翌日、王宮におもむき招待状を見せると、聖女離宮へ案内された。
メイナードは、王宮の敷地内にミーティア専用の屋敷、通称『聖女離宮』を建てた。
今日のパーティの目的は、完成した離宮を人々に見せびらかすためだろう。
聖女離宮は、豪華絢爛だった。
(これを建てるために、一体どれほどの税と労役が費やされたんだろう……)
「アデル様はこちらへ。サロンで聖女様がお待ちです」
侍女に案内され、離宮の奥へ奥へと進む。
ホールでは優雅な調べに乗って紳士淑女が踊り、その隣では宮廷画家の絵画鑑賞会。さらに横の談話室では、カード遊びなどの賭け事が行われているようだ。
それらを全部素通りして案内されたのは、中庭が一望できる二階の小部屋。
入室すると、貴族令嬢たちが丸いテーブルを囲んで談笑していた。
「あら、あなたがアデル・シレーネさんですわね。ようこそ。さぁ、こちらへいらして」
私に気付いたミーティアが、にっこり笑って手招きする。アデルになってから彼女と話すのは初めてだ。
(用心しなくちゃ)
「お招き下さり、ありがとうございます」と告げて着席する。それと同時に目の前にティーカップが運ばれてきた。
「あらあら、緊張している? ミーティアさまは寛大なお方。あなたのような平民にもお優しいのよ。さぁ、遠慮せずお飲みになって」
ミーティアの隣に座る伯爵令嬢が、目を細め、含み笑いを浮かべながら紅茶を勧めてくる。
ぐるりと見わたすと、私以外みんな貴族令嬢。
(あぁ、そういうことね)
私がここに呼ばれた理由が、やっと分かった。
(社交界で目立つ私に警告したいのね――平民のくせに出しゃばるな、って)
心配そうにこちらを見つめるソニアに、大丈夫よ、と目で合図を送る。
飲まずに変な因縁を付けられても困るし、口をつけるふりをしようと、私はカップを持った――そのとき。
取っ手が器から外れ、ガシャンと音を立て中身がこぼれた。
熱いしぶきが跳ね、ドレスが茶色くにじむ。
「お嬢様、大丈夫ですか。すぐ冷やす物を」
「ありがとう、ソニア。私は大丈夫よ。それより、このカップを片付けてくれるかしら」
「かしこまりました」
「みなさま、お騒がせ致しました」
冷静かつ淡々と謝辞を述べる私に、その場は一瞬静まり返った。
彼女たちにしてみれば、戸惑い取り乱す姿が見たかったのかもしれない。
我に返った伯爵令嬢が、小馬鹿にしたように、ふんっと鼻をならした。
「いやだわ。カップを落とすなんて、淑女として恥ずかしくないのかしら。まだ病気が治っていないのではなくて?」
「おやめなさい。シレーネさまに失礼ですわよ」
伯爵令嬢の無礼をたしなめるミーティアに、その場にいた令嬢たちが「お優しい」だの「まさに聖女さまだわ」なんて賞賛を送る。
(類は友を呼ぶというけれど。ミーティアも、よくもまぁこれだけ人柄の『よろしい』お友達を集められるものね)
張り合うのも馬鹿馬鹿しい。けれど、言われっぱなしで嫌がらせがエスカレートしても面倒。
(すこし釘をさしておかなきゃね。安易にこちらに手を出すと、どうなるのか)
私は凜と通る声で、部屋に充満する陰口のひそひそ声を切り裂いた。
「お気遣い、ありがとうございます。おかげ様で病気はすっかり良くなりました。――それにしても、この紅茶、とても良い香りですわね」
こぼしてしまったのが残念ですわ、と暢気に言う私を、その場にいた全員がいぶかしげに見ている。
「紅茶と言えば……そうだわ」
私は視線を、ミーティアの隣に座る伯爵令嬢へと向けた。
メイナードは、王宮の敷地内にミーティア専用の屋敷、通称『聖女離宮』を建てた。
今日のパーティの目的は、完成した離宮を人々に見せびらかすためだろう。
聖女離宮は、豪華絢爛だった。
(これを建てるために、一体どれほどの税と労役が費やされたんだろう……)
「アデル様はこちらへ。サロンで聖女様がお待ちです」
侍女に案内され、離宮の奥へ奥へと進む。
ホールでは優雅な調べに乗って紳士淑女が踊り、その隣では宮廷画家の絵画鑑賞会。さらに横の談話室では、カード遊びなどの賭け事が行われているようだ。
それらを全部素通りして案内されたのは、中庭が一望できる二階の小部屋。
入室すると、貴族令嬢たちが丸いテーブルを囲んで談笑していた。
「あら、あなたがアデル・シレーネさんですわね。ようこそ。さぁ、こちらへいらして」
私に気付いたミーティアが、にっこり笑って手招きする。アデルになってから彼女と話すのは初めてだ。
(用心しなくちゃ)
「お招き下さり、ありがとうございます」と告げて着席する。それと同時に目の前にティーカップが運ばれてきた。
「あらあら、緊張している? ミーティアさまは寛大なお方。あなたのような平民にもお優しいのよ。さぁ、遠慮せずお飲みになって」
ミーティアの隣に座る伯爵令嬢が、目を細め、含み笑いを浮かべながら紅茶を勧めてくる。
ぐるりと見わたすと、私以外みんな貴族令嬢。
(あぁ、そういうことね)
私がここに呼ばれた理由が、やっと分かった。
(社交界で目立つ私に警告したいのね――平民のくせに出しゃばるな、って)
心配そうにこちらを見つめるソニアに、大丈夫よ、と目で合図を送る。
飲まずに変な因縁を付けられても困るし、口をつけるふりをしようと、私はカップを持った――そのとき。
取っ手が器から外れ、ガシャンと音を立て中身がこぼれた。
熱いしぶきが跳ね、ドレスが茶色くにじむ。
「お嬢様、大丈夫ですか。すぐ冷やす物を」
「ありがとう、ソニア。私は大丈夫よ。それより、このカップを片付けてくれるかしら」
「かしこまりました」
「みなさま、お騒がせ致しました」
冷静かつ淡々と謝辞を述べる私に、その場は一瞬静まり返った。
彼女たちにしてみれば、戸惑い取り乱す姿が見たかったのかもしれない。
我に返った伯爵令嬢が、小馬鹿にしたように、ふんっと鼻をならした。
「いやだわ。カップを落とすなんて、淑女として恥ずかしくないのかしら。まだ病気が治っていないのではなくて?」
「おやめなさい。シレーネさまに失礼ですわよ」
伯爵令嬢の無礼をたしなめるミーティアに、その場にいた令嬢たちが「お優しい」だの「まさに聖女さまだわ」なんて賞賛を送る。
(類は友を呼ぶというけれど。ミーティアも、よくもまぁこれだけ人柄の『よろしい』お友達を集められるものね)
張り合うのも馬鹿馬鹿しい。けれど、言われっぱなしで嫌がらせがエスカレートしても面倒。
(すこし釘をさしておかなきゃね。安易にこちらに手を出すと、どうなるのか)
私は凜と通る声で、部屋に充満する陰口のひそひそ声を切り裂いた。
「お気遣い、ありがとうございます。おかげ様で病気はすっかり良くなりました。――それにしても、この紅茶、とても良い香りですわね」
こぼしてしまったのが残念ですわ、と暢気に言う私を、その場にいた全員がいぶかしげに見ている。
「紅茶と言えば……そうだわ」
私は視線を、ミーティアの隣に座る伯爵令嬢へと向けた。


