【コミカライズ配信中/4月書籍発売】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~

 切実な告白に、呼吸がとまる。

 いつも冷静なシリウスには珍しい、むき出しの感情をぶつけるような、切羽詰まった声だった。

 覆い被さるように私を抱きしめていた彼が、顔を上げる。こちらを見つめる目には熱がこもっており、見たことないくらい余裕のない表情をしていた。

 
「俺は君が、どうしようもなく、好きなんだ」

 
 言葉で、仕草で、表情で。ひたむきな愛を注がれる。

 心が震えた。こんなに一途に求められて、幸せすぎて涙がとまらない。
 
(このまま夢が、終わらなきゃいいのに)

 そう思いながら、私は彼にほほ笑み返し――。

 
「私もあなたのことが、好きです」


 ずっと伝えられなかった想いを口にした。

 
 シリウスが嬉しそうに笑う。それから私の額にキスをした。

 夢なんだから、口にして欲しかったのに。不満げな私の顔で察したのか、彼は低く笑って言った。
 
「続きは近々、起きているときに。それまで、誰にも許すなよ」

 シリウスが意地悪に笑い、親指で私の唇をなぞる。あまりに色っぽい仕草と表情に、私はコクリと頷くのが精一杯だった――。

 




 チュンチュンという鳥のさえずりが聞こえる。

「うーん」と唸って薄めを開けると「朝ですよ。起きて下さい」と声をかけられた。

 
「もう……少し。あと五分……」

 そう言うと、シャッとカーテンが開け放たれ、日差しが顔面に降り注いだ。あまりの眩しさに、毛布をかぶる。

「お嬢様、起きて下さい。今日は孤児院への慰問の日ですよ」

「……今日は、週末でしょ。……だめ。殿下と、鉢合わせちゃう」

「今さら何をおっしゃっているんです。昨夜、仲良くお話していたではありませんか」

「…………ん? 昨夜?」

「ええ。昨夜」


 しばし沈黙。動きの悪い寝起きの頭で考える。

 私、昨日シリウス殿下の夢を見た。
 
 熱烈に告白されて、私もそれに応じて、両思いになって。

 大変、幸せな夢でした。
 
「…………」

「きちんと眠れたか確認するためお伺したところ、殿下とお嬢様がお話しているのが見えましたので、部屋の前で待機しておりました。シリウス殿下は紳士とはいえ、男性。万が一、ということもありますので」

「…………あれって、夢じゃ、なかったの……?」

 私の呟きに、ソニアは平然と「現実です」と言った。

 バサッと毛布を跳ね上げ、勢いよく飛び起きる。私のダイナミック起床に、ベッドがトランポリンのようにぐわんと揺れた。

「お嬢様、もっとお淑やかに起きて下さいませ」なんてソニアの小言も耳に入らない。

(どうしよう、どうしよう、どうしよう……!)

 昨夜の失態に頭を抱え、恥ずかしさに悶絶する。

「私……なんてことをっ、ど、どどど、どうしたら……」
 
「どうしたらも何も。会いに行くべきですね」
 
 部屋の中をウロウロする挙動不審な主人を眺めながら、クールな従者はスパッと言い切る。

「それと、殿下からの伝言です」

 
 ソニアの口から語られる『伝言』に、私は固まった。
 

 
 
 ――『昨日のこと、忘れたとは言わせない。俺から逃げられると思うなよ、アデル』