを覚えるなんて。随分大人になったのね」
からかい混じりに言うと、シリウスは目を細めて「大人の男を、あんな無防備に寝室へ通すなよ」と意地悪く返してくる。私は、ううっと言葉に詰まった。
昔は、しゃべりは私の方が上手だったのに。いつの間にか、形勢逆転されてる。
勝てる気がしない……と恨めしげに睨む私を、シリウスが余裕の表情で眺めていた。


