【コミカライズ配信中/4月書籍発売】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~

 ミーティアの友人になってから、頻繁に聖女離宮へ招待されるようになった。

 茶会は聖女さまのご機嫌伺いばかりで、毎回うんざり……。それでも、ミーティアの悪事を暴き、未来を変えるチャンスを得るために通った。

 そんなある日、退屈な茶会に意外な人物が現れた。

「まぁ、メイナードさま! いらして下さったのね!」
 
 優雅な足取りで応接間に現れた男性――メイナードの来訪に、ミーティアは頬を薔薇色に染めて立ち上がった。
 

「お仕事は、もうよろしいの?」

「ああ。今日は終わりにしたよ。僕の愛しい聖女。会いたかった」

「今朝もお会いしたのに、ふふっ」

「たとえ数時間でも、君に会えないのは地獄さ。君は寂しくないの?」

「寂しいに決まっていますわ! でも、頑張って我慢しているんですの」

「あぁ! なんて健気なんだ」


 令嬢や貴族もいる中、公然とのろける二人。甘ったるい会話を聞きながら、私はメイナードをこっそり観察した。小説のキャラとしては知っているが、実物を見るのは初めてだった。


 ウェーブがかった巻き毛の茶髪。切れ長な瞳のシリウスとは真逆で、垂れ目の甘い顔立ち。まばゆいばかりの華やかな雰囲気。

 シリウスが月ならば、メイナードは太陽みたいな男性だった。

 
「さぁ、ミーティア。おいで」
 
 メイナードは甘やかな顔にさらに甘ったるい笑みを浮かべ、ミーティアを膝に乗せた。

 焼き菓子を摘まみ、婚約者の口にうやうやしく運ぶ。


 いわゆる、あーん状態。


(小説で読む分にはいいけど、生で見るイチャラブ溺愛はきっついわ!)


 あまりの猛愛っぷりに胸焼けがする。
 
 聖女を膝に乗せたメイナードの元に、廷臣がやってきて何か耳打ちした。メイナードは煩わしいといった様子で追い払う。

 さっきから、五回以上はこのやり取りを繰り返していた。

「はぁ、うるさい奴らだ。やれ会議に出ろだの、書類仕事が溜まっているだの。この僕を誰だと思っているのか」

「まぁ! 不敬な家臣たちですわね!」
 
 
 部屋の外が騒がしくなり、応接間の扉が開いた。

 外の空気をともなって現れたのは、公務用の礼服を身にまとったシリウスだった。
 
「ご歓談中、失礼致します。メイナード兄上、公務にお戻り下さい」

「今日の仕事は終わりだ。許可なく聖女離宮に立ち入るとは、身の程をわきまえろ、シリウス」

「無礼をお許し下さい。ですが、何度使いを出しても、兄上が公務に戻らないと家臣に泣きつかれたため、致し方なく。急ぎ目を通して頂きたい嘆願書がございます。どうか、お戻りを」

「嘆願書? あんなもの、いちいち僕が見る必要はない」

「兄上」

「特にウォルス伯爵は、本当に煩わしい。何度も『円卓に戻してくれ』と言って、書面をよこしたり面会を求めてくる。まったく、迷惑なことだ」

 家臣を貶める発言に、シリウスが眉をひそめる。

 それを見たメイナードが、ミーティアの腰を抱きながらニヤリとした。

「そんなに嘆願書が気になるなら、お前が見てやるといい。あぁ、そうか。僕と違って、お前は陛下の代理印を使えないんだったな!忘れていたよ、はははっ!」

 何がおかしいのか、メイナードがケラケラ笑う。
 
 それに(なら)って、サロンに集っていた人々がさざ波のように笑い声を上げた。

 メイナードがシリウスを毛嫌いしている事は知っていた。けれど、まさか公然と笑いものにするなんて……。

 
【黒薔薇姫】では麗しのプリンスとして描かれていた第一王子(メイナード)。しかし現実の彼は、出来の良い弟に嫉妬する、ただの残念王子にしか見えなかった。