「先週末、あなたを王都ホテルでお見かけ致しました。たしか薄緑のドレスを着て、ザクセン侯爵子息とご一緒でしたわね」
「そ、れは」
伯爵令嬢の顔が一気に青ざめる。対照的に、伯爵令嬢の隣に座る別の令嬢が、怒りで顔を真っ赤に染め上げた。
「ちょっと、あなた私の婚約者と会ってたって、どういうこと!?」
「わ、わたくし、あの方とお茶をしていただけで、別に浮気じゃないわ!」
「ハッ、私、浮気だなんて一言もいってないけど? やましいことがあるから、そんな言葉が出るんでしょ!」
「いっ、いいがかりはやめてくださるっ!?」
伯爵令嬢と、その隣の令嬢が言い争いを始める。
それを眺めながら、他の令嬢たちがヒソヒソ陰口を叩く。
「いやだわ。あの人、浮気してたの?」
「友達の婚約者を取るなんてどういう神経してるのかしら」
「聖女様のお気に入りだからって偉そうにしてたけど、もう終わりね」
私の悪口を言っていた令嬢たちが、標的を伯爵令嬢へと変えた。
(どうぞ、いつまでも身内で仲良く、言い争って下さい)
ことの成り行きを見守っていた私に、伯爵令嬢が牙をむいた。
「ぜ、全部シレーネ令嬢の見間違いよッ!」
私は澄まし顔で、騒ぎ立てる伯爵令嬢に向かって静かに告げる。
「私、記憶力が良いのです。人の顔、名前、好きなもの、嫌いなもの、誰がいつ・どこで・なにを・だれと、どんな風に行っていたか、覚えているんです。それに、情報を仕入れて売るのは商売人の基本ですから、自然と情報も集まって参りますし」
にっこり邪気のない笑顔を浮かべて、言った。
「お望みであれば、もっと詳しく、お話し致しましょうか?」
――伯爵令嬢だけじゃなく、あなたたち全員の秘密を、ね。
言外にそう含めれば、令嬢たちは全員もれなく顔をひきつらせた。
ただひとり、ミーティアだけが愉快そうに笑っている。
あれは、お気に入りのおもちゃを見つけた時の顔。きっと、私の情報力に利用価値を見いだしたのだろう。
ソニアの報告で、ミーティアが社交界の新星『アデル・シレーネ』に興味を持ち、身辺調査をしているのは知っていた。さらに私の死を疑っていないことも把握済み。
「わたくし、あなたを気に入りましたわ、アデル」
聖女のほほ笑みを浮かべたミーティアが、ことさら優しい声音で言った。
「わたくしの『お友達』になってくださる?」
昔から姉の物を何でも欲しがり、挙げ句の果てに無実の罪を着せて死に追いやった。強欲で残忍な、悪魔のごとき聖女。
憎き敵の誘いを、私は――。
「光栄ですわ、聖女様」
笑顔で受け入れた。
「ミーティア様! この平民を私たちの仲間にいれるのですか!」
立ち上がり抗議をあげたのは、先ほど不倫がばれた伯爵令嬢だった。
ミーティアはゆっくりと彼女を見上げると、目をぱちくりさせて首をかしげる。
「あら? あなた、どなたでしたかしら?」
使えない駒を、忘却の彼方に切り捨てた。
青ざめ呆然とする伯爵令嬢を、侍女達がやんわり立ち上がらせ、部屋から追い出しにかかる。
「許さない! 許さないんだから! あんたは、聖女じゃなくて悪魔よ――ッ!」
そう伯爵令嬢が叫んだあと、扉が閉まり、あたりは静かになった。
「さぁ、お茶会の続きをいたしましょう」
ミーティアの一声で、令嬢たちが表向きは何事もなかったかのように話し始める。しかし全員、顔はひきつり指先が細かく震えていた。
聖女にとって使えない『お友達』は、即刻追放される。
真綿で首を絞められるような恐怖が、部屋中に充満していた。
私は無邪気にはしゃぐミーティアを見る。
(今のうちに、幸せなシナリオを謳歌しておきなさい)
清らかな聖女の笑みで罪を隠す妹と、背後に刃を握りしめ笑顔で忍びよる姉。
互いに仮面で本性を隠した姉妹は、この日から友人になった。
「そ、れは」
伯爵令嬢の顔が一気に青ざめる。対照的に、伯爵令嬢の隣に座る別の令嬢が、怒りで顔を真っ赤に染め上げた。
「ちょっと、あなた私の婚約者と会ってたって、どういうこと!?」
「わ、わたくし、あの方とお茶をしていただけで、別に浮気じゃないわ!」
「ハッ、私、浮気だなんて一言もいってないけど? やましいことがあるから、そんな言葉が出るんでしょ!」
「いっ、いいがかりはやめてくださるっ!?」
伯爵令嬢と、その隣の令嬢が言い争いを始める。
それを眺めながら、他の令嬢たちがヒソヒソ陰口を叩く。
「いやだわ。あの人、浮気してたの?」
「友達の婚約者を取るなんてどういう神経してるのかしら」
「聖女様のお気に入りだからって偉そうにしてたけど、もう終わりね」
私の悪口を言っていた令嬢たちが、標的を伯爵令嬢へと変えた。
(どうぞ、いつまでも身内で仲良く、言い争って下さい)
ことの成り行きを見守っていた私に、伯爵令嬢が牙をむいた。
「ぜ、全部シレーネ令嬢の見間違いよッ!」
私は澄まし顔で、騒ぎ立てる伯爵令嬢に向かって静かに告げる。
「私、記憶力が良いのです。人の顔、名前、好きなもの、嫌いなもの、誰がいつ・どこで・なにを・だれと、どんな風に行っていたか、覚えているんです。それに、情報を仕入れて売るのは商売人の基本ですから、自然と情報も集まって参りますし」
にっこり邪気のない笑顔を浮かべて、言った。
「お望みであれば、もっと詳しく、お話し致しましょうか?」
――伯爵令嬢だけじゃなく、あなたたち全員の秘密を、ね。
言外にそう含めれば、令嬢たちは全員もれなく顔をひきつらせた。
ただひとり、ミーティアだけが愉快そうに笑っている。
あれは、お気に入りのおもちゃを見つけた時の顔。きっと、私の情報力に利用価値を見いだしたのだろう。
ソニアの報告で、ミーティアが社交界の新星『アデル・シレーネ』に興味を持ち、身辺調査をしているのは知っていた。さらに私の死を疑っていないことも把握済み。
「わたくし、あなたを気に入りましたわ、アデル」
聖女のほほ笑みを浮かべたミーティアが、ことさら優しい声音で言った。
「わたくしの『お友達』になってくださる?」
昔から姉の物を何でも欲しがり、挙げ句の果てに無実の罪を着せて死に追いやった。強欲で残忍な、悪魔のごとき聖女。
憎き敵の誘いを、私は――。
「光栄ですわ、聖女様」
笑顔で受け入れた。
「ミーティア様! この平民を私たちの仲間にいれるのですか!」
立ち上がり抗議をあげたのは、先ほど不倫がばれた伯爵令嬢だった。
ミーティアはゆっくりと彼女を見上げると、目をぱちくりさせて首をかしげる。
「あら? あなた、どなたでしたかしら?」
使えない駒を、忘却の彼方に切り捨てた。
青ざめ呆然とする伯爵令嬢を、侍女達がやんわり立ち上がらせ、部屋から追い出しにかかる。
「許さない! 許さないんだから! あんたは、聖女じゃなくて悪魔よ――ッ!」
そう伯爵令嬢が叫んだあと、扉が閉まり、あたりは静かになった。
「さぁ、お茶会の続きをいたしましょう」
ミーティアの一声で、令嬢たちが表向きは何事もなかったかのように話し始める。しかし全員、顔はひきつり指先が細かく震えていた。
聖女にとって使えない『お友達』は、即刻追放される。
真綿で首を絞められるような恐怖が、部屋中に充満していた。
私は無邪気にはしゃぐミーティアを見る。
(今のうちに、幸せなシナリオを謳歌しておきなさい)
清らかな聖女の笑みで罪を隠す妹と、背後に刃を握りしめ笑顔で忍びよる姉。
互いに仮面で本性を隠した姉妹は、この日から友人になった。


