【コミカライズ配信中/4月書籍発売】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~

「オレは、(あるじ)の悲しむ顔は見たくありません。エスター嬢を失って気落ちした殿下の姿は、そりゃもう見られたものじゃありませんでしたから」

「……心配をかけた」

「従者なんですから、心配くらいさせて下さいよ。あと、恋のお手伝いもお任せを」

「それは結構だ」

 ライアンは椅子から立ち上がると「まぁまぁ、遠慮せずに、任せて下さいよ」と軽い口調で言って、パチッとウィンクした。まったく、コイツには敵わない。

「はぁ、ついに殿下にも新しい春が来ましたかぁ。羨ましい。オレにも可愛い令嬢、紹介して下さいよ~」

「ソニアと仲が良いだろう?」

「いやぁ、アイツは気が強すぎますよ。ま、可愛いところもあるんですけどね」

 まんざらでもない様子のライアンを眺めていると、突如、地鳴りのような轟音と衝撃が走った。

(地震か? いや、違う)

 椅子から立ち上がるのとほぼ同時に、執務室の扉がノックされる。許可を出すと、慌てた様子の部下が、息を切らして部屋に転がり込んできた。

 
「ご報告致します。城下町にて、市民による暴動が起こりました」

「暴動?」ライアンが眉をひそめる。

「はい。市民の武装蜂起とほぼ同時刻、何者かの手引きにより、アストレア監獄の死刑囚が数名脱走した模様です。恐らく、看守が革命家に買収されていたのではないかと思われます」

 部下の報告に、ライアンが「面倒なことに」と舌打ちした。

「急ぎ、騎士と自警団を招集せよ。王都民の避難と安全の確保を優先しつつ、事態の収拾にあたる」

 伝令を走らせると、入れ替わりで別の騎士が入室してきた。メイナード兄上付きの近衛騎士だ。

「シリウス殿下に、ご報告致します。メイナード殿下がお呼びです。至急、王座の間にお越し下さいますよう、お願い申し上げます」

「俺は城下の鎮圧にあたる。何用かは知らぬが、兄上には『参上は不可能だ』と伝えよ」

「私は『必ずシリウスを参上させよ』と、メイナード殿下から厳命されております。『もし出来なかった場合はお前の首を刎ねる』とも」

 メイナード付きの近衛騎士は青ざめながら頭を下げる。声が震えていた。騎士のあまりに可哀想な姿に、同情と兄王子への怒りがわく。

(兄上は、一体何をお考えなのか)

「分かった。指揮を他の団長職に任せた後、参上する。必ず行く故、心配するな」

 肩に手を置いて安心させると、騎士は感極まった様子で頭を下げ、出て行った。

 
「嫌な予感がします。殿下、お気をつけを」

 ライアンの言葉に、俺は深く頷いた。