【コミカライズ配信中/4月書籍発売】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~

 騒ぎの翌日――。

 逃げ出した囚人は全員捕まり、街は平穏を取り戻した。

 だが、ほっとしたのも束の間、王都にさらなる激震が走る。

 
 ――混乱のさなか、メイナード殿下が襲撃された。

 
 これから裁判所で、メイナードを襲った反逆者の公開裁判が行われる。傍聴席には、貴族平民問わず、多くの人が集まりごった返していた。

 
(シリウス殿下、どうか。どうか……ご無事でいてください)
 

 こみあげる不安感と焦燥感に苛まれながら、私は静かに席で始まりを待った。その間にも、人々の囁き声が嫌でも耳に入ってくる。

「駆けつけた騎士の話によると、シリウス殿下が血のついた剣を持っていたそうよ」
 
「おいおいまさか、反逆者ってのはシリウス殿下なのか?」

「他に誰がいるっていうんだよ。メイナード殿下を一番恨んでいるのは、あのお方だ」

「反逆罪は大罪だぞ……。恩赦でもないかぎり、シリウス殿下は処刑だろうな」

 
 耳障りな雑音が私の心をかき乱す。
 
 込み上げる感情を飲み込むように、私はぐっと拳を握って奥歯をかみしめた。

 星空の下を一緒に歩いたあの日、シリウスは『自分を取り戻せた気がする』と晴れやかに笑っていた。だから、きっと大丈夫……。
 
 いよいよ開始時間が迫り、張り詰めた空気が室内に漂い始める。
 
 法廷の中央には被告人席。その向かいには、裁判官となる円卓貴族と王族の座る席が設けられている。それらをぐるりと取り囲むように傍聴席が並ぶ。
 
 
 定刻を知らせる鐘が鳴る。

 それと同時に扉がゆっくり開き、メイナードが姿を現わした。
 
 かたわらには、当然のようにミーティアが寄り添っている。二人とも怪我をしている様子はない。

 裁判席の前に立ったメイナードが、高らかに宣言した。
 

「これより、この私、メイナード・イヴァン・アストレアの命を狙った大罪人の裁きを行う。罪人をここに連れて参れ――!」

 直後、姿を現わした『彼』の姿に、人々が一気にざわめく。

 私は目の前が真っ暗になった。

 
 艶やかな銀髪、まっすぐ前を見つめる青い瞳。
 凜とした佇まいで中央へ歩み寄る、長身の男性。
 
 現れたのは――紛れもない、シリウス殿下その人だった。
 

 これ以上、見ていられない。
 私はこらえきれず、両手で顔を覆ってうつむいた。
 
 
(変えられなかった……。何も、変えられなかった……っ)
 
 
 じわりと涙がこみあげる。絶望に打ちひしがれ、嗚咽をかみ殺していた、その時――。

 
「これより裁判を開始する。被告人カルロス・ウォルス伯爵、前へ」
 
 聞き慣れぬ被告人の名前に、私ははっと顔を上げた。
 
 
(シリウス殿下じゃ、ない……?)