ソニアが去ってしばらくしてから、殿下と連れだって外に出る。
歩いてすぐだから、送ってくれなくて大丈夫と言ったのだけど。
「もう少しそばに居たい。迷惑か」
なんて言われてしまったら、結構です、とは言えなかった。
先程までの荒れ模様が嘘のように、空は穏やかに晴れていた。
凪いだ夜空に無数の星々がきらめいている。
(あっ、流れ星)
キラリと光った流星を見つけ、私は目を閉じた。シリウス殿下が命を落としませんようにと祈り、目を開ける。すると、当の本人が不思議そうな顔でこちらを見下ろしていた。
「何をしていたんだ?」
「流れ星にお願い事をしていたんです。あっ、また! 殿下も何かお願い事をしてみてください!」
「ん? ああ」
シリウスは空を見上げ、目を閉じる。彼の長いまつげがふるりと揺れ、数秒で目を開けた。
「何をお願いしたんですか?」
好奇心に負けて尋ねる私に、シリウスは空を見上げたまま、答えた。
「この国の人々が、幸せでありますように」
迷いなく告げられた真摯な願いに、はっと息を呑む。
この人は、強く優しくて。
……なんて悲しい方なんだろう。
散々不遇な扱いを受けているのに、憎悪にとらわれず、他者を慈しむ寛大な心を持っている。
小説では悪役として描かれるだけで、裏切りの動機や目的が分からず仕舞いだったシリウス殿下。
私も最初は、彼が復讐心に駆り立てられ、反乱を起こすものだと思っていた。
……だが違った。
シリウスは、個人的な恨みで兄を殺めるような残忍な人じゃない。むしろ思慮深く善良。
そんな彼が反旗をひるがえす理由は、復讐ではなく、恐らく変革のため。
シリウスは、民をかえりみない腐敗した王室に、風穴を開けようとしている。きっと、自らの命を犠牲にする覚悟で――。
「私は……怖いです。殿下は真面目で優しいから、不安になります。人々の幸せを勝ち取るため、この国を変えようと、あなたは自分が犠牲になる道を選んでしまうんじゃないかと――」
心の叫びが、とっさに口を突いて出てしまった。出過ぎたことを言ってしまったと後悔するが、もう遅い……。
「君は、困った女性だな」
頭上から降り注ぐため息交じりの言葉に、私はうつむいた。
「出過ぎた真似を致しました。もうしわけ――」
とっさに頭を下げようとした瞬間、頬に手を添えられた。
「うつむくな」
やんわりと上を向くよう促され、私は意を決してシリウスの顔を仰ぎ見た。
てっきり呆れて怒っているものだと思っていたのに。
「どうして……笑っているのです?」
穏やかな微笑と眼差しを向けられ、戸惑ってしまう。
「呆れていらっしゃるのでは、ないのですか……?」
「呆れてなどいない。ただ、少し困っている。アデルのせいで、俺はすっかり死ぬのが惜しくなってしまった」
死という不吉な言葉に、私は息を呑む。
「歩きながら話そう」――と、シリウスが私の手を取り、薄暗い夜道を進み始めた。
歩いてすぐだから、送ってくれなくて大丈夫と言ったのだけど。
「もう少しそばに居たい。迷惑か」
なんて言われてしまったら、結構です、とは言えなかった。
先程までの荒れ模様が嘘のように、空は穏やかに晴れていた。
凪いだ夜空に無数の星々がきらめいている。
(あっ、流れ星)
キラリと光った流星を見つけ、私は目を閉じた。シリウス殿下が命を落としませんようにと祈り、目を開ける。すると、当の本人が不思議そうな顔でこちらを見下ろしていた。
「何をしていたんだ?」
「流れ星にお願い事をしていたんです。あっ、また! 殿下も何かお願い事をしてみてください!」
「ん? ああ」
シリウスは空を見上げ、目を閉じる。彼の長いまつげがふるりと揺れ、数秒で目を開けた。
「何をお願いしたんですか?」
好奇心に負けて尋ねる私に、シリウスは空を見上げたまま、答えた。
「この国の人々が、幸せでありますように」
迷いなく告げられた真摯な願いに、はっと息を呑む。
この人は、強く優しくて。
……なんて悲しい方なんだろう。
散々不遇な扱いを受けているのに、憎悪にとらわれず、他者を慈しむ寛大な心を持っている。
小説では悪役として描かれるだけで、裏切りの動機や目的が分からず仕舞いだったシリウス殿下。
私も最初は、彼が復讐心に駆り立てられ、反乱を起こすものだと思っていた。
……だが違った。
シリウスは、個人的な恨みで兄を殺めるような残忍な人じゃない。むしろ思慮深く善良。
そんな彼が反旗をひるがえす理由は、復讐ではなく、恐らく変革のため。
シリウスは、民をかえりみない腐敗した王室に、風穴を開けようとしている。きっと、自らの命を犠牲にする覚悟で――。
「私は……怖いです。殿下は真面目で優しいから、不安になります。人々の幸せを勝ち取るため、この国を変えようと、あなたは自分が犠牲になる道を選んでしまうんじゃないかと――」
心の叫びが、とっさに口を突いて出てしまった。出過ぎたことを言ってしまったと後悔するが、もう遅い……。
「君は、困った女性だな」
頭上から降り注ぐため息交じりの言葉に、私はうつむいた。
「出過ぎた真似を致しました。もうしわけ――」
とっさに頭を下げようとした瞬間、頬に手を添えられた。
「うつむくな」
やんわりと上を向くよう促され、私は意を決してシリウスの顔を仰ぎ見た。
てっきり呆れて怒っているものだと思っていたのに。
「どうして……笑っているのです?」
穏やかな微笑と眼差しを向けられ、戸惑ってしまう。
「呆れていらっしゃるのでは、ないのですか……?」
「呆れてなどいない。ただ、少し困っている。アデルのせいで、俺はすっかり死ぬのが惜しくなってしまった」
死という不吉な言葉に、私は息を呑む。
「歩きながら話そう」――と、シリウスが私の手を取り、薄暗い夜道を進み始めた。


