「ウォルス伯爵、早く席につきなさい」
「は、はい……」
背の高いシリウスの影から現れたのは、げっそりとやつれた顔でうなだれる小柄な男性。怪我をしているのか、右腕を三角巾で固定していた。
ウォルス伯爵。少し前まで、円卓会議に名を連ねていた貴族だ。
爵位は高くないものの、真面目で勤勉な働きぶりから、国王陛下の寵愛を受けていた忠臣。
だが主君である陛下が病に倒れ、メイナードが代理を務めるようになってから突如円卓から除名された。その空いた席に座ったのが、ダニエルの父親であるカルミア侯爵だ。
シリウスに支えられながら、ウォルス伯爵がフラフラと被告人席につく。
書記官が罪状を読み上げた。
「カルロス・ウォルス伯爵、貴殿は昨日、メイナード殿下を殺害する目的で『玉座の間』に侵入。襲撃するも、シリウス殿下に取り押さえられ、未遂に終わった。――相違はないか?」
「……はい、そのとおりで、ございます」
裁判席でメイナードが、ふんと鼻を鳴らす。
「この僕の命を狙うとは、万死に値する。カルロス・ウォルス、貴様は中央広場で斬首刑だ」
ウォルス伯爵は青ざめ、呆然とメイナードを見上げた。椅子に座っていることも出来ず、膝から床に崩れ落ちる。
「おゆるしを……おゆるしを……」とすすり泣く姿は酷く憐れだった。
「これにて閉廷。牢の中で自らの悔い改め、死をもって償え」
「――お待ち下さい」
立ち上がったメイナードを制したのは、シリウスだった。
彼はウォルス伯爵のそばに立ち、挑むように兄王子を見上げる。
「どうか伯爵にも弁明の機会を」
「……いいだろう」
再び席に座ったメイナードが、小動物をなぶるような残虐な笑みを浮かべ、顎をしゃくった。
「弁明とやらを聞いてやろう。ほらウォルス、話すが良い」
戸惑いの表情を浮かべたウォルス伯爵が、すがるようにシリウスを見上げる。「貴殿の思うとおりに話せ」という言葉に背を押され、まっすぐ前を向いて話し出した。
「私は、円卓貴族の一員として粉骨砕身の思いで職務にあたって参りました。逼迫した財政の立て直し。貧しき人々を救う手立て、貴族と平民の差をどのように埋めるのか――そんなことばかりを考え、寝食も忘れ仕事に没頭してきたのです」
最初はたどたどしかったウォルス伯爵だが、次第に感情がたかぶってきたのか、熱のこもった弁舌を振るいはじめる。
「わたしは、この国をもっと良くしたい、陛下と王族の皆様をお支えしたい。その一心で、全てを捧げてきた。なのに、なのにっ。突然、円卓から追放されたッ――!」
悔しげに拳を握りしめ、顔を歪めて血を吐くように訴え続ける。
「かわりに入ったカルミア侯爵は、ろくに仕事もしない。しかも調査すればするほど、後ろ暗いことばかり出てくる。なぜ、そんな不誠実なカルミア侯爵を円卓に加えたのか、理由をお尋ねしたく、何度も嘆願書を出しました」
シリウスが目配せすると、騎士が数人がかりで書類を運んで来た。
机上にうずたかく積み上げられた嘆願書の山。
「何百、何千枚と嘆願書をしたためました。しかしメイナード殿下は一度たりとも読んで下さらなかったッ!その時、私は悟りました」
どうせ頑張っても、無駄なのだと。
真面目さや勤勉さが、この国では……メイナードの治世では評価されないのだと。
悔しげに、そして恨めしげに、ウォルス伯爵は呟いた。
「カルミア侯爵は、メイナード殿下の婚約者である『聖女様』の推薦で、円卓入りした。とんでもない話ですよ」
ウォルス伯爵は絶望に満ちた顔で、吐き捨てるように言い切った。
「私が捧げてきた忠誠心や仕事の成果は、聖女さまの一言には敵わない。これほど虚しいことがありましょうか!」
「貴様ッ! 僕の命を狙ったばかりか、ミーティアまで侮辱するのか!」
メイナードが立ち上がり激怒する。だが負けじと、ウォルス伯爵は声を張り上げた。
「ではお聞き致しますが、殿下はなぜ、功績のある私ではなく、汚職まみれのカルミア侯爵を選んだのですか! せめて正当な理由をお聞かせ下さい!」
「そ、れは――」
メイナードは言葉を詰まらせる。視線を彷徨わせ、上手い言い訳を探しているが、思いつかないのだ。
なにしろ、カルミア侯爵が国のためにしてきた仕事や功績など、ほとんどない。仮にあったとしても、政に興味のないメイナードは知らないだろう。
さらに追い打ちをかけるように、シリウスが数枚の紙を書記官に渡した。
「は、はい……」
背の高いシリウスの影から現れたのは、げっそりとやつれた顔でうなだれる小柄な男性。怪我をしているのか、右腕を三角巾で固定していた。
ウォルス伯爵。少し前まで、円卓会議に名を連ねていた貴族だ。
爵位は高くないものの、真面目で勤勉な働きぶりから、国王陛下の寵愛を受けていた忠臣。
だが主君である陛下が病に倒れ、メイナードが代理を務めるようになってから突如円卓から除名された。その空いた席に座ったのが、ダニエルの父親であるカルミア侯爵だ。
シリウスに支えられながら、ウォルス伯爵がフラフラと被告人席につく。
書記官が罪状を読み上げた。
「カルロス・ウォルス伯爵、貴殿は昨日、メイナード殿下を殺害する目的で『玉座の間』に侵入。襲撃するも、シリウス殿下に取り押さえられ、未遂に終わった。――相違はないか?」
「……はい、そのとおりで、ございます」
裁判席でメイナードが、ふんと鼻を鳴らす。
「この僕の命を狙うとは、万死に値する。カルロス・ウォルス、貴様は中央広場で斬首刑だ」
ウォルス伯爵は青ざめ、呆然とメイナードを見上げた。椅子に座っていることも出来ず、膝から床に崩れ落ちる。
「おゆるしを……おゆるしを……」とすすり泣く姿は酷く憐れだった。
「これにて閉廷。牢の中で自らの悔い改め、死をもって償え」
「――お待ち下さい」
立ち上がったメイナードを制したのは、シリウスだった。
彼はウォルス伯爵のそばに立ち、挑むように兄王子を見上げる。
「どうか伯爵にも弁明の機会を」
「……いいだろう」
再び席に座ったメイナードが、小動物をなぶるような残虐な笑みを浮かべ、顎をしゃくった。
「弁明とやらを聞いてやろう。ほらウォルス、話すが良い」
戸惑いの表情を浮かべたウォルス伯爵が、すがるようにシリウスを見上げる。「貴殿の思うとおりに話せ」という言葉に背を押され、まっすぐ前を向いて話し出した。
「私は、円卓貴族の一員として粉骨砕身の思いで職務にあたって参りました。逼迫した財政の立て直し。貧しき人々を救う手立て、貴族と平民の差をどのように埋めるのか――そんなことばかりを考え、寝食も忘れ仕事に没頭してきたのです」
最初はたどたどしかったウォルス伯爵だが、次第に感情がたかぶってきたのか、熱のこもった弁舌を振るいはじめる。
「わたしは、この国をもっと良くしたい、陛下と王族の皆様をお支えしたい。その一心で、全てを捧げてきた。なのに、なのにっ。突然、円卓から追放されたッ――!」
悔しげに拳を握りしめ、顔を歪めて血を吐くように訴え続ける。
「かわりに入ったカルミア侯爵は、ろくに仕事もしない。しかも調査すればするほど、後ろ暗いことばかり出てくる。なぜ、そんな不誠実なカルミア侯爵を円卓に加えたのか、理由をお尋ねしたく、何度も嘆願書を出しました」
シリウスが目配せすると、騎士が数人がかりで書類を運んで来た。
机上にうずたかく積み上げられた嘆願書の山。
「何百、何千枚と嘆願書をしたためました。しかしメイナード殿下は一度たりとも読んで下さらなかったッ!その時、私は悟りました」
どうせ頑張っても、無駄なのだと。
真面目さや勤勉さが、この国では……メイナードの治世では評価されないのだと。
悔しげに、そして恨めしげに、ウォルス伯爵は呟いた。
「カルミア侯爵は、メイナード殿下の婚約者である『聖女様』の推薦で、円卓入りした。とんでもない話ですよ」
ウォルス伯爵は絶望に満ちた顔で、吐き捨てるように言い切った。
「私が捧げてきた忠誠心や仕事の成果は、聖女さまの一言には敵わない。これほど虚しいことがありましょうか!」
「貴様ッ! 僕の命を狙ったばかりか、ミーティアまで侮辱するのか!」
メイナードが立ち上がり激怒する。だが負けじと、ウォルス伯爵は声を張り上げた。
「ではお聞き致しますが、殿下はなぜ、功績のある私ではなく、汚職まみれのカルミア侯爵を選んだのですか! せめて正当な理由をお聞かせ下さい!」
「そ、れは――」
メイナードは言葉を詰まらせる。視線を彷徨わせ、上手い言い訳を探しているが、思いつかないのだ。
なにしろ、カルミア侯爵が国のためにしてきた仕事や功績など、ほとんどない。仮にあったとしても、政に興味のないメイナードは知らないだろう。
さらに追い打ちをかけるように、シリウスが数枚の紙を書記官に渡した。


