シリウスは特に気にした様子もなく、いつも通りクールな無表情のまま。毅然と兄を見下ろしている。
「家臣の進言を無下にするのは、国にとっても、兄上にとっても、得策とは思えません」
「義弟のくせに、僕を叱るつもりか! 何様だ、わきまえろ」
「苦言を呈する者こそ、真の臣下。それに真摯に向き合うことこそ、王の責務だと私は考えております」
「はははっ! 王になれないお前が、王の責務を語るか。――不愉快だ」
メイナードは憎らしげに口元を歪めると、憤怒を秘めた目でシリウスを睨み上げ、言い捨てた。
「いい加減にしろ! 再び戦場送りになりたくなければ、今後一切、僕に意見するな。そして一刻も早くここから立ち去れ、目障りだ」
シリウスは諦めたように軽く目を閉じ一礼すると、部屋から出て行った。
サロンを覆っていた緊張が解け、固唾を呑んで見守っていた人々が談笑を再開する。
「はぁ、あいつは小言が多すぎる。話していると疲れるよ」
「メイナードさま、わたくしがついていますわ」
「ありがとう、ミーティア。そうだ、近々またあいつを戦場送りにしてやろう」
膝の上にいる恋人を甘やかす第一王子。頬をそめて身を預ける聖女。
第一王子にこびへつらい、政から目をそむけ保身に走る貴族や廷臣。
何より酷いのは、シリウスに対するメイナードのあの酷い態度。
シリウスは、国の未来と兄の治世を憂い、自分が悪者になってまで意見したというのに……。
腹が立って、やりきれない。
(冷静にならなきゃ)
私はうつむいて目を閉じ、感情を必死に抑えた。
シリウスの死を防ぐには、市民の暴動を未然に防ぐだけでは足りない。
メイナードへの憎しみを取り除かなければ、今回の反乱イベントを回避したとしても、再び彼は兄に剣を向けてしまう。
(シリウス殿下の心を癒したい。でも、妹への憎しみを消せない私が、何を言ってあげられるのかしら……)
答えが出ないまま、お茶会は終了となった。
会場を出ると、窓の外はもうすっかり夜。強風と激しい雨が降りそそぎ、時折、雷鳴が轟く。
(『前』の私が死んだ日も、確かこんな荒れた天気だったわね)
死ぬ直前の、あの恐ろしい光景を思い出してしまう。
「お嬢様、顔色がすぐれませんが、大丈夫ですか?」
ソニアが私の顔をのぞき込み、背中にそっと手を添える。
「大丈夫よ。でもこの天気だと、すぐ帰るのは無理そうね」
「ええ、そうですね」
「待っている間、行きたいところがあるの」
「はい、どこへでもお供致します」
私は聖女離宮から続く回廊をわたり、敷地内にある騎士団本部の詰め所へ向かった。
彼にかける言葉は、まだ思いつかない。無駄足になるかもしれない。
それでも、自分から動かなきゃ――。
運命は変えられない。
視線の先にシリウスの姿を見つけた。けれど、先客がいたようだ。
「シリウス殿下、お待ちになって下さいませ!」
「わたくしたち、殿下に少々、お話したいことがあるのです」
彼に駆け寄る令嬢たちの姿が見えて、私は立ち止まった。
「家臣の進言を無下にするのは、国にとっても、兄上にとっても、得策とは思えません」
「義弟のくせに、僕を叱るつもりか! 何様だ、わきまえろ」
「苦言を呈する者こそ、真の臣下。それに真摯に向き合うことこそ、王の責務だと私は考えております」
「はははっ! 王になれないお前が、王の責務を語るか。――不愉快だ」
メイナードは憎らしげに口元を歪めると、憤怒を秘めた目でシリウスを睨み上げ、言い捨てた。
「いい加減にしろ! 再び戦場送りになりたくなければ、今後一切、僕に意見するな。そして一刻も早くここから立ち去れ、目障りだ」
シリウスは諦めたように軽く目を閉じ一礼すると、部屋から出て行った。
サロンを覆っていた緊張が解け、固唾を呑んで見守っていた人々が談笑を再開する。
「はぁ、あいつは小言が多すぎる。話していると疲れるよ」
「メイナードさま、わたくしがついていますわ」
「ありがとう、ミーティア。そうだ、近々またあいつを戦場送りにしてやろう」
膝の上にいる恋人を甘やかす第一王子。頬をそめて身を預ける聖女。
第一王子にこびへつらい、政から目をそむけ保身に走る貴族や廷臣。
何より酷いのは、シリウスに対するメイナードのあの酷い態度。
シリウスは、国の未来と兄の治世を憂い、自分が悪者になってまで意見したというのに……。
腹が立って、やりきれない。
(冷静にならなきゃ)
私はうつむいて目を閉じ、感情を必死に抑えた。
シリウスの死を防ぐには、市民の暴動を未然に防ぐだけでは足りない。
メイナードへの憎しみを取り除かなければ、今回の反乱イベントを回避したとしても、再び彼は兄に剣を向けてしまう。
(シリウス殿下の心を癒したい。でも、妹への憎しみを消せない私が、何を言ってあげられるのかしら……)
答えが出ないまま、お茶会は終了となった。
会場を出ると、窓の外はもうすっかり夜。強風と激しい雨が降りそそぎ、時折、雷鳴が轟く。
(『前』の私が死んだ日も、確かこんな荒れた天気だったわね)
死ぬ直前の、あの恐ろしい光景を思い出してしまう。
「お嬢様、顔色がすぐれませんが、大丈夫ですか?」
ソニアが私の顔をのぞき込み、背中にそっと手を添える。
「大丈夫よ。でもこの天気だと、すぐ帰るのは無理そうね」
「ええ、そうですね」
「待っている間、行きたいところがあるの」
「はい、どこへでもお供致します」
私は聖女離宮から続く回廊をわたり、敷地内にある騎士団本部の詰め所へ向かった。
彼にかける言葉は、まだ思いつかない。無駄足になるかもしれない。
それでも、自分から動かなきゃ――。
運命は変えられない。
視線の先にシリウスの姿を見つけた。けれど、先客がいたようだ。
「シリウス殿下、お待ちになって下さいませ!」
「わたくしたち、殿下に少々、お話したいことがあるのです」
彼に駆け寄る令嬢たちの姿が見えて、私は立ち止まった。


