美しいご令嬢に引き留められ、シリウスは無表情のまま立ち止まった。
「何か?」
「わ、わたくしたち、先程のお茶会におりまして……その……メイナード殿下の言い方が、棘のあるように聞こえましたので……」
「シリウス殿下がお辛い思いをなさっているんじゃないかと、心配で……」
大きな目を潤ませ、上目遣いで話す令嬢たち。慰めの言葉を紡ぐ彼女たちを、シリウスは冷めた目で見下ろし、少しも表情を変えずに言った。
「それで?」
「えっ?」
「俺に同情しているのは分かった。だが、それで?」
「あの……」
「わたしたちは……あなた様を慰めようと」
「結構だ」
あまりにそっけない返答に、令嬢たちは言葉を失った。
そして私も、その場で固まった。
もう少しここに来るのが早かったら、あの強烈な一言を食らっていたのは私だった。
「安い同情も上辺だけの慰めの言葉も、俺には不要だ」
低い声ですっぱり言い放つ殿下と、視線が交わった。シリウスが目を見開く。
その瞬間、私はきびすを返して逃げ出していた――。
「お嬢様!?」とソニアが驚きの声を上げた。
早く、早く、この場から、シリウスのもとから離れたい。どこか遠くへ早く。
『安い同情も上辺だけの慰めの言葉も、俺には不要だ』――頭の中に、先程のシリウスの冷たい言葉が蘇る。
私の想いや言葉で、彼の心を変えることが出来たら……。傷ついた心を癒して、苦しみや悲しみを一緒に背負えたら、なんて……。
(浅はかで、傲慢で、思い上がっていたわ)
少し仲良くなったからって。私だけが彼の心を支えられる、特別な存在になれると思っていた自分が恥ずかしい。
「アデル――!」
背後からシリウスの声が聞こえたような気がした。
足を止めて振り返ろうとした、その瞬間――ピカッと稲光が炸裂した。
夜にもかかわらず、あたりが昼間のように明るくなり、ついで激しい雷鳴がとどろく。
空気を震わせるほどの轟音だった。あまりに大きな音と衝撃に、雷に打たれたかのような錯覚に陥る。
私は声も出せず、その場に倒れるようにしゃがみこんだ。
雷鳴。激しく吹き乱れる風――目の前に迫ってくる巨大な看板。ごんっという鈍い音。激しい衝撃。だんだんと動かなくなっていく体。
ゆっくりと、命を失う感覚……。
「アデルッ――!」
大きな声で名を呼ばれ、私は意識を取り戻した。
呆然と見上げた先には、珍しく焦った様子で私を抱きしめるシリウス、その隣には泣きそうな顔のソニアがいた。
「わた、し……」
「雷が落ちた瞬間、お嬢様がお倒れになって……。そこに殿下が駆けつけて下さったのです」
「シリウス、殿下……」
「医務室へ運ぶ」
突然のフラッシュバックから目覚め、ぼんやりしてしまう。
近くにある殿下の端正な顔に戸惑いつつ、働かない頭で状況を整理していると、体がふわっと浮き上がった。
「――わっ」
驚いて、とっさに目の前の肩にしがみつく。
ぴったりと触れ合った場所から体温が伝わってくる。香水よりもきつくない、爽やかで清潔な香りが鼻をかすめた。
「何か?」
「わ、わたくしたち、先程のお茶会におりまして……その……メイナード殿下の言い方が、棘のあるように聞こえましたので……」
「シリウス殿下がお辛い思いをなさっているんじゃないかと、心配で……」
大きな目を潤ませ、上目遣いで話す令嬢たち。慰めの言葉を紡ぐ彼女たちを、シリウスは冷めた目で見下ろし、少しも表情を変えずに言った。
「それで?」
「えっ?」
「俺に同情しているのは分かった。だが、それで?」
「あの……」
「わたしたちは……あなた様を慰めようと」
「結構だ」
あまりにそっけない返答に、令嬢たちは言葉を失った。
そして私も、その場で固まった。
もう少しここに来るのが早かったら、あの強烈な一言を食らっていたのは私だった。
「安い同情も上辺だけの慰めの言葉も、俺には不要だ」
低い声ですっぱり言い放つ殿下と、視線が交わった。シリウスが目を見開く。
その瞬間、私はきびすを返して逃げ出していた――。
「お嬢様!?」とソニアが驚きの声を上げた。
早く、早く、この場から、シリウスのもとから離れたい。どこか遠くへ早く。
『安い同情も上辺だけの慰めの言葉も、俺には不要だ』――頭の中に、先程のシリウスの冷たい言葉が蘇る。
私の想いや言葉で、彼の心を変えることが出来たら……。傷ついた心を癒して、苦しみや悲しみを一緒に背負えたら、なんて……。
(浅はかで、傲慢で、思い上がっていたわ)
少し仲良くなったからって。私だけが彼の心を支えられる、特別な存在になれると思っていた自分が恥ずかしい。
「アデル――!」
背後からシリウスの声が聞こえたような気がした。
足を止めて振り返ろうとした、その瞬間――ピカッと稲光が炸裂した。
夜にもかかわらず、あたりが昼間のように明るくなり、ついで激しい雷鳴がとどろく。
空気を震わせるほどの轟音だった。あまりに大きな音と衝撃に、雷に打たれたかのような錯覚に陥る。
私は声も出せず、その場に倒れるようにしゃがみこんだ。
雷鳴。激しく吹き乱れる風――目の前に迫ってくる巨大な看板。ごんっという鈍い音。激しい衝撃。だんだんと動かなくなっていく体。
ゆっくりと、命を失う感覚……。
「アデルッ――!」
大きな声で名を呼ばれ、私は意識を取り戻した。
呆然と見上げた先には、珍しく焦った様子で私を抱きしめるシリウス、その隣には泣きそうな顔のソニアがいた。
「わた、し……」
「雷が落ちた瞬間、お嬢様がお倒れになって……。そこに殿下が駆けつけて下さったのです」
「シリウス、殿下……」
「医務室へ運ぶ」
突然のフラッシュバックから目覚め、ぼんやりしてしまう。
近くにある殿下の端正な顔に戸惑いつつ、働かない頭で状況を整理していると、体がふわっと浮き上がった。
「――わっ」
驚いて、とっさに目の前の肩にしがみつく。
ぴったりと触れ合った場所から体温が伝わってくる。香水よりもきつくない、爽やかで清潔な香りが鼻をかすめた。


