【コミカライズ配信中/4月書籍発売】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~

「さぁ、お隣の画廊へ参りますわよ~!」
 
 引きつった聖女の笑みを浮かべ、必死に愛嬌を振りまくミーティア。
 その姿が、私の目にはひどく憐れに映った。
 
 
 次にご一行が向かったのは、宮廷画家の絵が飾られた鑑賞部屋だった。
 
 煌びやかな絵画の数々に、市民が感嘆の声をあげる。

「あっ! おっきなわんちゃん!」

 母親と手を繋いでいた男の子が、突然絵画に向かって走り出した。
 
 待ちなさい! という母親の声に驚いたその子は、すってんころりん。転んで膝を擦りむき、大声で泣き出した。

 それを見ていたミーティアが、薄ら寒い聖女の笑みをたたえ、少年の膝に手をかざした。
 
 ぽうっと手元が淡く発光したあと、傷がゆっくりと塞がっていく。

 
(あれ、治りが遅いような……?)

 気のせいかな?と私は首をかしげる。

 すっかり元気になった少年が、笑顔で飛び跳ねた。

「ありがとうございます、聖女さま。ほらお前もお礼を言いなさい」

 少年はペコリと頭を下げ「聖女さま、ありがとうございます。お礼にこれあげる」と言って、ガラス玉を手渡そうとした。

 その瞬間――。
 
「さわんないでよ!」

 ミーティアがいきなり叫び、少年の手を思いっきり叩いた。
 
 パシンッという乾いた音が画廊に鳴り響く。

「やだ、サイアク。あぁ、汚い。……ったく、なんであたしが、下民相手にこんなこと」

 ヤバッという顔で、ミーティアが口をつぐむ。ようやく失言に気付いたらしい。
 
 だが、とき既に遅し――。

 
「私、帰らせて頂きます」
「あぁ、俺も。期待したのが馬鹿だった」
「結局、聖女様は噂どおり。僕たちのことを見下してるんだ」

 市民が足早に去って行く。

「あっ、お待ちになって! 違うの! 今のは違うんですのよ!」

 ミーティアの呼び止めに応える者はいない。

 きっと明日の城下町では、聖女が子どもの手を払いのけ、侮辱した話題で持ちきりだろう。

 
「帰りましょうか」

「ええ、そうですね」

 見物に訪れていた令嬢たちも次々に去って行く。私もその場を後にした。

 ちらりと振り返ると、ミーティアがドレスを両手でにぎりしめ唇を噛んでいる。
 
 
「なんでよ……どうしてこうなったの!? どうしてあたしばっかり、こんな目に遭うのよ!!」

 
 ヒステリックな叫び声は、屋敷を出てもなお響き渡っていた。