屋敷に着くと、入浴を済ませ、夕食もそこそこに自室へ引きこもる。
早く寝て気分を変えたいのに、昼間のシリウスとの会話がちらついて眠れない。
ソニアに「よく眠れる薬が欲しいの」と相談すると、生薬由来の体にやさしい眠り薬をくれた。それを飲んで自室に戻る。
ベッドへ入る気になれなくて、ソファに座って月を眺めた。はぁ、と一つため息をこぼす。
「絶対、嫌われたわよね……。ああっ、でも仕方ないじゃない! そもそも殿下はエスターが好きなんであって、今の私が好きなわけじゃない……。自分で自分に嫉妬するって、どういう状況よっ!」
私は頭を抱えて、長ソファの上でジタバタのたうちまわった。
「胸が苦しい……苦しすぎるっ! 世間の女の子は、恋するたびにこんな辛い思いしてるの? タフすぎない??」
独り言をいっているうちに段々薬が効いてきた。少しずつ眠気が襲ってきて、そのままソファの上で微睡む。
『ベッドにいかなきゃ』と思ったその時、窓の方からコツ、コツ――という音が聞こえてきた。
気のせいかと思って目を閉じるが、音はやまない。小枝のような、何か小さな物が窓にぶつかる音がかすかに響く。
「んー、何なのいったい」
眠りを邪魔されてちょっとムッとする。立ち上がると足元がふらふらした。おまけに頭もふわふわする。
おぼつかない足取りで窓辺に近寄り、鍵をあけて窓を開け放つ。
ふわっと、金木犀の香りをともなって秋風が吹き込んでくる。
ひらりと紅葉が舞い込み、絨毯の上に落ちた。
「誰もいない?」
外から「アデル、少し離れてくれ」という声がした。――直後、窓枠に手をかけて、誰かがするりと部屋に入ってくる。長身の男。暗くて顔は分からない。
――賊? それとも不審者……!?
突然の出来事に、驚きすぎて声も出せない。慌てて後ろに下がったせいで、足がもつれてバランスを崩した。
『倒れるっ』と思った瞬間、目の前の彼に抱き留められた。ぐっと腰を引き寄せられる。
雲間から月光が差し、室内を青白い光で照らし出す。
男性の顔が鮮明になった。ふわりと揺れる銀髪、私を見つめる青い瞳。
まつげの長さが分かるほど近距離にある美貌に、どきりと心臓が高鳴った。
「シリウス、殿下……」
重なりあったまま、見つめ合う。
侵入者が彼だと分かった瞬間、私の体からふっと力が抜けた。
温かな腕に抱かれ、緊張の糸がふつりと切れる。途端、ひどい眠気に襲われた。
(あぁ、これ夢だ……。だって殿下がこんなところに、しかも窓から来るわけないもの……)
夢見心地のまま、私は片手でシリウスの頬に触れた。ひんやりとして柔らかい。
手の平で撫でると、彼はくすぐったそうに目を細めてほほ笑んだ。
「眠そうだ。もしかして、寝ぼけているのか?」と静かに問いかけられて、私は「うん」とも「ううん」ともつかぬ曖昧な返事をした。眠くて声を出すのも億劫だった。
「これは完全に、寝ぼけているな」
苦笑しながら、シリウスが私の体を横抱きにする。そのままベッドの上にそっと横たえられた。
寝かしつけるように頭を撫でられて、私は嫌々と首を振る。まだ寝たくなかった。もう少し、この幸せな夢に浸っていたい。
「そばに、いて」
辛うじてそう告げると、彼は驚いた顔をした。ついで眉間にしわをよせ、何かを我慢するような険しい顔つきになる。
「君は魔性の女性だな。突き放したかと思えば、こんな可愛い姿を……。俺の理性を試しているのか? アデル」
言っていることが、良く分からない。
とりあえず「わたしのこと、嫌い……?」と尋ねると、シリウスはますます苦しげな顔になって胸を押えた。
「……嫌いになど、なるものか。好きすぎて……君と少しでも話がしてくて、このような真似までしてしまった」
その言葉に、ほっとする。同時に涙がこぼれた。
それを見たシリウスが、大きく目を見開く。
「……よかった」
震える涙声で告げた瞬間、きつく抱きしめられた。
「好きだ。アデル――」
早く寝て気分を変えたいのに、昼間のシリウスとの会話がちらついて眠れない。
ソニアに「よく眠れる薬が欲しいの」と相談すると、生薬由来の体にやさしい眠り薬をくれた。それを飲んで自室に戻る。
ベッドへ入る気になれなくて、ソファに座って月を眺めた。はぁ、と一つため息をこぼす。
「絶対、嫌われたわよね……。ああっ、でも仕方ないじゃない! そもそも殿下はエスターが好きなんであって、今の私が好きなわけじゃない……。自分で自分に嫉妬するって、どういう状況よっ!」
私は頭を抱えて、長ソファの上でジタバタのたうちまわった。
「胸が苦しい……苦しすぎるっ! 世間の女の子は、恋するたびにこんな辛い思いしてるの? タフすぎない??」
独り言をいっているうちに段々薬が効いてきた。少しずつ眠気が襲ってきて、そのままソファの上で微睡む。
『ベッドにいかなきゃ』と思ったその時、窓の方からコツ、コツ――という音が聞こえてきた。
気のせいかと思って目を閉じるが、音はやまない。小枝のような、何か小さな物が窓にぶつかる音がかすかに響く。
「んー、何なのいったい」
眠りを邪魔されてちょっとムッとする。立ち上がると足元がふらふらした。おまけに頭もふわふわする。
おぼつかない足取りで窓辺に近寄り、鍵をあけて窓を開け放つ。
ふわっと、金木犀の香りをともなって秋風が吹き込んでくる。
ひらりと紅葉が舞い込み、絨毯の上に落ちた。
「誰もいない?」
外から「アデル、少し離れてくれ」という声がした。――直後、窓枠に手をかけて、誰かがするりと部屋に入ってくる。長身の男。暗くて顔は分からない。
――賊? それとも不審者……!?
突然の出来事に、驚きすぎて声も出せない。慌てて後ろに下がったせいで、足がもつれてバランスを崩した。
『倒れるっ』と思った瞬間、目の前の彼に抱き留められた。ぐっと腰を引き寄せられる。
雲間から月光が差し、室内を青白い光で照らし出す。
男性の顔が鮮明になった。ふわりと揺れる銀髪、私を見つめる青い瞳。
まつげの長さが分かるほど近距離にある美貌に、どきりと心臓が高鳴った。
「シリウス、殿下……」
重なりあったまま、見つめ合う。
侵入者が彼だと分かった瞬間、私の体からふっと力が抜けた。
温かな腕に抱かれ、緊張の糸がふつりと切れる。途端、ひどい眠気に襲われた。
(あぁ、これ夢だ……。だって殿下がこんなところに、しかも窓から来るわけないもの……)
夢見心地のまま、私は片手でシリウスの頬に触れた。ひんやりとして柔らかい。
手の平で撫でると、彼はくすぐったそうに目を細めてほほ笑んだ。
「眠そうだ。もしかして、寝ぼけているのか?」と静かに問いかけられて、私は「うん」とも「ううん」ともつかぬ曖昧な返事をした。眠くて声を出すのも億劫だった。
「これは完全に、寝ぼけているな」
苦笑しながら、シリウスが私の体を横抱きにする。そのままベッドの上にそっと横たえられた。
寝かしつけるように頭を撫でられて、私は嫌々と首を振る。まだ寝たくなかった。もう少し、この幸せな夢に浸っていたい。
「そばに、いて」
辛うじてそう告げると、彼は驚いた顔をした。ついで眉間にしわをよせ、何かを我慢するような険しい顔つきになる。
「君は魔性の女性だな。突き放したかと思えば、こんな可愛い姿を……。俺の理性を試しているのか? アデル」
言っていることが、良く分からない。
とりあえず「わたしのこと、嫌い……?」と尋ねると、シリウスはますます苦しげな顔になって胸を押えた。
「……嫌いになど、なるものか。好きすぎて……君と少しでも話がしてくて、このような真似までしてしまった」
その言葉に、ほっとする。同時に涙がこぼれた。
それを見たシリウスが、大きく目を見開く。
「……よかった」
震える涙声で告げた瞬間、きつく抱きしめられた。
「好きだ。アデル――」


